パセリ
一般に『パセリ』と呼ばれる彼はセリ科の植物だった。寿命は約2年で、長野の地で産まれ、長野の地で育っている。彼を育てているのは、農家という職に就くヒトらしい。農家のヒトは彼を愛した。彼をきれいで素敵な一人前のパセリにするのだと張り切って世話をした。彼は毎日大地に根を張り続け、身体が成長するのを待った。鮮やかで明るい緑色をした肌は日光を一心に浴び続け、体内に栄養をとりこむ。
少しずつ少しずつ身体を大きくした彼だったが、夏には台風に襲われて命の危機に瀕した。強い風が彼の身体を根元からなぶり、大量の雨粒が彼の全身を打った。水流は彼の足元をすくい、命をも奪おうとする。しかし、彼は必死で耐えた。彼にはひとつ、成し遂げたい目標があった。そのために生きなければならない。精一杯の力で耐えた。
彼には目標があった。彼は大人になると、東京という街へと売られることになっている。そこでヒトに美しく調理されて、ヒトが食べる料理を彩らせて、ヒトが生きるための力の源になるのだ。彼はヒトが好きだった。ヒトは自分を育ててくれた。自分に優しくしてくれた。農家のヒトに精一杯の愛を受けたから、絶対にそれにこたえたかった。農家のヒトは彼を売って生計をたてているらしい。ならば農家のヒトが楽しく暮らせる力になりたいと強く願った。
やがて、彼は長野の地を離れることになった。立派な『パセリ』になれた彼は、わくわくしながら貨車の荷台に積まれた。この貨車で東京を目指すまで、彼は興奮で眠ることも忘れていた。
彼の進路はまもなく決まった。『コンビニエンスストア』という所で売られる弁当に使われるらしい。曰く、コンビニという店の弁当は野菜があまり入っていないらしい。そんなものばかり食べているヒトを栄養不足に陥らせないために、自分の身体に宿った栄養の限りを提供しよう。そう心に決めていた。
彼は生まれ育った長野の地と農家のヒトの笑顔を思い浮かべながら、工場で調理され、コンビニという店に出荷されていった。弁当に一緒に盛り付けられたのは肉を使った人気の料理だ。一緒に並べられた弁当は、棚の外側にあるものから順に飛ぶように売れていく。彼の名は『パセリ』。彼の活躍はもうまもなくだと信じ、一瞬も疑うことはなかった。




