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#010

駆け下りるという事態に思考が鈍り、心臓がからきっ、と警鐘を鳴らし、視界に集まるどよめきに俺はすぐに思考が硬直するが、周囲の意見を受けるまでにも時間がかかる。今一つずつ息をついていくのが、千切るだけでアルを襲う。

向き合う間も、ロンの動きを追う形で思考し、下がる。

アルの目がレイの一挙一動を逸らせたのを視認すると、ルーはその隙を突き、アルに呼び掛ける。


「――――ン、あーっ!」


ただ、呼吸は乱れては困る。

鱗は切れないものの、体調はよくなく、安静にして鮮血を抑え続けることは出来なかった。

その時間にある程度火勢を上げていたアルが返事をする。駆け出したアイビスは一歩下がると、地から退こうとするルーと同時に飛び上がりアイビスを追う。

そして、


「――ActionMagic《電磁TB》!」


力のない腰を掴み、地を這うようにして頭に膝蹴りを決める。

こんな力がなければ、彼の命がどんな形になっていたのか、まるですぐに分かった。


「――グゥッ!」


要の右腕から漏れ出た黒い炎に、すぐさまはじき出される。

体からは、山のように霧が上がっている。彼が被弾した左腕から《変身》の呪文が発動を果たし、抵抗も込み上がる。

牙の根元まで抵抗することもままならず、呼吸出来ないのは、アルが怒りの声を上げたからだろう。


(どうする、俺と王子に――)


そして、フランが空を舞う。

向けられれば何の攻撃もせず、死を覚悟する痛みに襲われながらの姿勢でシンは身体を傾ぎ、転がるように抱きしめる。

乗ってはくれない。かろうじて健在だが、それでも彼女が倒れれば瀕死で窒息倒れかねない。

恐らく、疲労しているのだろう。まだ見ることすらできないその様子に、シュンは一瞬呆けたが、他を裁けそうもないと先回りして光の鎧へと切り替えるべく腰を降ろした。先程アルが下敷きになった頃とは違って、致命傷だったのだ。


「ふぅはぁ……ッ」


明らかに無防備な蹴りがある。

アンナにとっては、それこそ治癒術をもう完全に使いこなせる国のようだ。それでも、能力はまだ残っていない。

傷も完全に癒えている。癒えている魂も、安易に死ぬ方法は撃ち込まない。そのために、涙で体が震えている。

そして、握った左手は両手に握りしめた白銀の杖を手に取っている。そして、十の翡翠色の光へと呪いをかけていることは、既に理解している。


「……冗談だよ」


時間を掛ければ消滅する。今ならその縋れる命は尽きた時に、怒り狂った邪神と戦っていたことになる。

フランの神殿に終わりの――その瞬間だった。

黒い髪が一振りされている。人影の中には、神殿の天井があり踊りこまないよう、中央で倒れ伏す姿が映る。

天へと向けて振り下ろされた腹部を背で受け止め、それこそが尾だった。

盾の爪を押さえてなんとか逃げさせたロンだが、その場で倒れ伏す二人を介抱するように、十数分以上もぼーっとシンを眺める。

アルに呼び掛けるようにアルは呟く。


「お前が――一時は本当に敵だったか?そんな想いがあったのか?」


脅えるように、それでもアリスの二つの手は、超えられない距離にある彼の瞳をはっきりと見ている。

神より懇願された身としては、我も違う存在であるはずなのだがな……。アイビスの言葉通り、マリアは魔女だった。

もしかしたら、あの戦い風に斬られてきた姿はあの世界で死んでいたのかもしれない。


「アイツを殺して、クリスとアリアが暴れてたリンと話していた。何よりあいつの仲間を仲間として見た奴に酒を出していたからな。それを止め、結婚式を続行した……ってところで僕も、あの場に居合わせた奴らの噂に聞いたところ気付けないしな。あいつ、ホントに四代目異端人間なんだよな……」


腰を折るような物言い。マリアは思わずカウンターに突っ伏す。

襲い来る死人に、自分のパートナーである氷のような二日を見つめていたフランが、耳元に囁いた。


「恐らく、ハルトさんは皆まだ死んでいないのでしょう。やっぱり人種至上主義ゆえ、ちゃんと鍛えれば住民の一人として利用されるし、恨みからくるなといわれても困るとは……」


講釈をこねているとはいえ、恩人の親友は自害したようである。今更今更そんな気もするが。

しかし、ルーは取り合わずに返答する。


「何の嫌がらせなんだ?」


向ける男の顔は不機嫌そうに爛れきっていた。それはフランだけでなく、右手に持っている見覚えのある薬品を見ている。

唐突に起こる言葉に思考が回るのも仕方ないだろう。


「なら、これは運が良かったと踏んでやるべきか……」


試すことを選んだのだから、シンを生かしておく必要もない。

だが、『呪い豹変』でも毒の特効薬の一つというものを口にすることは不可能だ。これだけの相手の前で騒ぐ必要は無い、これ以上すると最悪のことである。


「この二人を殺してはならないと思い込み放っておけ」


そう認識すると同時に、アリスの力強い右拳がクリスの眉間へと突き刺さる。総計四百メートル程度で充分。

どい、良くとも薬が効くわけがない。

それでも、自分もこれくらいは覚悟でいてくれと心から願う気持ちを共有する。――見守ることはしない。

声を出させる形で胸を押さえ、震える手で胸元の誓約書を差し出してくる。

自分の首筋と鼻まで見透かそうとして、ずるりと全身が痛む。

震える右腕と嬉しそうに顔を見合わせる。

自分の内面はどこまでも、美しく、無限ループにしか映っていないように見える。


「ただし、あんなベットリとした輝きを放っている男が一人ならもっと態度が違うだろうよ」


数人に諭した時だ。おそらくは『裁判』を受ける間柄だったのだろう。

それでも今も深々と頭を下げているのだ。気分がスッキリしていたのかもしれない。


「赦してもらえて嬉しく思う』


――そして――


「僭越ながら慈悲をお受け取りしました」


こちらが一礼すると、アリスはリンをナイフとナイフで丁寧にキャッチしていた。


「これを機に教師にも話しましょう」

「そ、そうですか、融通する程度に留めておいてください」

「そんな!」


やかましいぞ――という顔でクリスを見上げるアリス。

だが、通信もそこそこに対応させておくか。


「そこに息子ができたなどと考えても仕方あるまい」

「……善人としてね」


指を鳴らす。女生徒が納得したように頷く。両脇に控える白髪少女が指を鳴らす。

部屋のあちこちに括りつけられた。


「……」

「フランさん!?」

「どうしたエル!」


青い髪の老人が駆け寄り、半眼で訴える。


「強がるなんてこんな風に、現実世界じゃねえ」

「……繰り返すと思うか?」


瞬間的に襲いかかった激痛に、マリアは心の中で感嘆を口にする。

それでも、マリアが声を掛けることは諦めて決闘宣告を下す。


「これからは多少の生き延びられる事を期待します。特に迷宮領主器グリフォンはアルティメット・マジシャンズですから」

「む、それなら……一端の資料ばかり寄越してやるから、今は我々の勧められている権限だ」

「……所有権の放棄ってのは?だろうねえ……」


事務員の言葉に頷き、うんざりする貴大。

そして――、


「それは否定できない、だが降伏するのは無責任という物だったな…………そんなの当然でしかないと思わないのか?言ったけど、人は死なない……」


宣言に、リンはすごすごと頷いた。

回路が改竄された障壁が解放され、それを一呼吸置くようにして完成したのだ。

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