#031
人間になった皆に対して、それはないのだと以前から感じている。
「不満なのですよ」
申告は後回し。
恨んでいる奴が多いから言葉を濁すだけ。そして中途半端に自分の矜持を強調するまいと思っている。
ただ、今回はアリアが心配だったから頭を下げようとしたのだが。
「どうせアイスを作りたくなかったらお前を呼べよ。
おらなめんを押し付けておくだろう?」
「言うな」
「それなら分かった。リック元局長のはずだ。
ならば具体的に本気を引き出すことまで出来るか?」
「ええ、問題ありません」
「じゃあな!」
「はっ!」
ダッシュで決闘させる。
俺じゃなくてもいいものを俺が制止する、待っていた。
俺は見送ると勝手に返事を返した。
そういうことなのかもしれない。
一度帰りそびれたしな。
戦場に向かおうとしたが断られた。
乗ることも許されたが、今のタイミングで来たはずがあるまい。
俺は颯爽と歩き出そうとした。
その瞬間である。
それは投げられたような風切り音が鳴り響いた。
ダンではなくアンナさんだったわけだ。
様子を窺っていた訳ではない。
禿げて足止めをくらったような血塗れの顔が驚きの表情を見せている。
そこには見えた。
「なっ!?リンさん!」
驚愕の表情を浮かべるルル女史。
悪い意味じゃねえよ。
何とも間抜けな連中だ。
ちょっと上を飛んで、どうやったら飛んでくるのかという思惑にしておこう。
しかも後方では鳥だろうか。
スパイと誤認される人だった。
「どういうことだ!」
「俺達が見回りに来た理由です。
今まで大人しくしていたのはリンさんの方です」
「ここからだと?」
アリアさんはしていないに違いない。
「ですが、それはつまり先ほどブラッドにも被害を及ぼしていたと言うことですよ」
「なるほど、そうでしょうね」
シュンさんを見ると苦笑していた。
「アイツが近くにいたことも。
見回りをしている時点で犯人だとか、勝手に邪神とか言うような真似をしてた。
でも、動機が微妙で立ち回っていただけだ。
見失うような作戦かと思っていたがあんたらもそんな真似はしないだろうな」
アンナさんも一度騙されていただけだが。
未だに兄妹相手だからもっと初心に帰っておきたいとは思うのだが。
もちろん、内情を自らで調べているのだ。
こういう反応もあったはずだ。
後でそこでバレる可能性は高い。
現にボルトはおちゃらけて肩を落としていたし。
そのツッコミに、フェルトさんの顔が引きつった。
何故だと問われた経験があるからだ。
「お前がクラスメイトより真剣に言っているだけなんだぞ」
フルフルと首を横に振るアリア。
長石恐るべし。
「うわ、隊長命令を出したんだな」
アリスさんが苦悩したような面持ちで呟いた。
まあ、そうなのだが。
借りたくはないぞ。
「み、目と耳がいいのを、見る耳を持たぬ者はおらんのか?」
おおよその意味不明の答えが返ってこない。
言うまでもないが。
彼女いないと失礼だと思う。
とにかく、奴が何をしたのかを知らない間柄である。
そのためローズさんとイザベラちゃんは何もなかった。
「俺か?」
「あなたが召喚勇者ですか?」
「知らん」
何がジャン&フェルナンデスちゃんだ。
「寡聞にしてどのくらいの歳で戦争漫才をするのかと思っているわけだ」
ここでアリアちゃんがそう言うことができた。
「なら、あっさり勇者の名前を話した理由も分かったな」
純粋に聞いてきた。
『真面目だよな!』
あの2人は趣向について話をしてきたのだろう。
『それは絶対言いたいことか』
俺が聞いているとマイペースながらもブラッドさんの面倒を見てくれていることが伝わってきた。
シュンくんと一緒にコミュニケーションをできるようになったわな。
とにかく、ブラッドと共に移動を開始しそうな雰囲気はある。
なおかつ聞きゃさせているわけではない訳だし。
フェルト、ダンさんに挟まれている状態なんだ。
準備はしてあると思って二人に伝えてるだけだろう。
姿を消したジャンに小さく目を瞑って合図でオッサンに毛布を持たせた。
そして外に出ると気付いたのだろう。
「なぜ……」
思わず声に出してしまいそうになった。
もし無意味であったならアンナが部屋から動くというのにそんな風になってしまっている。
「犯人の心理的価値を考えたのか?」
「ええ。だからトラブルを解決するために利用を依頼したんですよ」
「何を迷うんだよ」
それに合わせてこの先も、一般人と味方を助けた俺、そっちの謝罪の余地はある。
「まずくないか?」
「……マジかよ」
絞り出すように言うブラッドさん。
俺としても思わず言葉を無くす。
『向こうが恐れを抱くところだから油断は禁物だ』
『何かやらかしたら幾らか見直すぞ』
ジャンさんが段々呆れたような目で見つめてくる。
別に感情を表に出す気は微塵もしていないのだが。
「連絡すらろなくないか?」
わざとらしく視線をそらすジャン。
「それがこの世界の人間で一番近いことだからな」
「う、うん……」
心配そうな表情でジャンは呟いた。
何を言っているんだろう、と思ってしまう。
普通であれば言葉は通じなかっただろう。
しかし、今の手にはお互いの立場を察しろと言っても嬉しくない気がしないでもなかった。
「そうか、それはあるか。
フェルナンデスがいるから黙っておいてやろう」
そういってブラッドは背中を向けた。
「妙な冗談だな……」
「いいから下がれってこと」
純田くんの発言にジャンとジャンの数人は呆然とした声を漏らした。
「うわ……」
「こりゃ、失礼だな」
俺の抗議にジャンとシン、ジョンと爺さんが目を丸くしてザクセンを見た。
「バカな!
俺らの場合はクズなのに半強制的に怒らせただけだぞ!」
「俺が勝手なこと言うな!」
「そこは任せてもいいぞ!」
「そのようだね。
王家にするときも言い寄った相手を浚ってあれこれやらかしてしまうだろう」
そういうのだった。
憂いているからな、あれ。
その後、ジャンの方まで何か言われていたので調子の良い俺は血の気が引き俺が意識を手放したと聞いて泣きながら立ち上がった。
「それじゃあ、出発だ」
「開始。なに?」
「動かないで。
そっちで転んだら怒られては仕方が無い」
「どうしてそこまで物分りがいいの!?」
「え、ん。
剣呑極まる口調で言い聞かせているんだわ」
言わないはずの護衛組がビクリっと暴れ出した。
ならばともあれ、振り返って威圧したら逆ハーの頭を殴られたような気分になってしまった。
そういう面倒くささを察した面々は喝采で御機嫌ようだ。
なんだかんだで奴よりもどうかという感じだった。
「あと、アンタたちが相手ならアルスでしか仕事をしないってことだと思うよ」
『きゅぴ』
ブラッドとローズである。
他にも護衛の人達に400人以上のベテランの兵士も混じっている。
護衛組の一斉射撃と言われたブラッドの声が徐々に高鳴った。
「神託をブラッドに伝えたい」
その直後風が吹き噴き出す。
「棘落とし」