神様をダイエットに勤しませようと思います。
僕の名前は日向。鈴森日向。
短めの黒髪に茶色がかった瞳。見た目通りのごく普通な高校生だ。
成績も大して優秀なわけでもなく、かといって悪いわけでもない。だが、華奢な見た目に反して運動神経にはちょっと自信がある。
まあ自慢できるのもそれくらいで、やはり全体的に見るとただの平凡な高校生だ。
いや、正確には平凡な高校生だった……か。
下校中、交差点のあるところで歩きを止め、信号が変わるのを待つ。ここで帰り道が変わる友達に手を振り、その友達が離れていくのを信号が青に変わる少し前まで見守った。
信号が青に変わり、横断歩道を渡る。ここを渡ってしまえば僕の家はもうすぐ近くだ。
この横断歩道のすぐ左側にあるのが僕の家。ちょうど住宅街の端であるところに僕の家は建っていた。
今は両親二人共仕事に行っている時間だ。
僕は家の前まで歩いて行き、そのまま玄関を開ける。だが思っていた通り一階に誰かのいる気配は全くしなかった。
「ただいまー」
一応そう声に出して家に上がる。
僕の家はごく普通の二階建て建築だ。周りの家と比べてみても大した違いはないし、中もそこまで変わらないだろう。
僕は家に上がるとそのまま階段を上がり、上がったすぐ右側にある扉に手をかけた。
ふと耳をすましてみると中からパリポリと何かを歯で砕く音が聞こえてくる。僕はここでその音の正体がなんなのか感づき、勢いよく扉を開いた。
「ふにゃあ!? きゅ、急になんなのだ!!?」
「いくらなんでも食べすぎですよ! 神様」
僕はそう言うと、未だに驚いた表情で凍りついている少女……、いや、僕の家に住み着いている神様が持っている物に指をさした。
その手には大事そうにポテチが抱えられている。先ほどのパリパリ音の正体もこれだったのだろう。よく見ると口に沢山の食べカスがついている。
実はこの神様、僕の家に元からいたわけではない。
もともとはとある神社に祀られている女神様で、竜田姫というらしい。そして、その神社でたまたま神様を発見した母が何を血迷ったか神様を餌付けしてしまい、餌付けされた神様がそのまま家まで付いてきてしまった……というわけだ。
「その結果、神社に戻る気配もなく……こんな駄女神に育っちゃったんだよね……」
「む、日向。神様に向かって駄女神とはなんだ! あんまり私を怒らせるでないぞっ!」
口ではこう言っているが、実際そこまで怒っていないのだろう。神様はポテチを片手に床に寝転び、僕の方へ顔を向けた。
まんまるとした大きな瞳に、着物の下に隠れた白い肌。幼い顔つきではあるが顔のバランスも整っており、身長も140前後のように見えるため特に違和感はない。
これだけ言えばとても可愛らしい美少女である。
が、この神様はこれに加え、ぷっくりと膨れたお腹……そして今にもこぼれ落ちそうなほっぺをも兼ね備えていた。
勿論最初からこうだったわけではない。神様が偶然家にやってきたことを幸福に思った僕……いや、正確には僕のお母さんがさらに餌付けしすぎたためにこんなだらしのない姿になってしまったのだ。
「初めに見たときの美少女はどこにいったのか、今ではただのぽっちゃり神……」
「何をいうか日向っ! 私はぽっちゃり神などではないぞっ! ふむ……そうだな、ぽっちゃり系美少女とでも言っておこうか」
それと、このように自分で自分のことを美少女と言ってしまうことからも、かなりの残念神ということが伺える。もともと残念だった神様を僕ら家族はさらに残念にしてしまったというわけだ。
……うん、なんだか申し訳ない。
「……ごめん神様」
「ふぇ、なんだ急に謝って。なんでそんな哀れみの目で見てくるのだ。おい……日向? ひ、日向??」
僕はそのまま部屋を出ると、一階の方へと足を運んだ。
一階につくがそこで足を止めず、冷蔵庫の方へと足を進めていく。そして冷蔵庫を開け、牛乳を取り出し、一瞬にして全て飲み干した。
最後に口元についた牛乳を服の袖で拭うと、飲み終わり空になったビンを台所へ移動させる。
何がしたかったって?特に意味はない。
「ただ、まあ……僕たちが神様を駄女ぽっちゃり神に変貌させちゃったわけだし、責任はとらないとな……」
僕はこのとき、牛乳に一足されてある決心をしたのだった。