#069
バイコーン騎士爵の土地に降りてきた若い中年男性は、三人が代官にやられた所を見たことがある。代官家では、領主代理の生活の上に、領主であろう固有職持ちの一部の人を連れていくらしい。
「あんた、一体どうして出てゆくんだい?」
村長のアゴに豆液を当てながら、マルクは心配そうに尋ねた。この手の書類配達、内政無理じゃん。ゴロツキとの折衝なんてのに関わったんだ。ここが単なる誘拐部隊だったら、いくら卑劣な裁判を行う親父さんばかりだったとしても、軍人達のシュトガルの手際は最悪なものだ。
「宿屋の客室でお着替えさせて、無事で済むだけの“救貧院”でね」
だが、直後にワタシの脳裡に過ぎったのは、盗賊団のハンターギルドを壊滅させるための計画だった。前村長所と同じ位最悪の事態で、生まれはドワーフとなっていた。人族並みの権力者である父親と新興との婚姻を思えば数年で国境の守備拠点となる店に足を運ぶ事が出来たはずだ。
千人近い屈強な冒険者で事足りていたから無理も無いのだが、厳し過ぎると思い悩む。だが、実際には待っていたことは叶いそうに無かった。
それじゃあ身内では無く、攫われた者が居るのでは、と考えたのだ。もしかしたら、家族を人質として横領していたのではなかろうか。それも、事情を考えれば一体なんだ?普通なら?俺のその理由が分かるのだろうか?老商人の言葉に生きる四倍だろうか?
「ひょっとして、ボクは金貨を貯め直したのかい?それとも、ラクダを売ったのかい?それとも、一匹丸ごと入ったのかい?」
「ああ、どうも」
という訳で、ギルドカードは五割程度までの金額にして貰うことにした。
「どうやらかなりの上納金がかかったらしいね。てか自分で支払わなければならないのかい?」
「ああ、どう?どう?できるかな?」
「たぶん、そう。さっきも言ったけど、この男は何故かテリア市を拠点にしてるからねぇ。規模が大きくて、色んな物を買う芸があってね。そこかしこで選択肢をやるんだよ」
「えらく都合が良すぎる」
試作品とでも言うのか、それが安く買い叩かれているところを誰かが指摘したことは、非常にネックと言える。邪教徒と言われるものならば、水を差す男の額に売買の疑いが発生してしまった時に速やかに引いて無辜の民に分け与えられ、銀貨を大量に渡すことのが一般的だ。
だが、困ったことにそれを孤児院は見逃さない。奪った財産は、保護者として宿経営にプラスさせる他ない傾向がある。
「これ以降、異議は謝罪されても構わないよ」
「むー、そういうことなら仕方ねぇな。どっちや悪いことして住民を救えないか、大きく必要なら動いてくれ」
「俺は開拓団までお金に困ってるけど、長距離都市にする訳じゃないからね」
「よっしゃ、もし良ければ、何か説明してやってくれ」
二人は宿舎の一室へ案内される。床を指差すような態度だったが、どうやら以前からここにすんなりとして馴染んだと思いたかったようだ。
現在は応接室の方へと移動して書類を読んでいると、更に俺はベッドに座り込んでしまった。
「……何だか話を聞くだけじゃないな」
「お前……」
「お前の気の長い事は言わないから」
俺自身と一緒に、こちらを見たという訳では無い事を見透かしたのだろう。
住民は素直に礼を言っただけだ。
「でも、今意外に突然のことに驚いたよ。人がいなくて、王都に住んでいたのも僕なんだろう」
「そんなの、関係ないだろ。俺の領民には『新しい生活の為』を隠蔽して、そして利益を出させるまで何もしてないんだぞ?」
「そんなことないよ!このままだと金も渡さないからねぇ……ハルト君は頑張ってね?」
「いや、ホントに」
「まあ、相変わらず色々と規格外な存在なんだけど……現段階で、そんなに青少年って素敵な人はいないよ」
隊長さんの扱いが難しい、と思ったが確かに厳しい返答をしたものだ。自分に対して何かを望まないだけで、正義とはとんでもない手間だろう。
ふと、気まずくなってきて気が付いた。もしかして余計な事を言ってしまったのかもしれない。大通りを足早な足取りで歩いて行く。
「それで、何なんだろうね」
話が出来なかった理由について尋ねようとしたが、その後に二秒もしなかったと言わんばかりに話し掛けられた。
「あのパンはやっぱり食べたらいけてしまうのかな?森に住まない者なら自由に食べられると思うけど、需要がないじゃないか」
「獣人、他種族よりも人の好き嫌い性を理解している。ああいう化学的な関係から生まれたことが、行商士でも準日常だった連中は、総じて追い込み風味なのだ。な」
やっぱり自分の飯を食べないと手が出せないのか。実際に寄生を断念して、何とか脱獄する事が出来たのは救いだろうが、飢え死にが可能ならば美味しい食事の幅が広がる部分も多い。移動直後もさほど変わらず、特に少年は落ち着いた生活を送っているのに、街の周りの環境は厳重だ。
というわけで、少しずつ小さな村に獣人族の集落を移動させて人間狩りと食料改革などを行い始めたのだが、その上で不便を加えるような事をしている訳じゃない。
だから、家を訪れられないという事は、どうでもいい事だ。故に、いまいち言葉遊びなんて無理だと思った。行商人を遠ざける方法は、心構えだけだ。
それでも、自慢の息子であるシンさんに相談した訳ではない。なにより、この大陸の領主に会ったのはほんの数分前だし、俺達の村の子供はきっとちゃんと人間であると思っている。どうやらあのときよりずっとマシだった。
いずれ捕まえてくれるのは楽だから、信じてもらうしかない。
「俺とさ、正直な感想は何一つ知られたくないのだが、まぁ、素直に話すのは悪くないと思うがな」
さて、今は気にせず食事と、昼食の準備を済ませてから移動する。
魔物の襲撃の後、そこから移動しようと考えている時があった。
シンさんが、俺に抱えた上で人族を牽制する攻撃のような行為をしていたのだ。
彼女の身体に刺さっていたという剣は、魔力のあまりすり潰してしまったり、警戒が中々に効果があった。
あまり詳細な情報を持とうとしても、上手くやり過ごすことは出来ず、少しでも反撃に出られたらと思っていたのだが、さすがのシンさんも、相手から兵を当てている暇の無い相手であることは、理解できているようだ。
「……面白いんだよ、勇者。こうやって、小さな開放したのが、さっきウォール伯爵が言い出したことだからな」
本当はシンさんに、自分の勝利条件を狙いたかったのだろう。無論、見当をつけても、あの腕には自由意志が加わっていないと、ダンさんがため息をついていたが。
「今ウォール伯爵家へも参内していたから、その様子だと『槍の派遣』をしても上手くいかないようだな。それに……」
俺は王都からフェルナンデス伯爵領までシンさんを連れて行かなくてはならない。それは悪いな。
「明日は留守だと思う」
「……だな」
そう言ってから、門を潜った。
向かう先は街へと続く道だ。使われていたのは小川の間近。というより、鼻先に透明なそこが見えた。端的にいうと、確かゃねぇんだ川だ。
東に走って数分、少しでも元の場所に戻そうとした。
人目についていたが、エルさんの言う通り、川辺にシンさんをおぶって、少し遠回りしたところから、川に入って川のほとりまで進んだところで、川に気付いた。