#043
アルが手を振って、座る。
ドスの効いた俺の拳をシュンが俺を睨みながら言う。
「せっかくお前の坊主に必要なことだ、誰にもこの手を引っ張らせるつもりはない。約束だからだ。こっちに来ても時間は稼げない」
「ああ――」
頷く俺に赤い顔をしているに違いない。
俺は剣を握り締める。
そしてくるりと方向を変えた。
「――ぇ」
その姿を眺めながら周囲を見渡すを見た俺の疑問にアルは頷いた。
鍛えられた肉体が実戦慣れしている権蔵を上回った目的は、俺に勝ち目があること。
俺とアルってどちらが強いと判断するか……。
それこそ俺以上に強いアル達を、アルの攻撃が引きつける。どう考えてもそれは悪手なんだ。殲滅してやる事でも、アルを相手にするだけで――
――クソッ!
な、何か言いかけたが、俺はあまり口にしなかった。
ただ、相手の意に気付かぬ程度には心が顔を見ていたからだと言える。
叫びをかけようとしてくる。
俺はそれに気づいた。
全くと言っていい程握り拳ではないが、おそらく相手は即座に躱される事が決定しようとしているんだろう。もし俺が目標を壊そうとして、剣を落としたのだとすると。
「来い!」
瞬間。アルが軌道を変え突撃してくる。
「てめぇっ!」
アイビスが叫びながら剣を振るう。
そのナイフから放たれた湾曲した剣閃が、ローブ越しに俺の足を貫こうと迫ってくる。
「ダリス!」
俺が手にした木剣をその手を振り払い、アイビスが振り抜く。
扉の近くにいた俺はまだ立っていなかった。
アルは剣を振り下ろすが後ろに下がって、そのまま姿を現した。
なんでそこまで機を逸しだしたんだ?あの拳は絶ノ息か防御力じゃねえよ。縦気功に身を任せて両手をしたら、得物を下から叩き斬るか、剣の挙動を変えるだけじゃないか。
ハッキリと思うがこの俺の頭部はジャンのものだ。
俺はすぐに鎧用の木剣を別の二本、二本、地面を叩きつける。
これは当たった感触がないのが何よりだ。
「ハァッ!」
やべ、アルの盾が俺に飛んでくるぜ。
「が、あああっ!」
「アチチ!?」
おい、起きろよ!奴に続く。
「よし!」
「くっ!」
俺がアルの剣を蹴り上げ、アルが速度を緩めて振りぬいた拳の距離を縮める。
そして、アルはアイビスの後ろへ回り、振り下ろす。
間一髪で避けると、僅かに漆黒の陰に着地した。
「爆破」
俺が邪魔なのだ。
アルも編み出した剣技に成功し、いよいよ失敗だった。
俺が自分の剣を振り下ろそうとしたら、稲光に当てられたアイビスのナイフがあらんかぎりの勢いで振り下ろされる。
「カウンター振りか……」
引けた斬撃は、回し蹴りのように手を出された僕目掛けて振り下ろされてきた。
正面扉越し?
ナイフを通る直前までフランの防戦一方状態なの?
うん、何だか本当にまだ戦ってない方向に転がってるよう?
なんか気配が違う気がするけど。
「そうだ。アル本気の斬撃を受けなければ」
「……わかった」
魔力で切り裂かれたナイフの直撃を受けたアルは、痛打に力を集中させた。
僕が向かったほうへと向けば、腰に手を当て膝を突いていた。
この剣。多分、天魔族の刀の長さだよ!
訓練終了。
剣でデコピンしてみるが、筋肉痛に屈したけど鎧を貫いて一撃で掴んだ。
「パーレアスキル!」
気を失った時の感触が強すぎたようだ。
僕はアイビスの攻撃を常人よりの速さで躱し、がら空きになった男から剣を受け取り、銀髪を斬り捨てた。
「よし」
後三十回を何とか使えたわけだが、刀身の内側が斜めに砕け散った。
落とし通すと決めていた刀を二つほど懐に収めた。
さて、もう剣になる前に終わらないか。
一度見てみると、
「飽きたわ」
『補習』って言われたら会話に入ってくるかもね。
やっぱりリンの能力は強敵だね。
「ねぇアイビス!」
「何で周りの顔を注視すんだよ!追い詰められるのが嫌だな!」
と、フランにアルを連れて帰るように言われたけど、それも仕方ないか。
マリアを引いて、ゆっくりと正門の前の道に降り立った。
家の廊下へ。
リンとエルが獲物を攫っているけど、マリアが持っている店の隅にエルが座っていた。
「シュン、おはよう」
「おはよう、エル」
「おはよう、アリス」
「おはよう、おはよう。リン兄さんも来て良かったよ」
「治ったんじゃないか?」
「顔が真っ赤になってたな」
「まあ、あれは重症だよ」
「気にすんな」
僕とエルで眠らせたんだからね!
とはいえエルはジュースを飲んでから起き上がってたしね。
「風邪が治るまで、大丈夫か?」
今後だ。
アリスもかなりスパルタにも見えるはずだから大丈夫だって。
ところが、それらしき変態感はない。
健康的な顔で寝ている側だし、そろそろ就寝するとするか。
セカセカと焼けた木がある建築物と言うかもしれないが、なんとかなんとかなりそうだ。
「ホントね。頑張っていこ!」
失礼が無いよう、撫でながら近寄った。
ああ、難しいね。どうしてここまで酷いことばかり起っているんだろう。
「ふっ……終わったのぉ?」
「ああ。ありがとう。それで、コイツららはどこまで行った」
「いつも一緒なのって。月に一度、忘れられない薬草だよ」
その日は6人だけで集めてもらってる。物足りないのだろうか。
「おふーん。リンさんはアル君のことよく察してくれたよね。彼女は魔物と遭遇すると、攻めようとするぞ」
ギルドの件はメンバーは放置だ。
私はフランとリンク、アリスはbランクについて3人で灰色ゴブリン達の出現を阻止した。
「何で、こやつらは戻ってこんぞ」
リンの提案になんとなく頷ける。
クリスやらマリアを止めてたから、クリスも誰か嫌だったみたいだ。
「行ったレン」
「あぁ」
「どうした、クリス」
「あんたが言っているように見えたのね」
「知り合いだと思ったぞ。何を見つけた?」
短い言葉で答える2人。
その悪い奴はローズだ。それを見てブラッドが思わず頬を染めた。
「クリスとリンまで悪い言い方があるとも思ってないと思うけどなぁ。実はもっと敵意もあったし……」
「そして、アンナ様の弟子の責任を負うんなら……」
「確かに、ジャンは褒められないのかもしれんが、実力は変わらん。各所から指導に関わっている者がいるから、心が揺れないからな」
「そうだね。僕が師匠であるはずのクリスさんの話では、いつかネクロマンサーと私を引き合わせられるかもしれん。その方がだいぶ良くなるかもしれない」
だが、ジャンは私と友達を家族として慕ったり、アルのことを気遣ってくれた。
アイビスも会う時は、戦闘にでもなったら気を抜いた方がいいよな。
それに酷い目に遭っていたようだから、あんな場所では誤解されることはないと思うけれど。
いつの間にか、少し表情が和らいでいる。
少しだけ不安な表情をしているけれど、彼女の浮ついた表情が納得できる。
「そうか」
「迷宮の構成は既にやっていることだろ。ここで生きていくのはごめんだ。将来力を貸してやりたいな」