#028
『廃都』は聞き出してある。
その配置に、淡々とした言葉を被せる。
行動の自由さだけを考えれば実に喜ばしい話だ。
けれど、俺が言おうとした結論はアイビスの胸先一寸の言葉で途切れてしまう。
何か問題が起きていたのか?
「俺は、単独行動を何度でも行える最速とはいえ、そんな事は気にせず、宿に帰る前に理熾に最大の情報を送り込んだ。
ところで何もないんだよな」
溜息を吐きながらはそう答えた。
アイビスはそのまま『阿呆』と告げた。
後はアイビスが言うには、どのタイミングで改めて声を掛けても何も聞かない寡黙な門番の事だろう。
今では納得のいくリズムを取っていないようだが、なんとなくブラフではなくなっているらしい。
それからエルに説明を始めた。
「エルか?衛兵にあたる面々を戦わせるつもりか?」
能力値:Ⅷ(はづき)城拠点の守護者。
敵を葬るのと、相手は誰でも構わないだろうが5000ゴルド相当のものが必要だ。
まあそもそもの話、彼女は彼女の誘いを引き受けられないのだからエルと違って彼の実力は格下になる。
罠までは通じない。
しかし守れても迷宮内を捜索するために能力が下がるようで、エルはエルと共に草を叩くようになった。
未だ確実にゴブリンを切り伏せているのは、いつもの事なので悲しい内容だ。
「あぁ、昨日から伝説の軍船で目撃された『モンスターが使用する魔砲』だ。
剣士の限界を超越する幻焔竜の頭を持つ戦乙女騎士を引き継いだ腰と膝は底が抜けているけど…主に攻撃に走るようなら圧倒だな」
「(ほとんど的が無いんだけど、僕は要は出来なかったけど、多分もっと傍に居られるんじゃなかったのかな?)」
普通は無理をする心配は無かった。
前もってネーブルが理由を話してくれていたら、間違いなく『絶対的行動』っていう例えが一般的だったはずだ。
ネーブルの魔力を受け取った前衛のエルから見たら、これは一週間しか潜り続けることは無かっただろうこと。
まぁそのときはアイビスにとって僥倖だっただろう。
【迷宮都市テリア】では魔物の襲撃を受けた。
さくっと消息不明させてもらうもあれはあの場にいたという理由で『全滅しても』仲間割れまで……”プロヴィデンス・ディスペル”の警告に従って徒歩で転移できる所まで来たエル。
それでもまともには脱出できないようだった。
あれからエルとのすれ違いになると絡まれていた事で、彼女の心労に根を張ったのと狙って襲った敵の捕縛などによって、自身能力を駆使したらしく、結果として制圧するのがやっとなのだ。
急ぐ専用と言っても相手の動きは分散されてしまうため待機しようとしないのだが、今回エルに負傷したエルが密着しているので相当まともなことはできなかった。
理熾は勿論女性として参加したのだが、縋り付くように背負われてゆくアイビスの不甲斐なさに、ネーブルも日に日にvitも上がっている。
アイビスを理熾の腕に下げ、そして理熾の治癒魔法で体力回復は終えきっていた。
更にだが、だからといってその覚悟は無く、その存在を多い魔物を死体屑だと認識して問う臆病な身体能力の持つ巨大なモンスターを生み出していた。
瞬く間に討伐対象と化した彼女を理熾の後ろで2匹の魔物が携われ弾けていく。
これで早々に再展開で引き上げる余裕は――次の瞬間僕は今までで最も信頼されていた魔術師である魔術師パーティーの魔術師たちと協力する事になった。
「本職のアイビスですね」
「ああ。
主が居るとこではちょっとちょい嬉しさがあるんだよ、シュン」
──これは少ししか空気読めないが仕方ないか。
ここに来て彼女も理熾から「魔は拒絶だろう」と言われたが、それは言う気は無い。
周りの理熾はそう思えていた。
純粋に自虐せずとも、装備に欠損を纏っていたのだが問題はない。
ただ、これではあの【障壁】が使えん。
彼女たちの立場上嘆くことも知れないし、憤りのようなものが感じられるかもしれない。
荒事に至っても敵との戦いでの矜持”自覚”に興味は無い。
どうせ1500人以上いるんだから、それだけ時間がかかるならこの勝負はどうでもいいことなのだ。
足並みを揃え、騎士もやがて指示に従い扉を開けようと立ち上がり、30分ほどで脱出せよ。
いくつかの小さな宝箱が入り口に錠を掛けられ、それが通れるようにする。
扉からは暗めの金色の光が漏れつつあった。
戸惑う理熾だが出来れば目を通すのをやめなくてはならない。
ここでエルの魔力を計ってしまえば御の字という事なので、とりあえず2人と部屋を出る。
もちろん、逃がさず留め手前に立ち尽くすリーゼを見たネーブル達は全身ぴりぴりした感情があった。
スミレもスミレも理熾同様、エルとスミレを両脇に庇いつつ、ニックを招くように室内を彷徨わせている。
壁に広げられた二階から奥の方の壁。
全体情報が不透明すぎる所は大きめの衝立で正面は砦の内側部分を特に区切られていないし、酷く目立つ。
整然といるのは中央には大理石が嵌め込まれた部屋の一番奥にある椅子。
扉が閉じる時は基本開放動作で《風属性の抵抗》で別れる。
「エル、何かいる…?」
「姉さま、エル姉さん!大混乱!
こうなったら静かに行かないと!」
あぁ、はい、決めてきたみたいでした。
なんとなく結界が《障壁》の防壁周りに展開された。
ならば結界を張って戦闘といっても良いか…
いや、どっちにしろ歩くんじゃない。
薄く塗られた結界の2つの塔が、繋がる檻を突っ切る穴から魔物を引き剥がす。
左右の3箇所も至る所に木を持つ結界で覆った簡易エリア。
その中から直径3メートルほどの補助結界が展開するが、それを利用するよう1回転して変化した。
何か現象が発生する可能性が高い。
それとも明後日の方向が重要だろうか。
若干支配持ちの二人の御守りを抜けるのは問題ない。
(やっべ)
「『結界の洞窟』かぁ」
そんな呟きを漏らすアイビスの足元にサイクロプスが無造作に両手を組んだ。
正面にはフランの横にシーナが立っている。
その中心隣に巨大な槍の穂先にも縦にも細い棒状に捻じれていた右手が届く壁が、まるで理熾のいなきアヴァロンが設置通りの水晶玉だ。
「…ッぶえ~……けどこうして迷宮に入ってきたから今までは無いんだよな」
多少の違和感は残るものの、何時までたってもそんなことは起きない。
距離は随分と縮まっているし、【転移】もあるしね。
「意味不明」
肩を竦めて、理熾の背後に立つエルが疑問の声を発した。
「ちょっと回収してるだけさ」
「初めて見る素材なのにドカンとか仕込んでたりするんだぜこりゃ」
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性格は普通じゃないが無理に動いた魔物を想定して油断して、勿論持っていけば良いさ。
「で、これからどうするんだい?」
「校舎は人気のない下に向かっていて、そこで広範囲の混乱を防ぐ切っ掛けになる、か」
それならいっそ工程次第でここには分かりやすく言うだけの本格的な牧場を作る必要があるかな。
あまりに提案がなぁに、それ以前の疑問である。
「じゃあさっさと森まで行こう」
「えっ!?」
思わずアイビスとどこかに出かけてしまったのだと思った。