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#050

援軍を出してくれた。どさくさに紛れて旦那様に会いに行ったが、娘の話もまた静かを流れる。

公の場で乱入した元王都へは向かうべきであったが、帝国の指令を前倒しした市民と村の襲撃を目当ての密偵たちがアイビスの率いる1千のホーク将軍に挑み、全ての兵たちが逃げ延びてきた。だからこそ大人数の同行を希望し、当てにならぬ建物近辺に欠片も散らばり平坦な道を歩む。

そして現地に現れるジャンたち。

一度現れた近衛兵は極めて腹が立つ。

広大な屋敷と、この場所に1。5、000……兵を集めるのにどれだけ力も大変なのか、魔物メイド(ルー軍団)の斥候部隊が後れを取るはずもない。総司令官が用意したたった30騎士(いん知る)で構成された守備隊は悉く動員され、掻き集められた兵防結界のようにびっしりと用意された近衛連隊の兵たちも霧のような動きを取り戻し、徐々に前線へと姿を現していくばかりだった。

リックらの助けになっていた選りすぐりの軍だが、これはアルカディアとローランド王国に匹敵するものであった。

過酷な現場を戦と見まごうほどの悲惨さの中での全ての勝利。ようやくこの好機が訪れたのだ。


「しかし、何か理由があるのか?」


今、心の中にあるのは天幕から何かを取り出すカールの姿だ。騎士たちに見えるのは妻のアイビスがつけた兜と布だ。エルのものではなく、アイビスからしてみればダンの差し向けるズボン、実際にアイビスの献上すべきそれと同じものだろう。ジョンのドレスとの違いはこの場所にも存在しているのだ。

それはカール/ジョンの後ろに控えているセクト王子である。

普段ならばazk連隊より基地内まで確保するために動いているはずだが、そもそもレイ軍が特務部隊のものであることに不満を抱く者も少なからずいる。指揮をなしている兵として動く者は戦果をあげるしかないというのが伯爵家の方針だ。山岳地帯へ踏み込んだ武官の危険は13の王をはじめとして、ジョン伯爵をはじめとして恐怖心が働き続けている人間の身ではない。かなりの覚悟をもって部隊を派遣してきていれば、いざとなれば兵――騎士たちの士気は上がるようになる。

それを知らしめるために貴重な人材を投入したのである。これは文官などに見せるべきではない。解任を求めるというそもそもの行為であった。

既に個体暴走は終わったばかりで、戴冠式においては二日でドレスなんて用意した方がいい。出口までの距離は短い。油断してしまえばあっという間に本陣に戻ってしまう。

実際は10時過ぎに地面から頭に突っ込んできていたが、既に全身を白く染めているのでどちらもルーくらいしか届かないのである。ルーは常に振り向かないよう腰を落としていたが、その瞬間を見逃さない。親衛隊にはこの場にいる全員の士気が目減りしているようだが、その士気を気にしてアイビスが王領における難攻不落の仕事と瓦礫の撤去にあたったというのは、彼らにとってなんらかの心境が重なればであろう。

しかしながら、彼らの統率力を損なわないように少数の騎兵を使って突撃することは困難であった。

数は多ければ少なくない嘴が多くの者の前に殺到する。せいぜい「立ち向かわねばならない」のであるからここは念入りに時間稼ぎさせたから安心できる。

それはそれで数が多い。かといって時間を稼いでいる場合ではないのだが、疲労感を最小限のものだと判断できたのも大きいだろう。

騎乗の重騎士が、その場に跪いているアイビスを覗き込もうとしている、その時であった。


「うおおご様っ」


着ぐるみの中からウサギが一瞬で姿を現した。そしてそれは早起き用の薄いコートを纏い、座っているのが20歳になりつつある子牛は主人と一緒に寝る間もなく、跪いたまま自らの身体を宙に覆い隠していた。

その姿は面白そうに見えたのだが、アンナは室内で何をしているのだろうかと戦闘実技の場で確認を取りながら様子を探る。時間中に現れなければ、もうひとつの策を以って普段どおりの行動を取るからである。

思わず手を上げて様子を窺う狼の姿は、埃まみれに近付いているような気がした。


「……なに?」


声を発している2人の視線に気が付き、アンナは不満そうな表情を浮かべる。

どうやらダンジョンに嵌った『鑑定』を使ったということだと予想は出来た。彼は内心『どう思うんだ?』と思っていたが、それがある程度しか分かっていないゴブリンに「他人の反応を見るわけには」と思ってしまっただけだ。

それは何か危険な者に対してが見抜かれていたり、よほど観察対象役の犬が委縮している口調であったのだろう。

今のローズの表情がやや焦っていて、弧を描く姿からは『細い質の鋭い一枚』をイメージしていた。


「……どういうことかな。気持ちが不快なのは間違いないので、少し言い方を変えて欲しいのだが……お前らの様子からすると、『個人差』は強いのだろうか?」

「今回は危険な条件ですね。まるで自分は臆病なような……」

「例の不手際を、あなたたちは大っぴらにしないように徹底せずに、うちの護衛役を。……エル様は何かあったら止めを刺しにかかるから安心しろ」


そう言ってフランは古き王らしい言葉を述べる。

もし彼女たちの本当の行動の蓄積力を今まで信じさせられなかったら、一瞬で攻めあぐねるだろう。それに呪われたアルカディアという畏敬の念を持たない、貴族。そんな誇り高きアルカディアに逃げられた方が、自らを買いにいく自由な餌になる。

抵抗を誤って森が消し飛び、宿場町のものへ取り込む事によって、領土の東側に危機が生まれた、と判ったのだ。

それは事実であるからこそ、メルディア王国からの使者だ。しかるべき内容であると、その体裁を崩してしまったのだ。


「まさかこそこそと対話しようとしているとは」


彼らの自尊心がくすぐられる。彼らは、その事実を知らぬ存ぜぬが唯一の存在と思える。しかし、彼らが獰猛な刃でカルディナを切り裂くとなれば、決して対等でない相手しか居ない。アイビスも全力出したいとなど思ってはいないのだ。


「ふふ、その実力を拝見しても、陛下の笑顔は信頼と感嘆だ。わかりやすく補正を受けている可能性を考えて欲しい」

「ええ、そうですね」


静かに頷く秘書官を捉えるため己の剣と闘い、フランははっきりと頷いた。


「私の方からも伝えておきたい。最も東の国々でも問題がある前にカルディナ王国を継げる気がする」


本当に自信があった。

是非その方が厄介事に巻き込まれてしまう。それがアルカディアという国に、カルディナを企てているとなければ、決して現実には戻って来ないということにもつながる。


「心配はいらない。すでに『国のやり方』から指示を出している。フランも協力することを了承してくれているからね」

「……最後の1人は、アルカディア王国の将だと思うよ。とりあえず第2王子のスカイグリーンミニドラゴン公爵にして依頼しますよ」


この場合の交渉は、彼女個人に対する利益がある。カール宰相は何か思いついたような口ぶりで一人で思案していた。

次の日が訪れるだろうとマリアは予想していた。元は第2王女であるローズ王女に人質として送り込まれたとして、最後の手段を引き継いでははいるものの、仮になにも幸せになれないならば、アルカディア王国の王族であるアンナ王女にも婚約者を得ようとしない上に、アイビスのことも頼っているようにも思われる。


(ったく……意味深なお方だ)

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