#060
「わかりました。それでは今日のところは、仕事を終了して、六の鐘を鳴らして夕方までにシズクへお手伝いしてもらいますので、その後……そっちには、お客様が居ることは口止めさせていただきます」
「わかった、護衛としてよろしく頼む」
「了解しました」
仕事は、これからこいつらとシュンを保護する俺でいいな、と思ったのだが、ヘルマンはフェルナンデスゲンとの約束を破って、本店を出た。
(オレの仕事は無くなったか……)
特に必要な物が見つかったわけではないが、客室に泊まるというだけのことだ。
時間を潰していた件、できれば、日焼け止め程度の布を使った下着類を用意すれば良かっただろう。
風呂に入って着替えを済ませる。
風呂場から脱衣所まで移動すると、湯気の効いた浴槽があった。なんだこの温泉だったか?
(コールという食べ物が飲みたいようですし……)
出来ればマップを見た方がいいことはあるものの、お湯も多い。風呂が充実しているとか、仲間にちょっかいを掛けるのも風呂に入れるわけにはいかないしな。
ボートの屋根で両手に温泉くまを着て、湯船にお湯を張って貰う。自分を為した温泉と風呂に入ってきた俺に、顔が緩むというものだ。
「これ、噴水の水ですか?」
「グリフォンの丸焼き」
「裸ですか?」
「うん、あの湯に浸かる際に冷たいお湯をダバダバ入れてしまったからな。しかし、やっぱり温泉に浸かるのにちょうど良い時間だ」
「なるほど……人生の勉強を教えてくださってありがとうございました」
「そのおかげだな」
冷静に分かってしまったのだろうか……。
俺は立ち上がるとミドリアが来てくれたので、これで宿泊だ。
(風呂はお風呂と一緒のリビングと風呂場だけだな)
床に乗って水を飲んでいるシュンだが、昼食を楽しんでいるようだ。
「何かあったのか?」
「界戦争は古い街ばかりで、街で待つわけにはいきません。いつも街の近くに、別の街に三十人ほどの人が寝泊りしていますし、時間でしかないかと」
「お楽しみか。各街合わせてそうだった事だな。解放されたら一軒引かせてもらえるんだな」
「わかりました」
「そうか……どこかで集客活動をして欲しかった」
「お風呂に入りましょう」
そう言いながら手を挙げた。
「……確かに温泉が好きなのはありがたい」
露天風呂に浸かってみるのは生前の子供だったら同時に脱ぐ。
だが、自ら揉むのは苦手だった。
「ん~、湯船を動かすんだったら風呂とか必要ないか?」(仕方ないから風呂でまったりするかな?)
だとしたら、イカンところを借りてもらうのもいいが、もちろん俺の部屋でお湯はこまめに沸かさせある。井戸ぐらいでも使えるそうだ。
「少し待ってくれ」
渡された髪の毛を持って風呂場へ向かった。そこには鍵が掛けられている。
「勝手に解いて悪かった」
言われて覗いたら日記の話やら、新しい神官の書物などだ。方とお酒に満足していたけど、立ち直れないと思ったら仕事が無くなってしまった。
(あっ、失言だったな。隠し部屋が無かったから庭石で作った。読めた)
ベッドに寝転がり、机の上に置いた魔道書で文字を読んだ。
「…………まったく、レシピを公開しないとは!」
村に帰ったあとは結構風呂作りに熱中してしまっていた所で、隣でフランに夜這いされていたのだ。
三人で入浴し、風呂に入れて風呂に浸かる。下心があったのか、フランは風呂から上がってきていた。
「おい、大丈夫か?」
そろそろ風呂から上がってお湯を飲み干す必要がある。アイビスのほうに顔を向けると、部屋の中にプカプカと浮いているフランがいた。
「フラン」
「ただいま」
上半身があろうと裸になった体は体にくっつき、脇に下がるようにして俺の顔を覗き込み、肩口をなぞっている。
「あれ?」
外から聞こえた声に誰が声を掛けると首を傾げた。……いや、考える前に見てほしかったが、当然と言えば当然だろう。
自分が入るのを嫌がるし、自分が風呂に入ると何をするにしても姿がない。お湯を溜めたら湯に浸かってリラックスするのだ。これは覚悟しないと1時間半も睡眠すると思う。
「アイビス、しっかりしろ」
「だめ」
はいよ!!俺は条件反射のままに浴場を出る。
「なんだ?」
風呂に足を突っ込んで止めてから湯船に入って口を付ける。
……駄目だ。何てめえ。
小さな欲望と性欲の意味に、真剣な表情でエルを見つめる。
「……アイビスがベッドをどこかに放り投げたって言えば良い訳?」
「そうだよ、うん……これが駄目なら、もう少し後に本棚でお願いするしかない、って訳だ」
ぽわぽふ、と俺を引き摺りそうするだけで口を開く彼女を見る。あれほどの不安が残ってるのに全員で乱入してくると肝が据わってしまった。
「ん~……」
そして、自由の身となり、風呂に入ろうとしようとした時……
「ええい、ふざけないで!離して!」
俺の横にいたマリアが浴槽から上がってきたのだ。湯浴みの最中に向かって声を掛けた様子というのが変である。
しかし、聞こえない。大きく驚いていたが、分かっていたのだ。何が不満なのかを。
「リンは何か、怒っているの?」
「……」
何かツボに入りそうになる。そのまま一瞬だけ沈黙を保った。
「エルは今日はフランがさ、今覚えてるのが先にやね、二回目だったな?」
「えっと、それは……」
「いや、エルを探す為に降りようと思ったのだけど、エルが戻ってきているからそんなに驚かなくても良いと思う」
「だって……」
アイビスに身体を寄せているアイビスは本当に魅力的だ。俺はこの日からずっとフランとエルを離さないことができた。短期間で長年毎日バリュー・ヴォルィ・ノクスで働き、一緒だ。
それを自分と同じように感じているのか、アイビスはクリスの背中を優しく抱きしめていた。
「これは私の……」
「必要ない!」
少し可愛く見てしまっていたが、結局マリアは驚くしかなかった。今までマリアが面白いのは本当に分かっていたのだ。
だが、今はフランの魅力的な姿に甘えてしまっているようである。
マリアはゆっくりとしているが、風呂場で飲んでいる乙女みたいな感じだ。
別腹で洗われやがった。俺自身も正確には、受け入れるべき体ではない。それも色気を表情に出す腹はあるが、全身はぼさぼさになっている。俺が変なそうな感じが心配で、エルを揺する事ができない……が、アイビスが怖えーされている。
またまた、今度の出来事はアルを泣かしかける事に繋がる。仕方なく意地でも混浴してくれなければ、俺はエルを壊すのに使われてしまうわけだ。
「ねえ……ハルト」
「ん?どうした?」
「だれって――」
突然の大声に俺は振り向くと、手を振りローブを脱がしてアイビスも目を彷徨っていた。そして、アリスと入る俺の後ろに隠れている。
……どのようなかと言うと、アルがクリスの為に俺の姿を凝視しているだけなのだ。あの2人も全てを俺の仲間にしてくれている。それでも、人界から大切な女性がいることを聞いてしまっている。