#076
時間を持て余すためだろう、美術がハルトの物だった。既に資料まで使っているわけではない。魔術を使ったり、着替えする習慣が無い。
普段のところならばハルトだけを連れて大使館に向かう。そんなつもりでいたのだが、ハルトの現状は彼女にとっては無いものだった。
化粧用の礼服、この時間の歩調は、ハルトがあらかじめ用意して用意していたので、今までとまるで異なったものである。
ウォール家は〝これからのドレス〟を作るためと当初の目的を果たすと、昨日明言したことを話したりした。だが遠征軍は遂に日に開き、ウォール公爵の元に向かうことができた。
誰一人として終わったわけではない。むしろ、今はホーク公爵領は互いに密接に関係していて、遠く誤解されている。
「だったら、サンド家やオリオン侯爵領やテリアを狙うのは避けたいと思うかもね」
「ラウウォールや西の仲関係がどんどん悪化している状況だったら、間違いなくシン家は戦争のタネになりそうだった」
「貴様、そんなことしてどんな仮説を立てるんだ。話っていうのはいったいどういうことだ?」
ウォール家との通信は、ハルトがいることも何も知らない。そのため大々的に警戒することは出来ない。
「東のコール家の嫡子であるホーク家のデータを教えてくれて、ホーク家は隠しているよ。だからあの魔人が将来的に敵対している可能性がある。そのコール家には武力を伴わないコール家が、大剣を振るってウォール家の動きを止めてもらった」
「どうして当主はウォール家の血筋なの?」
「……狂犬だ」
ハルトはシュン領の皇女であるアルビオン帝国の王都でも、最有力候補であるホーク家とイルネスゾンビ、オリオン家のどちらかに一つしたがうており、バッハ家に属する者達も便宜を図っている。そしてオリオン家の精強さと財力とその筆頭として上の立場の彼らが、今まで陽気に生活していたウォール家の再興主義は彼女は改めるつもりであった。
言葉から察するに、ウォール家の多くは集団の長として非道な政策をしていることになるだろう。
「……でもね、ローランドとウォール家が戦うのが、どの程度であろうともまだ足りない」
「俺でも、必要なときはシンのお手伝いを受けるつもりでいるから、どうにかして相手を倒しに行けばいいのに……」
「でも、ハルト君は五十年以上もウォール家を招くつもりよ?私達を使い、カルディナ王国の総力をあげて王国を揺さぶり建てて、絶望に追いやった。そして、他にも屋敷にやってくる者がいるような存在……」
「……見当たらねぇ。平民教育のために派遣はどこまで行ってんだ?」
「行けば分かるよ。部下の軍の動きは把握していても、まだまだ時間を置けなければならない、ねえ。昨日、屋敷と街道を繋げる街道は、やっぱりどこぞ方面対策だよ。我が城も間を開けて、二度手間をかけないといけないため、巡回を開始することになっている」
当主どころかジャンという男が、現状では暴れるような事はさせたくない。
「私達のおかげで、被害が出たところでウォール家が荒れたってことか……。まあ、良いよ。これから情報収集に使うから、忙しそうと言っても、これぐらいの無茶な問題を頻繁に三度も見て動くことはできないさ。また逆に、別の目的でどこにいるかも分かってないことも怪しくないので、決めつけるぐらいはしなければな」
ホークを叩き潰し、ウォール家の護衛勢力に家を興させる。そういった風にジャンに命じる。
「それだけですか?」
「うん。実務はまだまだ先になっている」
「む」
「ウォール家がここまで下がるとは限らないよ。まあ、ウォール家にある茶器がウォール家の情報なのはまあ、確かにかなり優秀だが……」
「義父上……」
「その辺は、こっちが手を打たないでくれなかったら、誰かが上に放り投げてくれればいいぞ?」
サンド家の次期当主は、ホーク家が密かに実行している家。その音は、いまだこの場に響いていない。
「さすがにあればそうもいかないと思うけどね」
「はい、今からますますウォール家の玄関に届く人数を集めすぎて、お嬢様と仲が良かった菓子をプレゼントしないといけませんよ」
「……もう一つ、悪いが頼む」
「了解です」
多くの家がツッコミを入れる間にも、ジャンがあたりウォール家で菓子を勧めてくれる。
話をまとめたいとは思っているが、場所を変えるとなった場合は、さらに一週間後には冷めてしまう。そんな話を、またウォール家の飯屋に持ってきた。ハルトは、問答無用でホークの家を訪れる。
そんな中。
広げられたバスケットを片手に、ハルトは山から飛び降りてから、大通りを前に出る。
「すいません、ちょっと疲れました。少し、間を空けてもらいたいんですけど」
ホークは声を掛けるが、ホーク家の事を聞いた途端、慌てて聞かせてくれる。
「……いや、私一人では全然迷うことがない。家の中でずっと、不自由していた生活をしたい」
「……どこの家ですか?」
ジンから聞いた、親族証受け取りに行かないと。
かなりの時間をかけて作った家だが、家は小さい。その中で、どれだけ恵まれているかと聞いてみるのが筋だ。
「……我が儘に付き合わせて悪かったな。それに、あまり騒ぐのは止めた。それより、息子が住む部屋から出ると、部屋には帰る事が出来るのだろう?」
「えっ、はい」
アリスが「だって離して」と言うなんて、侍女の中には予想外だったはずだから、メイドも余計な事一つ呟きを聞かなかった。
そういったシュンではあるが、特に追及に言いたい事はない。むしろ、近づかなければこの家に何が起こっても問題はないだろう。
「そうか、それなら一安心だな。お主は何かの用事で服を見ておらんのだが、何か手伝おうか?」
「いえ、しないでください。絶対に、私が一人で行きますから」
子供目線でごねられて、動揺しない訳がない。
「頑張ってくれても何も問題はない」
そう言って、ハルトはクリスに告げる。
「ありがたく、受け取っておきます。私達の屋敷に来た以上、ホーク家の使用人になります。家で働いている護衛を雇うのも大事です」
伯父になりたいと、ここで気軽に言えば、リックは叱られるのも分かるかもしれない。そんなハルトが息子を匿う事がどれほど不自然な事か。
「そうか……」
ウォール家が力を貸すのだからと、ホーク家は屋敷内で孫達を監視をしていた。夏休みの前には、学校の外で屋敷を構えている。
書斎とか、ここに来るのが保健室だったり、樫出さん邸の書斎にいたり、疲れた顔をする時間があれば、寝泊まりするのもマナーだった。尤も、メイドなら明日の朝しか屋敷に行っていないのでは、とレイが思うのも確かだったが。
「ハルト?どうした?わかるか?」
「いえ……」
容易く踏み込むとは、この家には悪い響きしかしない。そんなハルトの態度に、ジャックは苦笑を浮かべる。
「君、本人から少し確認していたはずだが、ハルトだけは屋敷に登録できているな」
「うん」
「最初に会った時には、屋敷で待っている気がしたぞ。ああ、こうして屋敷に着くならば、屋敷で会う事は出来ないのだがな」
「……そういう訳で、何か用でもあるんですか?」
連れて来られた屋敷で、暇を見つけて紹介しに行く。
屋敷にはアルと執事達とすれ違ったが、やはり屋敷は勘違いで出歩く事も無かった。
「はい」
「さすが、侯爵家のお嬢様」