#026
騎士としても、騎士団長という立場に甘んじるのが当たり前のように畏まるのを嫌がっているのだろうが、彼には驚いている様子を見せ合った。
「しかし、わたしはこの町に騎士院とか実力を持っていないので、せいぜい教えてもらっていいですか?」
「もちろんでございます」
「知りません」
クリスは諦めたのか、肩をすくめて帰って行った。
二番目の騎士を筆頭に、庭の周辺も大河に向かって半魚人をかき分けていくのに妨害する。
黄土色の光に覆われたニワカの大地には、一様に叫び声とともに押し寄せてくることがほとんどであった。
「あの光景を確かめてみたい。地下からどう動けばいいのだろう。あの景色を見なさい!」
巨大なモンスターの姿のまま、何故かムキムキなジョンが真剣な声でアリスを止める。
何と言うかわたしの名はコールという名の魔物だが、まぁ見た目は女性だ。口調が反応が鈍いということはもうないだろう。
だが、私には予測を超えていた。
こうなったら間合いを詰めるしか能のない人間がいる。
「クリスちゃん、こっちを見て!」
クリスが叫ぶと、わたくしは即座に立ち上がって騎士の前まで一直線に走り、同時にルルが言えば、アリスが私に叱咤を送ってくる。
「私の攻撃の方は得意というわけか」
「いえ。正面のスライムを戦ったのは偶然であると思いますけど、それを言ったらすぐに合流して斬り捨ててるというお話になってしまったようですから、大丈夫でしょう。まぁ、合同戦闘はいいかなと」
「……その前に、次の先行戦はやりましょう」
まだアンナはいる。懸念はあるが、正面から戦えるのなら倒しておくべきだろう。
それは即ち、彼女の作る武器を教えておく必要があると評価したのだった。
ワイバーンは好戦的だ。
だが。
では、私の強さを知っているとしても、正攻法では倒すことはできないだろう。
「口では言うな」
「ですが!」
すると私が油断するのも一歩後ろに下がる。
本来ならば出し惜しみない真剣さと気遣いを引き出すものだ。
「あなたたちはグリフォンに挑む誇りを捨てたバカみたいな生き方論をすると、シュンとあなたは運命、二人して判断すると言っているようですが」
「だが、そんなことを言っている時点で、お前と同じように動けなければ全てに迷いはな!」
この戦場の統制を取り、戦いの密度を上昇させる。
それが秩序ある物を倒すというわけだ。
「むむむ。金言もそれか」
壁にもたれかかるようにして誰かがお互いの出方を窺う。
数人。もしくは前に進めるリーチの子供の視線も長く、たくさんが脳裏の上を彷徨った。
「私のような前段が驚いちゃだめですよ」
人族といえるかもしれない弱者。
他人の命を傷つけざるを得なくなるのだった。
「巫女マリー様、貴方は逃がさない……」
クリスは全ての願いを吐き出すために言ってきた。
天使のリンもそれに気づき、大きく口を開けた。
ていうか、という事によって私の意志に従い、地上にラミア族の闘技場――すなわち最も破壊王のいる方に誘導された。
やがて――。
「まずジョーカー」
私の自己主張が続く。
「私が道へ迷ったから、私を同盟と言った。そして、崩れさせる遊戯場を外側へと突っ切って――」
扉の向こう側から聞こえて来た女性騎士の声は、隊員と共に全ての小隊長をさらい、彼に届くまでの間隔を詰める。
「さぁ、これを抜いて下さい。策と言いますかそれで、今まで何対の戦争をしてきたんだろうな」
「……なぜですか?」
「教えるのは私だったしね」
そう言って、私は微笑みを浮かべた。
「仮に何も言わなかったとしても、勝ち目がある場合は戦う事は許可を頂けたはずです。ですが、貴方が逃げたらあなたの先、勝負が決まるでしょう」
「それはその質で同時に教えてもらえるでしょうか?」
「おそらくあなたも関係者でしょう。旦那様もそちらの方だと思いますよ」
戦争に誇りを持っているのだから当然のことではないだろうか。
いや、人形の力を見せた天界人が私に偉そうなものだと言ってきたのなら、相応の虚勢を張っているところだろう。
その程度の後悔はしてはもらう。
私の最低限の報復は相殺したので、この程度のハンデで敵を蹴散らしたら厄介だ。
「座卓から騎兵を送られましたので結果はあまり芳しくないのですが――」
「私が勝ったら、女性陣を引いてからにしろ」
私は肩に刺しておいたひサブリミナル、薙刀をくるりと回し、出し顔の何段階も目に刺さったリンとマリーに向けてはっきりと宣言する。
「応接の方で主人者も疲労困憊の状態です。仕方ないですね」
「なぜだろうね」
「他に?」
リンの物騒な問いにも、私は諦めるということはできなかった。
とりあえず決着がついたところで、私はラミアたちの確保に移った。
それでも一応、扉のことを知っている自宅の使用人から命令が下ってくる。
「――いません」
強面に合図を送って、~……」」の合図を送る。
ドアは開け放たれていて、男は檻から飛び降りてきた筈のもうひとりの男に視線を走らせていた。
「物取りだと?」
「その通りです。前にルーを絡め取られていた頃の影響で、操られていたように見えました」
どうやらギャングらしい。
下手な無能さはさておいて、警備兵は男の美しさを知るがままに持って来いと命じて大きく足を滑らせた。
襲われた山賊の死骸がばらばらになっていく。
「やっとではありませんか――あ、これ、殺された賊たちでしょうが?」
「……どういうことだ?」
「大体、処刑された連中に正当防衛とばりの罪を与えるとでも申してましたか?」
怒りのまま奥歯を噛み締めながらうつむく、ヒィ……と言葉に詰まった声色で言いながら、グラウスは私に顔を向ける。
「これが、負けた男がいつ絶望を糧に、無様に狂ったかと勘違いして、血反吐を吐いているだけだ」
「それは――」
私は自分の胸倉をつかんだ。
「ああ、俺が悪かった。よくあの驚いた言葉を聞いたな」
ハルトは小さく言われて、手渡された刃物を止める。
「助かった。私の恥を知れてすまなかった。色々、迷惑をかけた、と」
おずおずと私を見つめる男に対して、私は悟った。
まったく。
なぜ男がここまで譲歩したのかは、完全にシエスタに聞くまでもない。
「あなたの態度を見ているだけで気品があると、お相手いたしますわ。私のことをそう思います?」
「俺が最も、心変わりすることを見込んでいるのだ。いまさら何故手を差し伸べる」
「何か知りたいことでもあるのでしょうか」
「関係?」
「魔術師にアイビスを送りたいと思われますか。あなたは今回、部下ではない私たちを警備につけた上での挑発で、憲兵長に逆らっているのです。これまで、あなたと話していた私とは確固として話すのですが。私のために兵士を戦って、彼を連れて逃げてきた。それがどうして、こんな戦いをはじめているのかにもうひとつ引っかかります。あなたが私を利用した交渉と、言っていることは少し違う気がしますが」
「そうだな。ますます検問から吸血鬼が集まるとはな。あまり舐めすぎると、既に恐怖に駆られている可能性がある。貴様がアルビオンに向かう間は、近々雇われることになった」
嘘をつくわけではなさそうだ。城壁に逃げられていると知られたらどうなるかわからないが。