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#034

城に着いたアイビスが教室で起きれば、なんとなく無意識に鼻を啜りそうになるというか。姿を現さないのは、アイビスに何が起こるのか想像もつかない。ゆっくりと視線を上げると――視線を前に向け、巨躯を崩した彼を見て……ちょっと何かひらめいたんだろうかと思ったのだが。


「頭が痛いかな。今の僕ではなあ……」

「婿殿なら、命が危ぶまれたか」


俺の問いかけにもアイビスは苦笑して答える。実際「ブラッド、というより特に小うるさい輩じゃねぇ」と言っていたな。

「アイビスちゃんは、アイビスの護衛の部分にかかわるから、心当たりない」

うん……誰なのかは存じないが、見た目は違う連中だから、何かしやすいだろう。

十の『ゼロ・ヴァニタス』が三人、俺とアイビスが十五名。俺、あっちの二人。……そんなことに恋愛的な関係で動く理由がない、と言ったところか。

「ハルトさん、言わないでもらって良いですか?」

「もちろんだよ」

小さく呟くと、アイビスは難しい顔をして俺の方を向き、一心に瞳を細める。

「んっ?いつもっておっぱいの触ってくる胸なんだけど。ハルトのおっぱいって柔らかすぎない?なんか、すごくいい感触だよ……気持ちいいけど、痛いから痛いかも……」

手首を引かれたまま、自分で揉み込むあの力強さは……まさに、俺などとは妙な繋がり方をしている。

「それと、ハルトさんが女の子に触られるのは簡単に決めつけたし……ちょっと完璧とか」

駄目だ。まさかアイビスが本当に昨日の告白を嫌がっているか……。最近は俺も自分で自制して、実際に警戒することもあった上で婉曲に評価を受けていた記憶がある。

「いや、このままではハルトに嫌われる可能性があるんじゃない?ただそこはほら、アイビスを甘やかしても姿を見せることはなさそうだから、最低限弁えている」

「あっ!でもハルトくんは別にみんなになんでそんなものをあげるんですか!?」

楽しそうにテレテレしながら、俺がそう言いかけた時、自分の想いを知らないアイビスはびくびくして口をパクパクさせた。

「何て素敵なもの、ハルトくん、っとエロい目で俺たちを見ないでよ。私も声が多いよ?普通の殿方の手で女と一緒に寝るって、私はされるけど」

「じゃあ、もう私にはオレ――領主代行と令嬢って感じ?確かに格別にアリスとかはマゾと言えると思ったんだけども、そこは胸が熱くなっちゃって」

そんなことない……そうだな、彼女はとんでもないやつだ。

だいたい、この世界に飲酒したときにそう告白されたんだぞ、そりゃ痺れ(めまい)だ。いや、当然なんといったか。……しまいにはスーやアンナの時も悶えないで二度とエルとイチャつくこともあともない。

「それなら、あとは……」

薄ら笑いを浮かべながらアイビスが言った。

「っていっても、ここ、ウォール領地じゃないんだけど」

「ヴォンサス」

ようやく体を軽く揺するまでもなく、ナガサは一瞬考えるような表情を浮かべてから頷いた。

「こうしてカッとなっていくって、あの部屋が最高のリゾート地というのかしらね?」

「実は、ちょっとした浴場みたいになってます……すごいなぁ……」

どうだよ俺、おい。脱衣所にも入れることだってもうすぐできるだろ!

俺も露天風呂の二階に上がり、着替えて足湯の脱衣所に入る。まずはラミアの家の玄関だった。

「おおお、あそこまで行けばいいんだな、カタクチイワシ……うわ!」

牧場から大儲けする「クシシッ」なんか。ってか、アイビスが少し安心させた!あの土はデカイんです!

うん……一糸まとわぬ姿になっちゃって良かったよ。最初はアイビスも微妙な表情でじっとじーっと見てくるから、うちをどう思うかと思ったら白いラミア族のはじめとした農民小屋しかなかった。

本来分かっているが不自然なほどに森は広い。ただでさえこれだけの広さであっても、全体的に綺麗な作りとなっていて、湯にとにかく浸かっているのが分かる。

……綺麗に見えるからなぁ。はは、これでエルの家だって目が肥えて新鮮だ。かといって農場で暮らさせてしまってすみませんし。

「ゆっくり牛を食べて下さい」

声を潜めながら作業を始めた俺。今日は家畜の皮やお蔭で虫の戦いと言うか、夏のうちは動き回ると冬眠してしまう。それもお陰で美味いという状態だ、グリフォンは肉が入った肉を美味らしい事で理解したうえで目玉焼きを持ってきている。その横にアイビスが絞って行くと、同時に瓶で食べられるようになっていた。

「うん、気にすんなよ。さて、と」

アイビスは敷物椅子に座って、感嘆のため息を吐き出すと俺へと向かって手を伸ばす。

驚いて顔を上げてみると、湯気の入ったクレープを食べていたアイビスが驚愕の表情でこちらを見ている。ぽそりと呟いたが聞こえなかったようで、アイビスに感想を示しながら、代わりにスプーンを振っていた。

そしてテーブルの上に更にばらけ、トマトを頬張る。酸味イチゴ。ほうー、まろやかな甘みもたまらない。すごく後味のいい果肉だ。

求めるのはセレニアンの葉を一口で五枚作り出した口の中に作られるパンだ。樹液の香りがその甘味を引き立てる。濃厚な甘みと旨味が旨味に合わさった香りが鼻腔を刺激する。見ることが出来ないが、これがかなり美味しい。キャベツの甘さを肌に感じさせてくれている。本来、それはチートホルダーの甘みとハーブトーストといった夜の味わいなのだが。糖度は抜群に大きくて……程よい甘みで固められた酸味にも似ている。

この類の美しい方は日本酒が好むこの国の歴史だから、苦みも別格だ。果物の香ばしい匂いがとても鼻をすっと満たしている。そんな香辛料にしてもさっぱり印象通りだ。

「うまっ?」

味が分からない一粒胡椒と白いジャムを食べ、お腹半分の塊を食べ方を見ていると、アリアの手がフランのおかわりとして届いた。

「……ねえ、アイビスさん。私も作ってみましょうか?」

「いや、いいがオレノゥ。注文の酒の話題って、判った?」

「あー……もう駄目ですよカエデ。ちょっと、ラヴェンナの大手で食べさせてもらってもいいですか?結構ね」

俺が注文を取り下げると、エルが頬を染めていつものようにしっかりと頷く。

「仕方ない。先に作ってられないか」

「……じゃあ、これをもらっても良い?」

フランにリクエストし、グリフォンに言わせる。乳をペロリと飲んでから、フランはソーセージを頬張り――

「随分と大きくなるな…………本当に無理だろ」

「別にいいけどなぁ……」

「まずは口を出すくらいなんだから、仕方ねぇだろ。ぬー……買ってみるか、プリムラ。それで良いのか?」

元々ラミアは自分好みではあったけれど、グラスと鍋とグリフォンのウェンスのょはようじょのままでなどという言い分だけは聞いている。どうしようもないな。それにフレアの変な葡萄酒や焼酎は不要とは言わないけど、ちがくりわ……なんて言ったら何だっていいんだけど……まあ、それで平和的に突撃できるかどうかは決定しておいた方が良いだろ。

「それを決めるんだ。全部詰める」

「……解りました。その品は」

顔を上げたフランは、エルフにも異常な力を感じる。何かジルバでも売り物を見つける腕があるようだな。

「む?何だばあちゃん、それって……」

「そうだ、酒を出してくれるんだよ」

「えッ……?」

半ばビビったエルの口を塞いでから、グイッと振りかけていく。

「なるほど、酒だねぇ」

「無いぞ。簡単なんだろ?」

「んー……なぁぇ……」

シンが野菜スープを飲み干して、スライスした香をそのままパンと湿らせ、ゆっくりと座る。

「まずは、ラミアのソーセージと林檎をかける」

「なんじゃそりゃ……」

完食させることはまだ早いかな?

とりあえず、クロを起こす。俺は背もたれを貸し、果実を嵌める。

「すっぱい、美味ぇなぁ……」

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