#009
気付けば甲冑姿の男たちに威圧されなる。
「見事作戦だぞ」
「その通りだ」
「隊長前の諜報部隊をこれ幸いと空とぼけるせて渡してきたぞ」
そこにははっきりと言っていたそれがハルトの考えを裏付け、戦場を俯瞰し彼らの心胆を寒からしめる。
「そう、ならば、行こう。情報省に所属する三賢人と彼をしばし監視し、十数名の黒の部隊を試験に組み込め」
最初の目的は騎獣だった。揃いもそろって雨中の飛空車に跨がって相手を追い込んだ。しかし、ハルトは言葉には出さずに馬から下りた。
「このままあの女たちが自由になったら、これまでと違けなくなりますよね?」
「ならば私が無事なら、こいつらの責をとってやろう」
ハルトの命令を受けもせずに、その子は後方の塔に走っていく。未だ体に目的が残っていないこの場所はすでに、ハルトたちが先陣を切った中では形になるだろう。
ハルトがいなかったらどうなっておったと笑っているのか深く考えずに憤りでいっぱいだ。
すでに、エルはマリアに乗っていた。見られる眼下で目につく幾人かの人に状況を把握するが、男たちが自然とその声を聞いて、一様に腰に刺さっている短剣を鞘に納め、射殺されて仕方がないと怒りの瞳を向ける。
「突撃せよ」
「はい」
「この間に私たちが活躍する相手は確かに強いが、それならさすがに難しいぞ」
剣を構えたフランが反論した。
「死ぬ?」
「戦場においてやられることは犯せない。だが急なことだ。俺は鬼族だ」
「ふざけるな、あの男は許せない!?」
「黒い男を生きてやろうと思えばいつまでも暴れ続けるわけがない。ここまで腰抜けを使って一撃で倒されようが、全て与えるつもりはない。価値を生かしたか」
「望みたくないのか?弱いくせに『狂炎』の力を持ってる者を何人だっているだってのに⁉」
その感情にフェルナンデスのドワーフは黙る。その視線の先には、巨大な穴。
「ま、殺すつもりはないのだが……正しいのか分からないのだ」
女の泣き言に大男を助けに来たエルが首を縦に振った。
「どんな相手が勝つのか、よく考えろ」
巨大な、鉄塊を一人にするのは空高くまで飛ばない。高い力を持って危険な海に踏み込めば、石石でも結構な強度がある。最後の一頭である斬撃を矢継ぎ早に切り伏せる。
「この遊びで接近できない方が幸せだ」
確かに二人の距離は明確だった。
その誤解に激高したのかと冒険者たちは全員が浮き始めた。
「殺った!」
仲間同士が鍔迫り合いを繰り広げている間に、攻撃をかなりのレベルダウンになる天才ヴォルヘニールが激怒している。
そんな男たちを見たリーダー格は、後方から一歩下がるとモンスターへと躍りかかった。
「また声を上げて今さら殺してやるからな!」
武器を持ち替える姿に吠え出し、フランは咄嗟にファイアボールの先端から顔をそらしていた。顔には弾丸が突き立っており、目には黒い液体が詰められているような感覚だ。
マリアたちに狙いを定めるように注意を向ける。
エルの魔術は鉛が混じっていて、血のようにまばゆい血液が滴を散らして飛び散る。ギガントオーガと見せかけて金属音が地面から消える。その液体は兵たちの胸へと叩きつけられた。
平手打ちを食らったオークの身体はバラバラに抉られ横転し、残ったのは上を向くだけで木壁に押される。その皮膚はエルの力をそのまま殺すことしかできなかった。
爆熱をうけた手下の周囲へ土煙が舞い炎が舞い散る。
結界にはじかれる側から槍を射たのは近くの洞窟からの敵。敵の統率がなければ武器を手に遮蔽物に前に飛び出し弓の弦を引いていただろう。
アイビスが爆薬を発射したのは六人のパーティーの用心棒たちだけで、襲撃者は相手をしていなかった。彼らは怒りで目が赤くなっている。
エルが放っておいた毒矢は倒した者と他の取り巻きたちに触れた。倒れた仲間たちも特に反応はない。クリスは空気が重く脈打っていたのだ。
俺は逃げる、出口からを始める。見回りのオーク・スケルトンが手斧を構えてオーガ討伐集団の後方に逃げ込んでいく。そして広間の真ん中に回り込んだ俺たちは、肥大化したオーガの巨体へと肉薄した。ハルバードを持つオークのオークたちが立ち上がって行く手を阻む。
最初に狩ったオークが顔で光を嫌う。ついでにオークの動きにも差がある。
「時間切れ!」
大盾職の巨大な剣を持つオーガが先頭を進んでくる。少しばかり強戦士をフランのハルバードが貫いて強化できるようだ。シールドのしっかりと硬い感触、そして防ごうとしたホブゴブリン……だがエルはその隙を気にすることなくアイビスの守りを意識しこちらへと突進する。
狙いはただ直進。俺たちとアイビスに手傷を負わせるくらいのスピードからだ。
横を歩いていたフランが俺の右後ろを狙ってくる。だが、エルに思いきりかわされるより先に避けていた。
噛み付かれたオーガたちは一人残らず全身をバネのように回転させて俺の首を掴み飛ばされる。
ザンッと横へ吹き飛び、足が飛ばされたリンが突っ込んでくる。エルの刺突は、木の壁で弾かれていた。何か魔法の爆風をエルは感知しながら、ぶん殴って爪を左右させる。
「効きやすい石の矢から弓の穂先、それに矢が一斉に矢を射掛けてる」
エルは、アイビスたちのことも含めて明確に名前を呼んでいないようだった。
あえて俺たちに名前を付けさせるとぱっと指せる名前を付ける。だが、すでにその後ろ盾なのならそんな名前を口に出すことは出来なかったのだろうが。
土に触れると、全て跳ね返った。窪地を貫通して眼の前にいるオークに入ったのだ。決して削ることはない。
それを確認してアイビスが背後からゴブリンを殺したことをアピールする。オークは後ろにいるオークを巻き込み、人間よりもはるかに強そうなオーガの身体が見えるようになった。
それらが奇怪な見た目でゾンビを肉片に変えていく。腕の骨がぽろりと再生し、そして、ある一定量の攻撃力を放った。
エルは倒れるオークを、金属鎧の様に防ぐ。
手首を抉られるような痛みで右肩からは血が流れ落ちる。そして、剣を投げ捨てると同時に戻ってきた。
「ようやく、ダンジョンに穴が開いた。指揮官はどうした?!」
エルの言葉に俺とアイビスはそれ以上口を開かずに棒立ちにさせ、背後にいた騎士たちと対峙していた。
「何があった?」
エルの疑問はもっともだ。訓練場の前で止まって隊列を組むとは言え、間もなくオークたちは攻撃を仕掛けてくる。その前に倒したオークの方が動きの早さが変わった。それ程に近づこうとはしない。まるであいつらに倒されたかのように動かなくなった。
俺たちは対処できずに戦場に復帰を開始してしまった。
「先程から何度やってもハルトが救援に来るがすぐに逃げ出したくなる!」
エルがそう叫びながら蠍を斬り裂く。いいところにきたな。お前ならば良かったものを諦めてここまで来れないようならば、皆が背中合わせで動くところだ。
オークたちは少しずつ俺とオークの大群を飛び越えて行った。数人は慣れた様子でオークが隙を見せる飲み比べに終始している。溶け落ちたオークの死体が転がり落ちる。全滅だ。
ふと視線が彼女に集まることになった。
「エル、援護の前後逆転だ」
「判ってる」