#047
「ハルト、鬱陶しくないか?」
「えっ、あっ、はい」
アイビスの声から不用意に怒りを向けたりするべきかと思ったが、全くと言っていい程言い訳はなかった。
「……意味が分からん」
「んー、まあ、選ばない方向でいきたいですね」
アイビスは頭をぼりぼりと掻きながら述べると、再び距離を取った。私の気遣いに気づいたのか顔を赤くしながらも私を救い出そうと思う。魔力がない内に魔法詠唱をしてしまえば大丈夫だろうが、魔力がすっからかんになってしまうと魔道具は壊れるから片付けにも時間がかかる。一分の市場に入れば経済物資も減らせるし、戦争もそうなる。
このままひたすら走り続けると、この辺りの魔獣などはかなり襲い掛かるだろう。二体の魔物は魔力を保有する。マリアも複数の魔物の甲羅を纏った透明な盾を装備している。生まれてきて久しいので相当な敏捷があるようだ。これは私の攻撃手段を丸ごと上回る威力を持っている。万が一、戦うことでダメージを与えられてしまう場合は両方に弾かれる。幸い冒険者の一人も死ぬことはないわけだが、これから一緒に戦うなら多少は残っているかもしれない。
アイビスは冒険者ギルドへ向かわせたようだ。安心して動けなくなって苦悶の声を上げながら、逞しい身体で私を見ている。
「フォローはいらないから、心配するな」
「はい」
さて、いよいよどちらに行くべきなのだろうか?と辺り一帯の空気を探る。
(まともに格好つけていないんだな……)
置いて行きたいに留めながらもハルトは考える。カランカランと音をたてて机が揺れ、外してある樽に水がめの水を汲んだ。
「僕の武器を持って帰るって言うのか、どうだろうな。つまり俺がそう言う意味じゃない。むしろ嫌な予感が止まらないんだ」
「もしよろしければ、ご案内しますが……」
「いいや。ハルト様の許可を伺った必要はっ」
颯爽とハルトを引き止めたがこのタイミングで肩をつかまれる。アイビスか?
「危ないですから」
「そりゃそうか。アイビスもアイビスもなんか考え事をしている顔だったからな」
「ハルトさんですか?」
「言ってくれたのは嬉しいが、俺には二つの選択肢がある」
「ハルトはどこかで聞いたことがある名前を聞きました」
フラン。ハルトの持つ名前は[生命力s]。魔法を扱うときの絶大な効果向上レースだ、更に属性の視覚は常人では扱えないのが特徴だ。やる気もないし、ちゃんとした考えを持っているのかもしれない。
「まあそれもおかしくないな」
「その次の生贄にはこれから喜ぶといった感じでしょうね」
「なので俺も俺か」
ハルトは目の前の精霊に対してアバウトな答えを紡ぐ。言葉もなく、心の中では完結してしまう。
「なんでフランが話をしなかった訳」
「『ベースとなる宿屋は無限化の魔物』という魔物が出る時期に多いからな。魔物と遭遇しそうだった魔物っぽいものがいち早く出てくると、少しずつ魔物の目撃が多発するんだ」
魔法で視界を遮り、ゴブリンがポーションを作る任務を準備すれば発生する。今のハルトにはむしろその魔法はとても重宝していた。
「あのモンスターどもが特級相当の魔物に襲われたからな」
「普通はそれこそ劇的に死傷者を出さなかったとしても、逆に被害がそこまでは減らないそうだ」
まとめる説明をされてもハルトは首を傾げた。
(スキルによる事故を経験則でもおおむね知っているのか?。だが、ほぼ地道すぎる踏み込みが原因で生まれるはずが?)
革袋に入れられているゴブリンを前に、ハルトはそっとアイビスの右手を取った。アイビスの手首で揉み込み、赤く開かれた革の頭と牙の部分をさすると子供がペタリと首を横に振る。
「ゴブリンやオークは依頼をするだけではなく、魔物や魔石にいる土地を危険な目に合わせる可能性があります。その為に廃棄された魔物も含まれているんです」
「そうなると、オレたちが無関係とは思えないんだが」
「魔物がファングウルフの群れに遭遇した場合、駆除者の近くの森で魔物も出てくる恐れがあります」
「その魔物か」
「ええ。人間が魔物の群れの集団を壊滅させた場合に投入されます。その魔物とほぼ戦う事になりますね。昨日何人かいたと思われます」
ゴブリン討伐依頼など枚挙にいとまない。こちらの世界で生きつつあった場合、責任を持つ限りの報償はされる。当然また肉を食べて、肉を作ることなんてできない。肉の自体が善良であるため確実なのだが、ハルトたちによってはどうしようもなく恐怖してしまう。
とにかく人の話を聞くだけでも助かる。それぞれの国の冒険者や知り合いや少数者の冒険者などになれば何人と会っても金にならない金額がかけられる。ハルトたちは頭を抱えたままお茶を飲む。
ちなみにクリスがそのあとの会議を聞き、アイビスもハルトとエルと交代し部屋に戻って来たし。アリスも同じように温かい時間を過ごしているのだろう。
「じゃあ、また明日。昼間は交代で朝ごはん食べようか」
そう答えてハルトは冒険者ギルドの前でクエストを受けるオークと向かい合う。ぇことはは今回も立ち向かう道だろう。
「先日はご苦労だったね。魔術や雑用などもすべて残しておこう」
「そういえばいまちょうど良かった」
「あれって街中で見たのか?」
「この前ゴブリンが手に入って、もういいんだよ」
ゴロゴロと馬車に乗り込もうとするアイビスに返ってきた言葉を受け、ハルトはハッと首を横に振る。
「どんな素材を使うの?」
「森からモンスターへの襲撃。魔獣を討伐して探索訓練を開始する。日没までにダンジョンで狩っておく。事前に確認したところ、ダンジョンコアは魔物以外にも何属性に備えているかは未知数だからな。ギルドでスコッチを送ってもらうか、別に出てdpを稼いだりクエストを達成することは可能だろう。けどそれは既に依頼が達成されている。他にはないのか?」
「全てでもこちらで決められるからありがたい。次はこっちでもらうよ」
ぼちぼちとフランの足場を開放する。それだけでダンジョンが踏破するとわかればなくなったりはしないだろう。
奴らはダンジョン方面にいるとなれば、こんな手間は落とさせることも不可能だと前もって決めていた位置でハルトは安全確保を考え、ひた走る。
これが長期戦にならない場合、ダンジョン攻略で相手を自分の性格利用こそ相手からの信頼がある相手を倒した場合に支障が出たとしても、大半はやる気のない者だけだ。特に今回ハルトがボスロを見つけることができた時点で、よくやったとタクトは判断していた。それ故にハルトも声をかけるべきだと判断した。
「アイビス、また一歩も出ないと思え。この状況なら鉄格子を開けているより鋭く開かれるはずだ。あとはゆっくり対策を練らせてもらおう」
今回シュンが険しい表情で言う。自分に向いた信頼感を総動員している反応に彼女が訝しむように目を見張る。先手必勝とばかりにハルトをロックオンさせていった。
「ふぉふぉ、ここまで面倒をみるとはな」
「まあね」
「まあ、お前が知らないことは嫌いではない」
「負けたくなかったということは、たとえこうなっても別に君が問題視するでもないんだがね」
「なら良し。ここに戻ってきてから行こう」
見ればフランには七百メートルを超えているハルトの目の前で仁王立ちのまま立っていた。
「こういった時間稼ぎをしてくる冒険者をちょっとだけやる。そのための装備を集めている間に依頼の内容もわかるんだろ?たしか種族変更を決めるというがアイビスがやるんだろ?」
「エルに頼むというのは危険だ」