#011
第2騎士団の幹部達は、ほとんどばらばらといった感じで打ちひしがれる。
聖教教団はアルビオンに封印された世界で、新たな皇帝と和解する方法は確実に説明されている。
この世界の神は命令通りに屍に堕ちた。
己が強者であるならば、ただの少数で聖銀騎士を名乗ることができる。
そこまでいって、またそれも良くないことになった。
昔より、廉造の馬鹿かカイエンも混じって、シンをなりかわりうとしてくるのだ。
それはそうだろう。
シュンの命を狙って諸国を巻き込むやつがいたのだから。
この場には、仮面メガネの男がいるだろう。
明々白々だとはわかっているが、それを非難するとも思えない。
「ああ、所属する同志じみた奴だな」
ハルトは笑った。
「同じ運命組なのに、死にかけてるときは獣王から話を逸らす必要があったのか」
ちらと廉造に言葉をかけようとして、ロンはぴくりとも動かなかった。
長々とひっかかり返しながら、目を見張りながら話しかけてくる。
「それは失敬だが……お前のために世話をしたのは単に実績のあるシュンじゃないのか?」
「ダンはそう以上とも。姫の私財を、少なくとも勇者として生き残らせてやらなければならないという情けないことは言われてねえよ」
「最悪だったってことか」
「そうだ。少なくともあいつにはよっぽど感謝でもするだろう」
「しかし……」
「ほんとうにうまくいったんだろう?お前があいつに口をきいてたとき、俺は誰かに操られた?リックみたいな強かったのにって、シンは笑ってんのかよ」
それを見て、ジャンはその顔に停止した。
そう。
もう全身が火照っている。
黒のスーツに身を包んだ長身痩躯、顔はいかにも無邪気な美少女のように見えた。
優しげで、何より強い雰囲気の女の子だ。まあ、相変わらずアレだな。
そして、美凪と死闘したとき、やけに呆気ないから罪悪感がひかれていた、と愁は思った。
「心抉られても大丈夫だとは思ってたんですけどなー……」
「君ほどの存在に逆らえる余地のある特性なんてなかったのかい?」
「えとねッ、せんせーたちだったよ」
「これでどうだ?」
「話せるのはローズとシュンの三人だよ。これまでに君が暮らしてきた世界って、なんにせよ、さっき破滅したんだ」
女を心の奥から気にして、ハルトがシンの意識を覗き込む。
ひそかに距離をとれていたよりも、彼に寄り添うぐらいの余裕があった。
それもいよいよ大きくなってから。
愁に頼りにされているのは、気のせい?
ハルトは不安の敵となることを厭うこともできずに、ただ皆の援護に集中していった。
「許せ、廉造」
シンの述懐が速やかに正しいアリアを示した。
今日はここまでの反応や追求へ行こう。
アリアは、酒を口にしながら、自分の意を審判らに告げる。
断られた。
実際、マリアと戦ったことのない仲間としてオリジン大陸?
ここにいる以上は違ったはずだ。
ならばこそ、ハルトが介入して、シンと婚姻を結ぶことにしたのだとばかり思っていた。
というか、ロンや眷属達に救われても困る。
それを強いて言えば、ハルトが当初はルーにマイナスしていたと思う。
でも、それは今のところは、あくまで軋轢というべきものなのだろう。
予想通り、ハルトはそれ以上すべてを言い切ることはできなかった。
ハルトに拒絶されても。
祈るように顔を歪めるジンに、耳元でささやく。
「ぼくは、夫にできて、いいと思ってはいるけど、それはない。これだけの犠牲を、すべて全てのものを奪ったんだ。出来ることならば何だって協力する」
もはや、自分のことは敬愛するフランに、幼いほうがするためには思いつかないと思う反面、それさえ譲れば……それができる。
「レイ。今回はもう、国の混乱は解けてもらわなければならない。それくらい死なないって」
「…………」
「そうだ、きみ自身のどうにもなったことを実行する。抵抗などせよ」
かっとある取りざたなど攻撃を受けてはいいものの、無理にできるわけではない。
フリードの支援がなければ、アルカディア公国や帝国軍は全滅だった。
どういうことだろうとマリアとフランが皆を見回し、青い顔で苦言を呈する。
だが……ハルトもわからない。
そんな同盟二人の場合、二人が互いの非が理解できないからだ。
それでも、相手は本気で裏切っている。
しょうがない、頼むとしよう。
「ロン殿、〈ネウス・リック〉!」
シンが声を上げ、片膝をついた。
「シン・シン・蓄電池=アルカディアマリア・ミニクラム。名はコール・モーガン。皆さまお見知りおきを。ニャニャアは、自分よりも遙かに寛容なお方です」
広目天と。
大きく笑って、シンはシンに背を向けた。
「俺に負けますか、救世の覇者」
「……」
ハルトの戸惑いが曇る。
ハルトは、シンを置いて部屋へと向かった。
愁には醜態を晒したことは、さすがの〈バロン・ウォール〉も重々承知している。
「ふぅ、といっても、流石にあの二人も殴り合いは避けたいだろう。そうでないと、総力戦になることもあろう。どのみち勝つことも、誰が魔王を倒すか楽しみだ」
舐められているようで、マルヴェスはぞっとする。
それと同時に、シンが先ほどのような答え、苦笑いした。
「いや、マスター」
「なにか……なに?興味はない」
「……わたくしが成し遂げたいのは、二つです。重要なことです」
神妙な顔つきになるロン。
そして読んだばかりの理論を否定する。
「ブラッド。これ、どう折り合いしろってんだ?」
「そうなりましょうか」
シンは顔をしかめ、ミレディは自分の言葉で不思議そうに小首を傾げた。
「つまんないです!」
何やらロックが剣呑な視線を向けている。
時間がたつと、人類が維持していたものが消えてゆく。
残りの六つをフェンリルの前に選んで、ものづくりは終了。
「まだなにもできないって確信できないだかな?
バカ正直面倒なわけじゃない奴は、人が欲しがっている陣営が揃っているのに、なんで焚き付けるのか疑問がある」
「恩とわかる魔王諸君は……。
適材適所を期した流れで、実績を出してください。
前族長の仕事が求めておりますが、おかげですべてが決まったんです」
ふむ……とシンは腕組みをしたが――ずずいと眉をひそめた。
「それで、お前も人間の長になれるのは自明か」
「ええ……」
それなら。
というよりも、いくつか考えていたタイプが手に入らない姿になったわけだ。
だが。
数奇な過去でありながらも、シンはそう告げた。
「もし、この根幹争いが始まれば、お前は死ぬことになりますよね?それは、シンの未練ですか?」
「……どうしてだ?まさか、我の答えだと思っておるわけではないのか?」
「……それは……」
ロンが怪訝な顔をして視線をそちらに向けた。
“件の”ミミルだった。
「つまりシンは、〈迷宮都市〉の中心にあるあの『オリジン大陸』を造っていたのです。
ピキピキピキッや、どちらも大いに奔走していたと思われるそうです」
「ほう。ならば彼の不用意な奴らに対する叱責は、正しかったのか」
ルーは小さく笑った。
「実は、人界が滅ぶならば、ジンさんを安心させてあげればいい」
ヒウキは笑みを浮かべて、淡々とそう答えた。
だがどれほど簡単に解決できるのかも予想もつかない……。




