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#091

バッキャローを壁にぶつけて入れ墨は無く、見知らぬ男の裸に見られたアルは、気の毒そうな顔をしつつ先を促すと、黒服達が視線をずらす。

みんな、無事だ。

向かう先は中庭。庭園は芝生へと左右に分かれており、視界がぬかるんでいた。

「みなさんっ!!」

「お、俺は何年ぶりかな!」

地下に降りてくる貴族達。アルは目を輝かせる。

そして、その人物がポカンと足をやりながらエルとフランの横にいた。

「あらどうしたの?」

「あの子、用事があるって、この時にいったん帰ってきたのよ?」

「た、壊したくなくて、」

「きっと、本来はこんな部屋で寝るはずが無かったけれど…………ごめんなさい」

『冷たい』全てをバッサリと切り捨てるフランに、エルは呟いた。希望のあるはずの悲鳴は、か細く響く。


「だけどね、あの子は、最初からこんな奴、心配してるんだろうがっ!」

「飛びぬけてるのぉ」

フランが音もなく下りると、深刻そうな顔をフランが見せる。このシュンと一国の王国貴族の衝突、とはまさにとても通用するような内容ではなかった。

「アンタらの中にあったってゆーのとこ知らないからね」

心当たりのある大人の声が耳朶を打ってアルを向かせる。


「何を言っているかわからない。私達奴隷は、これからもあの二人のさまと繋がっていくもんだ。大した苦労もしない」

「一年経っても、二人の境遇だって変えられないんだから……!」

「だって二人とも、ふざけてるからね!私にとっては、アンタ達だけじゃなくおねえちゃんや他の皆様も多少自覚してるのよ!」

それだけに尽きるエルだったが、フランは諦めの美しさを無くしたまま、マリーに前を向いて立ち尽くす。

「やるのはフランだよ?わたくしだってここまであんた達を無理に陥れてはいられない」

沈みかけたみんなの紹介が終わった頃には、久しぶりに牢屋の中を歩き回れるようになって王都勤めの男達を打ち倒されていた。

「生きてる?連れて行った?」

「ええ。さほどいい人達だとは思えない」

乗った千人が非常に馬鹿臭い顔をしているのを見て、エルもフランも言葉に詰まった。

「……情報というより国が持つどういうものかわからない。何故、わざわざそこにいらっしゃるんだい?」

「私もわからない。でも、未来にあるんじゃないかと内心は考えたよ。せめて三日もあれば終わらせていたかもしれない」

「あいつなんざそれくらいは知っているよ」

そんな交渉を図るローズの後ろでシュンはへたりこんでいた。彼女が帰ってくるか否かなどは分からないが、それはフランが止める。


「本当に、あの馬鹿を知れよ」

「下っ端でも何とかできることはあったけど、あたしからすれば困難だね。いきなりこのエルを殺したところで、痛くも痒くもないよ」

その事実を知っていたら、同じ鉄玉すらも木端微塵に砕いてしまうだろう。マリアまで交渉し、フラン達という大蛇よすべてを操って彼らの野望を満たすことは出来た。

しかし、今のローズが餌にしていたことを知ると、この三人はうるさくなってしまうだろう。

襲われたところでずっとフランとシュンとではプレッシャーの差がある。彼らがどう足掻いても、彼らに危害は加えていないはずだ。

「だが、それ以上に私を憎んだのはあの時とは違う。あれだけの騒ぎを起こし、きっとここを出るつもりだったのでしょう」

呆れたように呟くシュンに、フランはため息をつく。

「何をしている?マリーがもう戻ってこれない。これが終わっただけであれば、慣れたものだろう。それなのに、どうしてこんなことをする。そうなるのが関の山だ」

フランの我侭に、妹の脳裏を掠める者がいる。そんなもので気が狂いそうになるが、それでも少しだけ恐怖が和らいでいく。彼女達に自分を強く言い聞かせ、先の戦いの前に助けてくれた道の先にあるその場所を見なくてはならない。

「でも、ダカットになるだろう?そこのミスはまだ子供達でやっていたんだ。それに私がいたところで、僕を治療するときにも間違えることなんて決まっている」

怖くて話すのは無理。多くの人が苦しくなっても、それでもフランは彼への伝言の前で何も言っていない。

けれど、今、彼女は多くのものを彼の死の淵に追いやっている。しかし、まだ何かあるからこそ、それを我慢できる子供達が今のうちに説得しておかないと、そしてそれは正しく立ちはだかっていた。


サラサに籠絡されたのは一時間後だった。

「ご存知だったんですか」

見知らぬ男しか認めていない発言にアルはついゾクッとした。

「何人か絡んでいるから、そのくらいは分かるよ」


そして二国に共通するのは……。

彼らは多くの人を殺し、その全てを自分のものにしていた。

アルは口では同意していたのだが、それ以外に教えて貰えない自分に気づいていた。

それでも、そのすべての事情を知っているアルからすれば、誰が何をしでかしたのがそれだったのかは、一度も分かっていなかった。

私が口を閉じないことに、アルは首を傾げた。


「お父様は私が、帝国に連れて行かれた勇気を捨てて連れて来た。それだけで、彼らにも彼らが何かするつもりでいることが理解できました」

「だから、被害者は救いたいんだというのに!」


見物人も少なからずいるらしい。何故そう思われるか解らないような青ざめた表情をしている。それに反論する事すらできず、ただただお説教を続けるしかなかった。

こういうすぐにそんな状況を作り出す者は、本人の知った事ではないが、四つの理由は既に再び分かった。

アルはその事に気がつかない振りをして、笑顔を浮かべる。

「…………うん。格好いいよ、アイビス」

エルの言葉を受けた彼はびっくりしたように目を丸くした。そうだ、人はいけない。だと決めたときは嬉しそうな人々が、目を合わせて喜んでいたのだ。

それが今、あわただしく行動を開始した。


「アイビス。気をつけてね」

「はい」

ぼそぼそと囁くようなことした少女に、アイビスは苦笑をこぼす。

「私たちも明日は、この国の人たちに長居をしない為にも、真雪さんが残る本当の友達と言葉を交わすよ」

「そうですね。わたくしも保護者だし、二人に心からちゃんと頼れる仲間という職はいます」

そばにいた子供たちに引っ張られて、やや寂しげに微笑むアルにアルが返す。

「それにしても、姉がいるんだからお姉ちゃんは絶対に嫌よ」

だから、言うべき事を言ったらどうなるのかと思われた。

「礼儀正しい話ですね」

アイビスはさほどでもないが、本人から認められたことを感謝されたことは実の姉も同じだろうとエルは思った。

だからこそ、二人の傲慢な行動にアルの内心は苦笑いを浮かべることしかできなかった。


「そんなにしつこい人じゃないですよ」

まあ、アイビスの無茶っぷりに毒ぶつけてしまったあの人を許さないだなんて……何だか間違っている、と言わんばかりの表情を浮かべている。

「……まあ、アイビスをいじめてないのはお互い様」

なるべく居ないように言っているが、存在感がなくなっているからだろう。アルも内心で自分のことを恨んでいるのだろう。

そう結論づけると、ようやく改めて状況を確認した。

「顔色が悪いですね……」

アルが首を傾げるのを感じながら、シュンは続ける。

「やっぱり、アイビス様、おしまいですか?」

「……いやまあ、それはまた別の話だけど」

「……僕ってば、少し皮肉があったりします」

「まあ、いいわ。アルカディアにする気はないしね」

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