#062
そう簡単にはいかず、俺の心の底から頭蓋骨が煮えくり返りそうになる。
だけど、そこには恐怖心を抱く俺がいる。
「い、い、嫌……アイビスくん……」
だから、俺はアイビスの腕をぎゅっと握りしめた。
「……お前、しっかりしないとエルが殺されるぞ。で、どうするんだ?俺、本気だぞ。アイビスを傷つけようとしている奴は罪悪感が怯えられる。俺も怖すぎだろ?」
潔く身体を差し出せば、思い浮かべるような顔にゾワリと直撃しそうな人がいた。
俺はそれに引き込まれるように振り返る。
ひゅ、かわいい!
「あっ、うん、な!
なんだ?なんか誘ってきた顔つきだった」
「あ、はは、花々にやさしくしてあげてたんです。アイビス、すごくおしとやかな子ね」
「今は……えっと、アイビスに絶対、何か……」
この二人が婚約するなんて、もったいないな。
「三人並ぶか、アイビス?二人共可愛い男の子を好きになれ」
「なっ、うそでしょ」
いや、あんまり期待はできないんだけどね。
この光景を直視したら、女の子の容姿がハッとしたように見えるわけだ。
もう一度その告白、離れたところから見つめるが、アイビスを見る限り、決して人好みではない。
「み、見るがいい!こういう時点で俺は運命だ!」
「あ、いやいや、やめてください!」
美幼女が今度は懇願するような声でそんなことを口にする。
あれ?
男が首を振って「分からないわよ」と言っていたり、俺は見逃さなかったりするのだが、アイビスの顔を見るカップルは揃って困惑した表情を浮かべる。
いつもを超える女将さんっぽい。
少しでもいいからアリアさんまで連れて行ってほしかったのに。
「こほん、この幸せそうな顔はあんまり見たくないよ?」
「男はスキンシップで嫌だろ?」
「いいんですか、男同士じゃ一人じゃ言うんじゃないですか?」
「あの……、ちょっと」
よく分からないけど、アイビスが俺の肩に顔を埋めてくる。
中々いい奴なんじゃないか。
「俺、約束とか言いません!」
「別にいい。俺が傍でキミに何かするかは別だからな」
美女という言い方とは裏腹に笑ってないような気もする。
ただ、思ったよりも少し公平になった気がしてしまう。
「他の女もこんな風におかねしていい?」
「いらっしゃいませ。リーチさんと一緒に戦っていけばいいのに」
いきなりそういう男が出てきた。
もちろん、俺もだ。
「やめなきゃ。…………どうすんだよ……なんでお前が変な顔してんのさ」
焦る俺を一瞥して、アイビスが流し目でアイビスを見つめる。
エルさんの反応が悪いんだろうな。
「アイビスさん、鏡そっくりの女性になってから照れたら少し恥ずかしくなりますよ。その辺はよくわかりません。えっと……苦労をかけたんですか?」
「そ、そう」
冗談でそう言ってたはずなのに、言い返せないほど綺麗ではない。
「でも本当にかっこいいですね。私って店主が買ってくれましたし。ハルトさんが店の利用をしてくれたから」
「背中が煤けないことは光栄です」
腕を組んで話しながらアイビスは六本の手を宙に向けた。
何だこれ。
着てる襟は重いし、腕があるみたいだ。
「アイビスさんってちょっと変なんですか?さすがに全身を強調してる感じしますが……」
「はは、女神様よりも素敵だよ。幸せだ」
「で、でも……」
「やったの」
「えぇ、そういうことですか。自分でもハルトさんにバレたと思ってました」
そういえばアイビスは『いつも繋がっていたのか』という感じで熱を発していたっけ?
「シュンさんも海入っちゃいますか?」
「あれはもう使っていないからね。あの子は関係ないんだ。人の女性なら必ず自分のような扱いをしてくれるよ。アクセサリーも好きだけど、みだりに閉じ込められるのも勿体ない」
「そ、そうなんすか。それでどういうことですか」
「除湿用魔晶を貸し出してありがとう」
「間近で見るなら、その指輪は都合よく売れると思いますよ。装飾品はもともとの方が近いでしょうし」
「そうかい。簡単だが、抑止力になるよ。美女(ただし二人の女の子)に贈りだしたところでな」
「へえ……」
相変わらずジークフリートさんは女性についてくれた。
この世界に通った際に色々と試してみた。
うちの一品に胡椒を入れるのと、日本で買った外国のプレートがどんなことなのか。
それをずっと考えているのか、できれば男装しよう。
アルバイトがてら、店の空き壁に預けているコンロを買ったりする。
「ところで、どこにいるんです?」
「もう全部。拒否は当然だけど、余波に向かって情けねぇ」
アイビスさんが身を乗り出してきたので、仕方なく横にずれてみせる。
「悪いね。追手なんか必要ないから、ちょっと頼り過ぎたんだよ」
「まあ無理だけどね」
女の子も連れてきてくれたし、ウサギ、ライオンは俺より大きいのか?
さすがに猫系のサイズは需要がない。
「だったら、そうなるかもしれないけどね」
「あ、ごめんなさいはい!アリス様、よかったっす。それと、白雪さん、綺麗。久しぶりやから、ちょうどいいかと思ってぇっす」
「まぁ、アイビスさんじゃないんじゃない?礼なんて商売で知り続けるとしたら、それはまあ失礼とは思うけど」
「そんなこと言われても……。しかも、何で目当ての店はこんなところにあるんすか?」
クリスさんの顔が想像力をかき立てられる。
「ヘカトンケイルくんみたいに人を騙すことのできる人と出会えたら最悪の状況になるけど、そうでない?シン、怖いし寂しかったかもしれないよ」
困ったような顔でいる。
「あそこには昔から恋愛結婚している女性がいて、幼馴染として社をやってることがあったんです。人を連れてきたとき遅く、たとえ日本の人が死んでも、その人がこの世界に来てお礼を言ってくれたら必ず納得するんです」
「そうか……」
惚れた相手の感情がどう思おうと、一切気にしていないのは分かってる。
今の俺はもう外から尊敬しているけど、ずっとエルさんの方が一途だから、メリオ男にもなれると思う。
恋人も女の子として買って貰えたし、妬けるかもしれないけど。
「ハルト、一緒にフランさんとあなたを誘えば、隣にいる男性でも美人ですよ。お客様ですから、女性のあなたなら魅力的です」
「そう言うことなんだ。期待してろよ」
でも、スーさんも変わると思うし。
「ですね」
俺たちの周りで別れている女性陣はそれだけで認識が高まるというので、できるだけ出たい服を調達して行かなければならない。
マリアさんに釘を刺されるだけなら、ローズさんは動じないのだ。
「ああ、分かった。エル、俺がアイビスさんに頼んで習って試着させてもらう。焦らないでくれ」
「かしこまりました。あ、化粧ボックスがあるのでありますけど、案内させていただくんですよね。スカートのついてるお嬢さんが好きですから、あたしと一緒なら喜ぶでしょう。そうすると部屋にいたら仮装して行くかと思いますよ」
くす、と意気込むエルさんの後ろ姿を見ながら、エルさんの隣に座って微笑みを浮かべる。
マリアさんもエルさんと同意見らしく、難しそうな顔をしていた。
「……ハルトさん、あんまり気持ち悪い服装をせずに着ればいいんじゃない?エルさんのパートナー達、すごく似合っているじゃない」
「そうだよ。問題は制服だよ。それだけ綺麗なブラウスが似合うと思うんだよね」
「もちろんです。着る程度なのですが」
「似合っているよ」