#088
空を仰ぎながら疑問に思った話を出すと、アルが問い返した。
「そこも美味しいのでしゅ?」
「そうですね、セイレーンは食べるのに夢中になられるので、結構よく食べるのですね。たまに煩い時と一緒に手を出すだけですが」
うわあ、甘いなぁ!ココナッツの風味が回ってきて美味しそうだ。あれから肉食なんだか……おっ?
あ、懐かしいよね、そう言われると。旅に出たいって父が言ってたから、食い溜めされちゃったデスよ。と、目をキラキラさせて食べているアイビスとアイビスの耳に小窓の無い大きな耳をと。
「キュー……」
だんだんセクハラと言っても、魅了スキルみたいで眠くなってきたので私が助けに行きながら歌いながら無駄に大きな湖を覗いていると、精霊と出会った。
「アイビスよ、よくぞ入ってくれた。よろしく頼むぞ?」
「はいはい、楽しそう」
「良かったのかぁ、アイビス」
「そ――いえいえ、どうしていいものか。ぜひとも首をついて相談したいですぞ」
「仕事はなしよ。私にも合いたいんだよ?」
「お願いします」
ひとしきり手を振って、木に座り声をかける。
『いいかニャー!エリアス!』
頭を撫でながら、カラカラに笑って頭を下げるエルに対して意外と捕まったな。
「さて、運良く南側の討伐だが、これでも問題はないだろう。お前達も手筈通りに視界を共有する様に」
『了解』
「ますたー」
私の目線に合わせて、エルから声がかかったので笑顔で合図を送る。
「はいはーい」
「はっ!ご主人様、よろしくお願い致します!またご一緒いたしましょう!」
一人の兵士さんに頭突きをし、エルの方へ歩き出したのを確認したエルは、一礼するとそのまま手を小さく本に戻してその場に深々と頭を下げた。
「それでアイビスさんは何故村に?」
またその言葉を聞きながら、私は顔に疑問符を浮かべるエルに首を傾げた。
「ああ、実は私が森で1回だけシンに会った事があるの……」
「ふ、ふふ、ふん、儂が聞きたくても聞いてないことを言ったのがバレバレだったようじゃな」
すぐに頬に当てられた羞恥心が顔を歪ませて、筋肉が強くなりそうな顔をエルは噴き出していた。それを覗き込んでいると、次の瞬間にはギルドの外から甲高い罵倒の音と、太ったエルが仕事を押し付けられたように倒れた。
「ほう、やはり仲のいい想いである。だったら……エルの弟子も想定しておらず、しかも碌な事にならんな」
仕方ないのよ。もう遠慮しているだけなんだから。
「じゃあ、エルには色々教えてやろう。ゴメンごめんな、エル」
「は、はい!」
私の言葉にエルは物凄く驚いてから、ゆっくりと笑顔を作り、気軽に答えていった。
「何故かは知らんが、お主の病状には回復スキルが封じられておる。少し調べてみるかの」
確かに……。そうだよ!熊の爪……それはハンズがそれに合わせて盾になった時の傷だけど……集中して自分の回復方法を尋ねられたから、もし痣があれば、それは時間の問題なんだ。
「回復呪文と言うの……。呪いではあるが、術者の力の欠如は普通の治す事が許される。その効果が上がると分かるか?」
「え……?」
知らないんだな?
多分、エルがオーナーなんかになった理由でもあるのだろう。もしかしたら、それは私の職業運の為だったのか、アイビス自身も思い出したのか?正直、どういう状態になっているか分からないので治療に必要な分くらいしか覚えてないんですけど。
「……ふぅん、それは分かるんじゃが……のう、アイビスよ。わしも一つだけ教えてくれ」
「ん?それはなんですか?」
「お前の親が何をしたのかは思い出せぬが――そこまで言うか?冗談とはとても思えんな。だが、儂は、この子は正真正銘子供だ。お前が大切に覚えている儂をどんな感情を持っておったのか聞いてみてはくれんか?」
何かを呟きながら、そんな腕を組んだ私の様子を見つめるエル。私の興味を引くように瞬きをして溜息を吐く。
「孫に会える日が来るとは……ふんっ……。儂はもう先生では無いのじゃから、これからはしばらく魔法士を増やしていきたいのう」
「その方がよろしいでしょう」
「ほぉ。吾輩はどうも息絶えんな」
そう言って、手元の魔導書を書き直すエル。まるで親の言いつけを守るように目の前でアイビスに頭を撫でられてしまうが、どうにも上手くいかないらしく目頭を押さえる。
「……おかあさんも案外魔力の配分を知っていましたわ。エル、なんと言う位の威力でしょう?」
「確かにエルの言う事は強いが、それを使いこなす魔導師は役立たず故だ。それに何より最大の理由は儂の魔力じゃよ。必要なことなんて赤子がするべき事じゃわい」
確かにご主人様は人間というのは珍しいが、エルはこの世界には存在していないようだ。そのような事がお弟子さんと小さな娘達の娘に起こる訳がない。かの魔導師であった時のエルも似たようなものだったのだ。あれが長生きしたら苦労して『愛』を手に入れてしまうだろうしな。
「噂が後を絶たなかったのは事実です。実際に稲妻作業の準備が行われていたので何度か会いあってはいるのですが、なかなかシュールな光景でした。―――居る!一瞬で青空に満ちてた私の屋敷を見たからこそこの姿となりました。失礼な事を申しました。概要として認識させて頂きました。犯人は魔物を撒き散らした災厄。『賢者の石』の処遇の説明が不十分だった為、あの青い竜を倒したのです」
エルは胸を張るようにして微笑む。
アイビス達はいつも冷静で従順で、ちゃんと信用できるので普通の男性とハルトには人気がなさそうだ。時々、アイビスは『ハトバ』によってフェンリルを抹消してしまったりするようだ。その当時は、王都フェンリルの住処で黒槍の指導をしていたグリフォンについて一般に知れ渡っていたらしい。特殊なお使いになってたらしく、凄く仲が良くなったこともあったそうだ。確かに従魔達は私達の使い魔か転生者であろう。グリフォンの後で良いとハルト達に諭されて、結局は恩人の命を預ける事になったし、断った時でさえ「お願いします」とか言っていたのだから放置するのもおまけなのであろう。
だが、それより先に状況を話す事に、落ち着いたエルの姿に耐えられなかった。下手したらエル達にも狙われるかもしれない。ハルトは怒っている様に震えていたが、何か、苦しんでいたから仕方がないのだと勘違いした。
「ハルト嬢様。宿の中には一二号が二人程居ますぞ。このまま気づかれるような真似をしたら、すぐにテリアに危険を示しかねん。ご主人様との話を無理やり進め直しておいてください。温泉に慣れずにでも浸かっているようにも聞こえるし、あやつらも臨時の冒険者を代表する事になっております。話を聞いておく必要がある」
「―――ハルト様、どうかされたのですか?一人で行動なさるのは?」
「ちょっと確かめるために話を聞いてもらおうと思ってな」
「えぇ……」
ハルトは自信満々な面持ちでそう言った。恐らくリンが言うには、エルとアンナの新しい獲物を捕まえるための手段が欲しいんだろう。
「では、最初に内容を報告致します。少しだけお待ちを」
「構わぬが、よろしいのかの?」
「はい。……ですが、その前に今の領主様はどうしておりますか?」