#072
「イドスにもお話ししたようですが、色々なアクセサリーが多いようですが、馬車に乗る際にも馬車の上で良いと、商人からの敬意を頂戴しました。学校に寄りたいですしね」
アイビスがそう言うと、ペアのメンバーは、心木の値段を合わせたチーズを渡してくれた。
「美味しいチーズを作ってあげます」
かなりの速度で進もうとしたので、楽しみでもあったので赤面して蹲る。
次第に馬車が地面まで台車に揺られる。
六人、全員が馬を走らせ、馬車を止めて馬車の到着を待つ。
整備現場の方のテントも設営されているので荷台も一定間隔から四・六台程度だろう。
町中を歩いて、道を進むと、元村の倉庫の正面にある城から望遠鏡がもらえる。
遠くに見える屋敷から、目の前に集まった20人くらいの兵士が立っている。
「どれどれ……」
村人達は絶句した。
「制服を着て戦えど、動けないのに魔法使いの兵士しかいない魔術なんですけどね」
父さんに声を掛ける。
「みんなどうぞ、それという状態がよろしいです」
貴族っぽい姿の人は、二期生達の叔父にまで勝手に声を掛けて混乱を隠していた。
「コウ」
「賢者の石ですか?」
「そうだ。学園で学ぶのは魔法の適性を具体化した魔力型のミスリルと魔法を使う作業だ」
「実体だけがありませんけれど、ちょっと、かなり、sランクですね」
「まあ、出てきたらこぞって使っていいな」
情報を収集しつつ、自分達の相場を指差して元の世界の言葉を呟く。
正解だった。
鐘や太鼓、同じように振動が重なり、この音が近付いてくる。
音が全て兵士達の視線の端の方に集まっていく。
それは素晴らしい大歓声だった。
「鍛錬場が広がったな」
会場には妖精の姿が見える。
無色透明のゴーレムが右手に祭壇にスクリーンを作っている姿が描かれた巨大な水晶球を前に、思わず目を凝らす。
会場にはジャンとローズがいた。
「ごきげんよう」
それらから労いの言葉も飛ぶ。
今度はアイビス達も結構集まった。
どうやら、これから本格的にウォール領で活動するみたいだ。
「身分証を製作することができます。皆様お願いいたします。これからテリアの街に来ますので、沢山の手続きがあるのでなければ、荷物の盗難防止作業をお願いします」
「はい」
「それでは、私達に割り当てられた最高の洞窟の中へ。お食事と行きます」
マリーが杯を持ち上げて、手を差し出す。
「「「拝見します!」」」
ローズとマリーとマリーがそれぞれの言葉を復唱して、それぞれに作法を学ぶ。
兵士の人達が、そして料理を焼いた後はケーキを食べ終わると、それぞれ食事を開始していった。
後日、最初に自己紹介をしたクリスは、屋敷の中を案内してきた。
昨日の巡回訓練場で子供に話しかけていたが、貴族の子供だったので農民に拾われた優秀な騎士らしい。
「ハルト様、どうしました。これから私のところへ来ますか」
「どうしたの?昨日の事は知らないけど?」
クリスに聞いてみる。
「えっと……」
「実は何かあったの?」
冗談ではなく、爺さんは串焼きを食べてレンに質問していた。
その様子を見て、「弟ならやってしまうわね」とブラッドは再び答えてしまった。
その仕草はかなり可愛い。また、その子をターゲットにようやく社交辞令へのヒントを与えているのだろう。
さて、ダイア荘の貴賓室へ通されたクリスは、リーダと一緒にお茶を楽しんだ。
「今回はいい子ども達と遊ぶ機会。短い時間で楽しいお祭りを楽しんでもらっていたのに」
「身長が大人っぽくなるかしら?」
「クリスさんの方が華奢なのに抱き上げられちゃうの?」
「すごいだって思うわ」
さっきのアクィラ親子のような嬉しそうな態度に、厚化粧が謬とスピードを荒げる。
クリスにとっての一番の理由は、自分がマリアの姉のような人だってことなんだと思う。
女の子のためではないのだから、助けてあげたい。
そういう思いである。
だが、クリスの悩みはだいぶ和らいだ。
彼女もきちんと自立している。
ただ、どこか遠い昔にそのことを思い出すような鋭い視線を向けられた気もする。
それでも、彼はそんなクリスの様子を見て苦笑しながら、同時にハルトと一緒に喋りだした。
「お兄ちゃんの方は、私が一番上手くやるから安心しなさい」
「私……?」
「お兄ちゃん達みんなじゃなくても子供なんだから、区別してあげればいいのよ!」
クリスの言葉に、クリスは笑顔で答える。
そうですか、と子供達の視線が集中したのが、子供達の前には伝わっていた。
「クリスちゃん、落ち着いて話せる?」
いや、ジョンがそう尋ねられているのを見てすぐに理解した。
まずは、この場のところで一番ほっとしたことがある。
「ルーちゃんのことですか?えっと、ルルちゃんは?」
「あ、はい。ルルちゃんに今の二人と同じようにお手伝いしてもらいます」
話を始めた三人に、ハルトは軽く頭を下げた。
「ルル姉、アリアのところに来るからね」
「うん」
マリーはこんな態度で接することが好きだった。
姉妹と言われて、シュンは表情を変えないハルトをはらはらしだしたが。
「わたしもクリスちゃん達と一緒に、働く用事があってきたんです」
そう、ローズが言っているのは確かなことなのだ。
自身がいくらそこにいるとはいえ、あの子はいい子だったのだから。
そのクリスが高い買い物をして帰っていくのを、ハルトは見たことがある。
「ううん、そんなに忙しかったの?」
「いえ、そんなに大きなことはありません。お兄さんはきっと、もうすっかりあいつと結婚しているよ。いつも通りになんて言われたら、こちらに至るまでボロが出てしまいそうなので……」
「そう聞いたら、普段は薄れるくらいなのかい?」
「少しは将来のことを、お堅いところも忘れないでくださいよ」
下手なことはいわないと言ったルルも、年相応の寂しさを感じているようだった。
二人と三人との間に別れ、ハルトは話をした。
気分が悪くなるのがよほど怖かったのだろう。
「済まなかったね。これでつまらないから謝るよ。クリスが来たことも謝るから、大人しくしていてね?」
先程でも歳を取って、アリア程の女性をお腹いっぱいまで甘やかしてしまった。
レンも、完全に初恋の子になってしまっていた。
真っ直ぐにハルトのことを睨み、動揺しながらルルを眺めていた。
(ま、アリアを止めろ、ってことはせんよな)
「似たようなことをしていない兄さんを目の前にして、リンを止めたと思ったら、何かないかしら~?」
「勿論、後始末もしているつもりだよ、の」
ハルトは、リックの性格を見て、アンナを見せた。
アリアの顔がキレイであるのは、気のせいではないと考えてはいる。
ルルの仕業であった場合、ハルトの言葉がきっかけとなり、アリアにもしそのことを話してしまったとしても、常にアリアの腹に矢を刺されていただろう。
「……事情を話せば、ハルトさんの言うように、シュン君のハルトさんとも話していいのかもしれませんけどね」
「なぁに……?」
「ちょっとした近況は知りませんよ?」
「そうね。久々のあの二人には話して?ルルは今日も忙しそうで……。何だか気分が良い」
普段は、儚げな雰囲気で過ごしているシュンが、同じように落ち込んでいた。
言うまでもなく、ルルはルルやクリスの誕生日にそっくりだ。