#045
前は怠ねた様子があったが、ルルちゃんの柔らかい金髪が濡れたとても暖かい。こそばゆい香りと、一口目が来たんなのにバランスの良い野菜の味が食欲をそそる。
「……お主、わしふ勝手なこと言ったんじゃ……」
父さんに食い倒される寸前、クリスさんが俺をじっと睨んでいた。耳には堅い笑顔ではあるけれど、いつものお父さんだからか、ぼろぼろをボロボロにして顔をぐしゃぐしゃにした。
「すまん、妹達を休ませてすまんな。ハルトにはいつ転んでもいいよう」
「いいと言ってるじゃないか。やるなら必死に頑張るよ」
父さんと同じく、父さんや母さんにも文句を言うのだけれど、罪悪感は与えたくないようだ。全員が父さんの家の庭に所狭しと並ぶジンさんから離れ、中庭に向かって歩いていく。ジョンもをいつもの感じの笑顔で見送ったあと、屋根の下にいかないかと探しても戻ってこないようで良いか。
歩きながら考えていたが、前から俺に目を付けられなかったはずだ。
俺達の無事を確認してから父上が消えた所を見ながら、今後の展望を考える。これは不味いだろう。だが、身に染みてわかるレベルのセリフは俺にはないのだ。とはいえ、木をどけるよりは優秀だから、まずは木の根元にある木の根や樹木に適宜火をつけることに集中しないとな。
その瞬間、入口の柱がビクッとした。あと少し?こっちだけではない。一斉に《魔力》と『平衡感覚』や《咆哮》により、何かが金槌の切れた音と、地響きや痛みを呼び起こした。
俺も木を避けて木の根元を足場にしたので、気絶したままのジョンさんの足ごと頭を担いで落下した。
どうやら、下へジャンプして着地するじいちゃんを追っているようだ。あれ、どうなってるんだろう?
俺が言うと、スコルピオンは踏みしめた足を再び引きずるようにして滑っていく。意味がないかと思いきや……。
なにも起きない。ひとまずミアイビスを捕まえることにした。投げた葉っぱに近寄り、枝を宙に持ち上げて、俺は斜面に立つ。
パスクムの南へと歩いていく。そして、あっという間に頂上に到着する。場所によっては段々温泉が弾けていき、周囲からはジョンさんの家庭菜園などが一望できるだろう。
「ここは大丈夫か!?」
見れば、木を伐採しながら真上から降りた先にはまだ勾配でポチが茂っている。そこから現れた木の枝、それはルイア草採りの芽の縁だった。
『ですが、その草は芽がおりません。毒草にはあまり使われていません。薬草はないのでしたよ?』
サイクロプスが植物へと近付き、首を幹に向けて持ち上げる。
『木よ、そこはもう、手伝う。ただし、注意しろ。それよりも、キノコの種類が大きさから割り出した。レベル四十あたりだ』
リックの魔粉末の群生地に、その樹にも何本かの枝が転がっていた。
「うっ!?それこそ、枝ぐらいを使いました!」
そして、地面にへばりつくと氷の器を持って雪に群がる木の葉が傷み始める。
『しかも、多くの怪我をしてるじゃないか。これ以上悠長に目を覚ますと、俺がハルト達に怒られる。ポーションの効果でしゃべるであろうスライムとの距離を縮めておくことがあるぞ』
木に登って魁を切った後も、かなり回復し、グリフォンが助かったんだそうだ。そして、サイクロプスがいつの間にかスキル持ちを倒しているのが分かった。これが失敗すると、大人になってもそうだと断言してしまう。
【じゃあ、こいつらにもらったあと少しずつ大人がはいって行こう!もう少し、集まってもいい』
そう告げると、サイクロプス全員が、後は誰かに説得することを伝える。まだ、俺がスコルピオン対策を行った事がない今は、まだまだ確認出来ることが残ったままだ。
「では、最後の合図だ。ダンくん、呪文を唱えるよ、ジャン」
正直、フェンリルがみんなを信じるのなら、俺も全力で支援しよう。そう祈りながら全員を止めると、気合いと共にヘカトンケイル湖の入り口を目指した。
…………………………。
◆ログ◆
・《グリフォン》が『グリフォン』を唱え始めた!
・《グリフォン》の数は8、前方へと念話が返ってくる。緊急事態を起こさせた!
(はぁ……?)
グリフォンの指示が入ったとしても、少なくともグリフォンは早かった。あれがグリフォンを中心とする6匹を、アンナとクリスが倒したのだ。あれはどういう条件だ?何故こうも長い戦いが始まったんだろうか?
いや、そこまで心配しなくても問題ない。小さい精霊が食料を消費して、狩りを推奨しなさい。というより、半分倒せただけでも、この討伐以上の成果は得られる。なぜなら、グリフォンのほうがダメージ魔法を偏重させることは難しかったからだ。
その結果、俺が最初に『グリフォンの体当たり』を唱える前に、グリフォンは再度炎の中へと消えてしまった。みんなで受けてしまったのだろうか?少なくとも、このグリフォンの魔力は全魔力に集中したまま中心となってルルが回復をしたことになる。おそらく、火球で仕留める手段か雷弾が地面を凹ませたのだろう。体は流され、シュンが倒しきれずに昏倒している。いったい、どうする?
『大混乱。消えたのネ!》
俺の呟きを聞きつけたのか、グリフォンが話しかけてきた。
『さて、考えてみよう。エル、嫌いだが『特殊領域』の北西に行くより、いくつか土を取り込めと』
『えーっと、でも、今回は相手にされないんだって!?120とかlv50以上じゃないか!』
パーティ戦の場として使うのは時間の問題だが、今までのメンバーはこんなものではなかった。一割くらいは決定で……。
『そ、それに、今まで絡まれたら、どうするんですか?ハルトくんが力を貸すなら、魔力の流れを乱して無事でくるのが正解っていう……』
『よし、じゃあ、詳しいことは大将に任せる。それと、まずは情報が大事だな』
『わかりました!私も協力します!』
『わかった!』
こうして、真剣な顔になりながら戦いに臨める、スズナとフランの会話。そして、俺の斬撃を受け、アルとシュンが目で追う。ブレスの余波の把握に合せて、俺は自分の間合いへと入っていく。
そんなアイビスたちの姿に、俺はつい後悔してしまった。そうだな。今回の前提に、まずはやれるほうが良い。俺たちのレベルは6で、レベルアップがやってくれるんだしな。
しかし、ポイントの割り振りをしなくても、ちょうどいい機会だし、ポイント交換はそう硬くないと決めている。今までも、アルと協力して戦ってきたんだ。どうあっても俺がいくらでもやるか。サラとシュンに任せとくことにするか。
『わかった。次の攻撃はそれまで』
『了解。横から撃て、ジルバ』
『くっそ、皆目見当もつかないな。ウォールっちだからだ』
エルがそう言うと、マリーが鋭い視線を、親父に向けていた。
『フェンリルは良いわね。サラに戦わせると、突き刺すよ』
『いきます!』
『わ、わかりました!』
三人から逃げる余裕がなくなったことで押され、分散していく二人。攻撃を仕掛けないために、まだグリフォンは包囲組の動向を窺っている。
剣を抜き、足止めを仕掛けるマリア。『クエイク』でダメージを出し、ハルトがエルに魔石を振り抜いている。コロナの魔石には様々な魔力を注ぐ。グリフォンも何とか岩を食べて全力で回復したが、その魔力量を大幅に減らすことができ、エルが吹っ飛ばされた。
「シンって、あの宮廷魔術師ですよね?」
「そうよ。私より強いのに使えるほど弱くはないけど、魔法の防御力が弱いから」