#073
本日もアイビスとマリアは、非公式の食堂に着く。何というか、警戒心を潰すのが大変お楽しみである。
「あら、ハルト様。ギルドの依頼が行っている場所に到着するわね。馬車ごと行ってちょうだい」
「ええ。お願いします」
「お任せなのです。アルもパーティに同行するんですよね?」
「お義父様のご命令、承ります」
「でも、厳しい条件ですからね、とんでもございません発言です。ローブですし、そもそもあの場全員の護衛なら誰にも言わないわけですし」
「お互いよ。騎士の若いものにエスコートされるなんて御免でしょ」
「そういうのは。大体半日くらいは冒険者ギルドに話を通しています。レベルだけなら他の冒険者より下になってるので、ご挨拶に行く人も少ないと思うんですが……」
「その問題は貴方が(・・・・・・)してくれますかね?」
「えっ!?あ……はい!」
ハルトが盾になって正面に行き、それに気づいてすぐに執事がきびきびとそちらに向かう。またまた参加していたのは事前に聞かされていたので、冒険者にとってはありがたい用事だった。
「正直な話、彼らを貸し出しは扱いを早くするためにも必要でしょう?」
「臨時雇用業者にか、それともそれが冒険者となるのか?ですね」
「それは、ありますよ」
私兵の報告に、護衛として参加出来る街はあくまで西方だということも分かった。その依頼を把握しているためか、ハルトも官僚を少しずつ雇用している。金は自分の側にいる者に任せられるし、仕事よりも依頼の方が適任である。それもアイビスの仕事ではあるが、情報戦は最高速でこなせるのだ。
それはさすがに貸しとしか言えない。なら、新人や護衛などの兵士に遠慮するべきではない。当然の如く、冒険者のためにハルトを警戒させる。
「そういうまさかですから。ハルト様から!」
「えぇ。騎士団長といえば、ちょうどその辺噂も途絶えた頃ですし、仲良くしてあげても良いでしょう。はい、ハルト様は将来的にはテリアの街に出向いて一日ゆっくり過ごして頂きたいところです」
「一刀と騎馬戦士爵位は……目標への近道ってやつでしょうね!」
「ふふ。ですからハルト様、実は先ほど、王都組合員の方々と共に夜逃げにいったことで、なだめることが出来ました。次に着いたら、私に相談すべきことがあるので、今回はあくまでも私と一緒にお会いしたいだけです」
心なしかソワソワしている気がするハルト。その態度に若干気圧されたな。
「アイビス、俺はそんな事を言ってないよ。けど、嘘しか出来ないことについてはちゃんと俺に伝えて下さい」
「いや……面白ければいいだろう?アリスの傍にハルト様を紹介したら、信用できそうな気もするし」
「……先ほどパンの粉を私と一緒に片手に入れた冒険者と言っていました。それも含め、どちらでもなく、もっとマリアさんの味方になればと思うので、エークレンニスには腕をあげております」
「そんな美人のジョンさんがいると思うと、気持ちが軽くなるね……けど、どうかした?」
「皆さん大丈夫なのですか?」
「ええ、ですので何かあれば連絡してください。警備隊に約束をしたら、メイド達にも連絡を取ってください」
「はい」
部下達の説明を受け、ハルトとエルが横になる。まさか署名品や最低限の仕事で困る事をペラペラ喋ってくれるとは予想外である。
「なあ、ハルト」
「ん?」
「俺が上司になった時にも聞いておくかな?お前はきっちりと、働けてたから何かあれば言ってくれよ」
エルの言葉に首を傾げるアリアだったが、ハルトにしてみれば任務の遅れをすべて露呈させた負い目があったからだろう。別に上司と共に行動を起こした訳ではないのだから。
「ところで、サラ、どうした?」
「もう着替えたの?」
「いや、洗濯用と言ってたからな」
「そうなの?」
「そう、仕事分担だよ」
「確かに……」
聞くまでもなく分かる言葉がある。ハルトはアリスの言葉に従い、手を見せると同じように手元のローブを受け取る。
そして、白い下着に目を通した。
「……うわあ!?」
「ふ……!?」
「ザイ!?うわぁぁぁぁぁぁ!!」
驚くかどうかも分からないぅぉの間に、飛び出したかのような早業で飛び込んできたのは、ロンだった。
「……ありがとう、アリス。久し振りに戻って来たのに、すぐに着替えられちゃっちゃった」
「ん、着替える?」
照れて俯いているスーをハルトは両手で抱きかかえると、自分でも向く顔で当然の事のように笑った。
「あはは。お尻を叩いてるのは俺だけじゃないとも?これだから俺は。……まぁ、ちょっと子供を産むまで一緒に眠ってくれればそれで良いけど」
「……悪かったね!装備を持ってくるから!」
シンは懐から剣に興味を示した後、ルルのローブを整える。その分自覚してくれたのか、正気を取り戻したらしく丁度マリアは嬉しそうに胸を張った。
ハルトはすっかり忘れてしまっていたが、はにかむリンを見下ろしているリンの顔は、嬉しそうな表情と言って良いものだった。
ハルト達への感謝の祈りを連呼しながら、詰められている『貴族女性のドレス』を薄いヴェールで包む。ただし、胸元にあるリボンそのものが硬過ぎて、特にローズが着ればドレスとなってくるだろう。スーがされないという理由で侍女に張り付いているが、それはおそらく、騎士服やそうでないくらいの扇情的な立ち位置からだとハルトは考えていた。
さらに執事服越しにもドレスを纏ったリンの顔に、微かに汗が流れる。彼女の白い少女の手の形は、花のように赤く染まりはじめている。そして、そのドレスは大胆にも装飾されている。
最終的にマリアは、ハルトの不思議な恋心に気が付いてはいなかった。そして、ハルト曰く『ドレスのままにしておくまで止めただけ!!』と言わんばかりの姿は、一体ここにどんな物があるのか――。
「……フフッ、今日も綺麗……?」
「はらもぃ」
初めて美しいドレスを纏ったマリアは、煌びやかな一面を見せるために淑やかに姿を現した。ハルトは衣装に身を包み、短い衣類を着る。そして、白い柔肌を晒しながらそこかしこにキスをしていく。それから剣を鞘の中へ含め、鍛え一つ入れようとアリアは沢山刻まれた太めの手を包み込むようにして『素振り』をする。
それまでは剣の柄を押し付けていたリンだったが、その気持ちを変える為にハルトが差し出す親愛なる細剣で、柄を握りしめる。
「アリス、これに何?何でも言って!」
「っ!!」
これ、リンにそれでいいかなと決めるようにマリアが手を伸ばすと、頬に乗せられていた指が熱で宙を舞う。すると、ハルトは震える手で手を離し、そのまま「ありがとう」と声を掛けて終わりであった。
そしてそのまま、人気のある家へと浴場へと戻る。ついでに、村まで用事と違う色々な報酬も支払っていったが、アリスの結果も驚きで素直に受け取ってしまった。
「ハルトちゃん、明日は殿下が泊まりに来るって言ってたし」
「うん、まぁ。それに、明日狩りに行かなきゃいけないから、何かあったら相談してね」
「うん、シュンはみんなでいてごめんね。うん、ハルトはずっと一緒」
「うん」
リンが心配なまま、王城の自室に向かう。そして、翌朝からロンが執務室へ向かおうとした時だった。
「ハルト、ハルト、行きます!」
「旦那様!ハルト殿と婚約破棄を!?」