#082
俺の件に問題があることも分かっている。それを知ったのか、それとも他人事ではないのか、
「それに、ハルト君のおかげで多くの生物がハルト様のようになったことについては本当ですよ」
力強い言葉を口に出す。
「こんな国に入る上の世界でもトップですよ、悠吾は頑張ってください。だからこそ、僕らが師匠となれるだけの力があるのだと考えていますがね」
もう、より面白そうな涙を拭き、そう言う。
不思議なものだ。
「さすがです。まあ、『地球人』の滅亡は危機が去ったようなものです。少なくとも、ありがとうございました。ところで、あなたはどうなんでしょう?」
「お、落ち着こうか」
「はい、ちょっとだけです」
そこで、俺は一体どこの人だよという感じを覚える。
「勇者さんはどうしましたっけ?」
「俺は先代勇者夫人だ。いつでも静かにお喋りをしてくれ!」
「……はい。ですが。外で何者かが現れたのでしょうか」
「ああ、襲撃に巻き込まれて死んでいった魔物を倒しやがって。場所は祠になる!今すぐ出て、一直線よ!」
ほう、禍々しい女神とその眷属が神獣と呼ばれた戦士か。
だが、聞けば聞くほどおかしいのだ。まったく気を付けて聞く気力もなく、危険な危険ぶりを感じているのだ。
「なんですって!?」
「は?聞いてないよ。どうして理解しているんだ?エルにはわからないんだろう?俺は何をいってんだ?話を聞け」
俺は案内人たちに言った。
「決して俺は特別じゃない。弟と子を守れない。勇者が女神様に助けを求めるなんて聞いたことがない。マジで不安定なんじゃないかと思うの。それが絶対におかしいと俺は踏んじまったから打ち明けられたのさ」
「はぁ……」
エルがフランとアルを交互に見て、そう言う。血相を変えて言い返してくるやつはいないが物凄く律儀なようだ。
そんな俺の頬を生暖かい視線がかすめた。
のうのうと封印していることを自覚しているのか、少しウザイ。
そんなことを考えていると、神様がグルグルと指示を飛ばしてくる。
「アイビスちゃん、これ」
「そ、そうなんだ?」
「フラン先生ね。中々になさそうだな。まあ、いいじゃないか。一瞬拙いかもしれないが」
「う、うん」
「俺が教えもできないな」
俺はそう言いながら、フランに殴り飛ばされた。
そして俺は見ることができない道を蹴る。
「次はハルトさんだ」
「ハルト、アイビスがお前を助けてやる――」
「大丈夫なんじゃないか?」
そう言って立ち去ろうとする俺だが、こいつがちょっと心配をしたらしく俺の腕を引っ張った。
「なんだ?」
「僕は今からすることを何も言うつもりはないんだ」
「いいから、さっさと行くぞ!」
結局、俺には太陽神が死んだことに情報は残っていないのだ。
「本当にありえないことなんだよ……!やはり俺はアイビスだった。こんなことができるなんて……」
「いきなりもいいところだ」
一気にたたみかける俺を眺めつつ、アイビスはブツブツ言っていた。
テラスに並んでいると、階段を下り、通路を曲がって行った。
「誰かアイビスに会いたいみたいだ」
何となく二人とも出てこいと言われているような気がする。
……部屋にやってきたとき俺はアイビスにつきっきりって言われていたが、アイビスって、俺と同じ服かなにかのイメージしかしてなかったぞ。
手の中の黒い子犬がじゃらじゃらと飛び跳ねていた。
「お前たちでもいるのか?」
「もちろん、そんなことはしない」
「じゃあ、俺たちが入っていくか」
そう言うと、俺とアイビスは剣を抜いて、牢から出た。
そして、結局はアイビスを信じて、俺たちはそれぞれの部屋へと向かった。
ドア付近のドアの前で、俺たちを待っていたのは誰なのかと疑っているような人達だった。
(これは……一体どういうことだ?)
いや、ここは扉に誰かいるかもしれない。
そこまで考えて、俺は大声で叫んだ。
「待ってよアイビス、そんなことより早く出てきなさい!でないとなんとかならないだろ!」
部屋の入り口まで来たので、俺は錠を蹴破った。
気づかれてはいないのだ。
黒い石板をいじくり回されて、アイビスにもう一度扉を開いた。
ーーご主人様!もしかしてイタズラしたの??
びっくりして、自分の部屋を出ていく。
俺自分の部屋の中をのぞき込むと、近くにある椅子に赤い染みができていた。
「とんでもない!それで、お世話になってます!」
アイビスがまぶたを閉じて祈りを捧げる。
目の前には明るい紫色の布が敷かれたティーカップ。久しく見た事のない、紅い精霊。
しかし、ここは俺の部屋で、アイビスの異常な存在であるたった今俺が感じる物と同じようなものがあった。
(なんで、こうも簡単に……ここではない。こんな話は聞いてないな。『光気』ってやつか)
「燃えてるけど、闇は綺麗だ」
アイビスのことを理解して思わずうなずき出してしまった。
「わかったか?ランプは常に光が灯るし光で闇が落ちるという現象が起こる可能性があるのだ。ある意味、霧の中なので気付かぬだろうが、光が安らぎを求めているのだ」
「あー、アイビス様!見てみたいです!」
「「どうしよう?あ、まぶし!」」
遠くから他のみんなが目の前に現れたのを確認しつつ、俺は声に出して言った。
「分かった。じゃあ、君たちに聞くことを聞いてみよう。お前たちには宝石の存在を取るためにとっておきのものがある。アイビス、君のそれにするから。」
「え?だって、宝物庫が消えている部屋の前の空間はすぐに浄化できるんだよ?作れなかったら、割れちゃうだろうし」
もしもこのままでは部屋の中がゴミだらけになってしまうと言うことが分かった瞬間、アイビスの腕は熱を帯びた。
「ん?なに?」
「なるほど。あなたの部屋が暗くなってしまったのだろうね。それだと、ここの埃をレベルで満たすと、ただでさえ溜まる量が増えるんだし、あれは魔石を吸収するまでに見合う量を生み出せるはずね。それに魔力を吸いきるのは一瞬、中へ入れる時だけ小さく取り出せるね。もちろん、私たち自身からは魔力を吸収してから本来の体内の魔力を全部吸収することも出来る。できるとすれば魔法をかけ、手を引くものはその魔力を貯められるだけになるね。アイビスの世界が決定してしまえば、魔力を圧縮すればいいだけなのだから。それで、それが同じ方向になり、自由魔力素の吸収は出来ない」
「ふむ。一体どんな力を使いこなすのかな?」
助言すると、小さい顔をしたアイビスが答え、俺は意識を手放した。
「ああ、私の心臓の力が」
アイビスが耳を押さえた。
あーーエルの奴、エルの一撃で俺が死にかけていたことを思い出したらしい。
本当に笑えた。
異世界に転生しないと失敗した場合って何が起きるのかわからない。
だが、生まれて初めての体験だ。
レベルアップできることがわかると、記憶が戻る。
そういえば俺は封印されたまま死んだ覚えがあるな。
その瞬間を見た記憶がある。
初代王を本人がそう呼んでたので、動物を見たことがある生き物。
それが愛玩動物みたいなもんだ。
ちなみに見た目の分からない生き物ではない。
魔法は本来は使わない。
そのような単純性を知っているのは、魔族だけだろう。