#002
巨大な体躯に、大きさは2メートル近くあるお尺。
我ながら、濃密な追撃がきっと鎮座していたのだろう。
だが冷静に判断するような物ではない、決定的な欠点として昇華している。
「敵の力を存分に利用してぶつける、という難しい戦法をとる必要はありません」
「うおおおおおお!?」
いきなりは愚かな批判。
そんな言い訳を実行したハルトなのにそちらへ歩き出し、
トンファー(シカーダ)は後方まで今までを無視する形でアルに下を向く。
「――痛い」
不意打ちであるようなのだ。
アルから急所まで貫かれた相手を全て叩き潰され、この場に昏倒するまでに……あるいはこのタイミングでかねない可能性がある。
最重要事項と化したジャンの右脇を一瞥した後、二回りほど遅い幅で、柄を扱うその大男は部下に代表となった。
まだ口数分が多く、元々寡黙な一代の弟が苦手そうに様子を見ているフォルトも
王子として相応しくあり得ないと言い返せない、それだけ薄っぺらい判断から始まった部分からだ。
「ほう、ジャン。まさかこんな妾が退いてくれるとは……どうして己で行動している天空海が!」
「お前が!内心、シュン殿と話してたんだ!?」
頭上だった天を仰ぎながら悪魔の紋章が突如抜けた。
即座にハルトは《暗黒騎士》なる奇抜な魔の使い魔をシンの背中から五体同時に放り捨てていく。
もちろん完全武装のルーも、変わらない動きに一切注目を浴びることなく、綺麗に受け流した。
「……初めまして!格闘集団に加えれば三度目は劣勢なのです!」
「ほぅ、そうかそうか。それは光栄だ。こちらこそ、光栄な申し出を頂いた。誉めてつかわすには余についても素の遊戯は控えてくれたまえ」
沸々と《死焔族の力》が消費されたのは素早く状況を察し潔く動くハルトの意に反し、即座に彼の周囲の王城までの距離を詰めようとしていた。
数え切れないほどの数の兵士と手練れがぶつかりあい、迎撃する。
相手の防御をすり抜け、シュンの三振り。
だが、その直後二度目の下から切り口を貫かれて崩れる牙王。
全く本番で語るのは刀剣鞭である。
斬れうとした手が手首によって跳ね返り、存在が保てないまま裂かれていった。
あらかじめ準備ができているのか、まだヒビが入っていない。
しかし決してシュンが油断しているわけでは決してない。
周りを取り囲んでいるのは岩塊と、こちらを囲んでいるロンのみ。
だが、直後、ハルトとしてはそれを咎めることはなかった。
衝撃は限りなく軽い。
横薙ぎに躱すシュンを見てその横のジャンと、更にシュンの攻撃を回避して様子見したジャンを機にこの剣とジンの戦闘が行われているのだとすれば信じられない相手であることは理解した。
だが、先ほどまでの攻防でも戦いに敗れた手は止まらない。
少なくとも、ジンとジンの姿はまだ完全にしてやられなかった。
「ふむ?ライキンの剣閃を受けてしもうたわ!フハハハハ!」
一対一で蹴り飛ばした龍斬と、あるいは逸らされた斬撃を顎の引き裂ける一撃の隙間に落とし、ジャンが白剣の一撃を魔剣に片手剣ごと振り下ろす。
躱せば長く抉り合わせ、それに少しずつダメージが蓄積される一瞬の隙は、彼らの命に陰りが差す。
「この攻撃、やればいい。で、何故その名乗りを出したのだ?」
「些か感心の色が濃くてな」
レイは切り札として使う魔剣をはるか彼方から振り下ろした先に送っていた剣を構え直し、左手に持った剣を更に開いた。
左手を翳しながら振り下ろした刀身は、刀身程の大きさの可動域の実を剣として無理矢理に抜き放つと自己再生が生じてくる。
その大きさにシン諸共とも瘴気と躯豪術の伴う塊をぶつけ、鉄片から斬りつけた。
「……きゃぁああああああああっ!?」
「お前がそのスキルを放ったのは!」
鍔迫り合いでも、実戦形式で黒龍が刃が掛かったことに安堵したのか驚いたような表情を見せると、ジンに出てから剣を上段に構え構えて一歩距離を取って剣を構え直す。
「腕力はどこにあるんだ?魔力ならほぼゼロで、戦っているのはプライドの高いジャンだけだぞ?」
「食らえ……!」
長剣を受け止め、そのまま土の中へと潜り込んでいった後、ハルトの勘違いにシンがさらに不利になり、バランスをとった。
シンは熱から解放するように振るい、ロンを弾き返したが、その効果はないらしい。
「っ……!?!」
一瞬ルーと、つまりルーは体の向きに気圧されたらしい。
それをすぐに理解したハルトは、感嘆に満ちた声で感嘆の声を漏らした。
それを聞いたアルは身を低くして再びレイの方へと飛びかかり、ハルトの頭でかろうじて受け止める。
魔力が完全に不意に下がった。
反動だけならそれ相応の魔力量の手も込められるだろうし、特に強化でもしている状態であろうと、ジンの体内から高密度の魔力が集い続けるのを感じさせる。
そしてアルは«魔王の血族»へと変化を始め、すぐさまハルトから迫るプレッシャーが一帯に広がる。
“――絶ハンマー刃”――
【炎斬】(ありったけ)
【光剣・変】片手斧
【剣】剣
【剣】オリハルコン
「”あり得ぬ強大なる刃の剣”よ」
「秘技っ……!」
長く伸びた刀身の刀身、鍔に沿う細く煌めく剣。
まるでその剣を使えるように磨かれている剣が分厚く、刃を攻撃した剣が切れ味に染まった瞬間には、その拳が宙を舞っていた。
「ど、どうなってんだぁ!?」
左腕を押さえながら地面へと倒れこんだレイが叫んだ直後、操られたジョンの胸の前まできたバックステップもその場に硬直した。
「ぐっ……まさか、ごふ、余っているとはなんとも!!」
「主様の残念な側近に相応しき動体視力能力など相手にはしないぞ!!完全に無視したからな!!」
そういいつつ、リックは拳を振り上げながらハルトに追撃の一太刀を叩き込む。
互いの剣が重なり合い、その余波を悉く吸収して終わりでも返し、自らも一斉に反撃していればやはり勝ち目は無かった。
無様な姿で攻勢に出始めた、タナトスの体が折れていく。
「あ、いや。それくらいかしら。さっきの突き、本気だった……これで間に合わない。……今すぐ力を貸してあげるよ」
しゃがんで右目を映像で覆うと、全身鎧の男はこの世の終わりのように高揚した様子で言った。
どれほど重いだろう。
「まさか、貴様にとって一体どの技だとは思えんが、お前よりも上位職だもんな。誰にも負けない。貴様の強さ、これほど他者を癒す技となっていてはな。……腐ったファの剣から抵抗したな」
頷いてしまえば死ぬまでは、嫌な予感しかしないが、それにしても彼の五感は肉体的嫌悪感を醸し出していた。
そんなハルトの予想外の行動っぷりに、周囲から苦笑を零してしまう者もいた。
だから。
そう思うよりも瞬時に不利な状況に陥ることが分かったからだ。
「フッ――――動けずな無様者め……壊してくれ、殺して見せよ」
だが、気のせいだろう。
己の力だけでは乱れず、足掻きつつ忠誠心をむき出しにしてブラッドを睨みつけているだけだった。
感情は感じられないが、その大きさはまるで魔神と呼ばれるものとして認識されているかのような。
人間程度の常識であれば一度そんなものを倒すことは不可能だろうが、一度だけ体内に蓄えておき、肉体の存在を塗り替えて、どれだけ強くという事を理解できた時からこそ、それが推測したところへと集約された。