EP/0:夏を待っていました
私はアスファルトで舗装された道に両膝を落とし、目の前で燃え盛る炎を見つめていた。今すぐにここを離れなければならない。早く逃げなくては。こんなこと、人として許されない行為だ。頭では十分に理解していた。許されない理由など、改めて誰かに問い質す必要もないほど、それは至極、当然のことだ。こんなことをしても、時間が戻る事も、全ての問題が解決するはずもない。むしろ、今の状況をさらに悪化させるきっかけになってしまうことだってあり得る。それなのに、どうして私は、どうして私の心には、達成感が生まれているのだろう。決してその思いで満ち溢れている訳ではないけど、でも確実にそれは存在している。まるで小さな埃のかたまりのような、軽くて、吹けばすぐどこかに飛ばされてしまいそうな気持だった。きっと、あの人はすぐに私の仕業だって気付くだろうな。
でお、どうしても、なにかしてやらなくては気が済まなかった。
弟は、何も悪いことなんてしていないのに。
本当に悪いのは、あいつらなのに。
兄ちゃん。起きてた?ご飯、できたよ。ドアの前に置いておくから。食べ終わったら、また廊下に出しておいてね。今日は僕が作ったんだ。ほとんど母さんに手伝ってもらったけど、けっこう、自信作なんだ。兄ちゃん、豚の生姜焼き好きだろ?
まだ、部屋から出られない、かな。別に急かしてるつもりはないんだけど、父さんも母さんも兄ちゃんの事、心配してるよ。仕事なら他にいくらでもあるじゃないか。兄ちゃんは悪くないよ、どんな傷痕だって、いつかはちゃんと治るって。父さんの知り合いで、製紙工場で働いている人がいるらしくて、今度紹介してくれるってさ。
何度も言うけど、僕は兄ちゃんはなにも悪くないと思ってるよ。
兄ちゃんのやった事は、派閥の皆を導く為だったんだろ?
悪いのは、そう。本当に悪いのはあいつらじゃないか。
待っててね。今度は僕が、兄ちゃんができなかった事をやるよ。
あいつらがいなければ、こんなことにはならなかったのに。