突入
『負の象徴』は考えていた。フュクシンの言った事を・・・。
確かに、世界が繋がって人が増えた事により、自身が一度封じられても、復活するまでの間
隔は大きく縮まった。しかし、世界が繋がる前、それまで圧倒的な力でこの亜獣人界を席巻で
きていたのだが、『第三次象徴大戦』時に創り出された『強化獣人』たちにより、そのバラン
スはいとも簡単に崩された。
第三次象徴大戦。一戦目、二戦目と『平和の象徴』と世界を懸けた戦いを繰り広げたのだが、
三戦目の時、『平和の象徴』は現れなかった。
当然、『負の象徴』は猛威を振るい、当時、世界中に蔓延していた科学力の賜物たる機械に
取り憑き、それはもう、いとも簡単に多くの命を奪う事ができた。
『平和の象徴』不在の獣人たちは、何とか自分たちで対策を講じようとするも、科学に汚染
された生活に慣れ親しんでしまっていたため、講じようにも基盤たる機械が押さえられている
ため、成す術が無かった。
乗り物や機械は暴走し、爆弾や銃などの火器は暴発するため、使い物にならない。使えるの
は剣や槍などの機械とは無縁の武器のみだ。だが、襲ってくるのは暴走した車などの乗り物。
『負の象徴』に敵はいなかった。
しかし、唯一、獣人たちが科学を扱える場所があった。そこは、『平和の象徴』の忠実な僕
でもある『育みの象徴』の守護する土地。『平和の象徴』の作ったお札によって護られたその
土地には、『負の象徴』も手を出せずにいた。
それも大した問題ではなかった。護っているだけで、有効な策をまるで打てずにいたからだ。
生き残った人々を匿っている事は知っていたが、もはやそんなことはどうでもよかった。世界
の殆どをその手に収めていたようなものだったからだ。
だが、それは現れた。例の土地に匿われた中の一人であった科学者見習いが『強化獣人』と
呼ばれる、新たな種を創り出したのだ。
創り出されたそれらの力は圧倒的だった。『負の象徴』の操る機械を難なく次々と破壊して
いった。『負の象徴』が幾ら策を講じ、罠を張ろうと、まるで通用しなかった。
いよいよ背水の陣となり、全力を以って臨んだ決戦であったが、たった五人の『強化獣人』
によって圧倒され、一矢も報いる事無く封じ込められてしまった。
自分には『強化獣人』を倒す力も無い。それなのに、今の世界には様々な種族の強者たちが
いるのだ。もはや、世界を手にする事など出来るとは思えない。あの五人の中の一人であるフ
ュクシンでさえ、自分は古い存在だと言っていた。世界は変わったのだと・・・。
「・・・生き方を変える・・・『平和の象徴』と戦え・・・か・・・・・・」
『負の象徴』は寂しそうに空を見上げる。
『育みの象徴』の護る土地は、『育みの里』と呼ばれ、かつては避難所であり孤児院でもあ
った。世界が安定を取り戻してからは、その役目を終え、その広大な土地を使い、あらゆる職
業の専門学校が造られ、夢ある誰しもが学ぶことができる場所となっている。
ここを取り仕切る『育みの象徴』こと、インフォルマは、亜獣人界全体の情報を纏める役割
も担っている。
「インフォルマ様、リンナ様からお手紙が届いております」
使いが、異様に分厚い手紙を渡す。
「ありがと。運び屋は?」
「待たせてる。最速のやつ」
手紙の封を開けると、そこには大量のお札が同封されていた。本題の手紙はというと、お札
の切れ端のような小さな紙にただ一言だけ書かれていた。
『お願いします』
「これ・・・・・・手紙?」
使いである男性は思わず疑問を口にする。
「リンナ様・・・お札用の紙を使ってまでお言葉を・・・」
「・・・・・・」
男は呆れ顔だ。
「で、何をお願いされたんで?」
「『負の象徴』本体の居場所及び拠点の特定。加えて、お札による対象の包囲」
「ああ、それか」
「じゃあ、早速この札を使って対象の包囲を開始なさい」
「おまかせあれ」
男はお札を受け取ると、足早に立ち去る。インフォルマはすぐさま手紙を書き始める。
『包囲、一時間以内に完了せり』
それだけ書くと、窓を開け呼び掛ける。
「ファルセイド」
「へい、まいど。一分以内には」
ファルセイドは封もされていない、文字の書かれた紙だけを受け取り、飛び立つ。
十数分後、空に一際大きな鳥が現れ、降り立つ。
「ようこそ、リンナ様」
その大きな鳥の背中からリンナと何人かが降りてきた。
「インフォルマさん。手早い対応、助かります」
「いえ、この程度・・・して、そちらの方々は?」
リンナの背後でキョロキョロと物珍しそうに辺りを見回す子供たちに目を向ける。
「すいません。少し事情が変わりました」
当初の予定ではリンナ一人が結界内で『負の象徴』と対峙する予定だった。それがどういう
わけか、ラキエル、バンリ、ハワー、ヒイカと、子供が四人もいる。その保護者役として、フ
ュクシン、ファルセイド、ポン、魔王グリムまでいる。
「えっと・・・・・・とりあえず、目的の確認をしておきたいのですが?」
「目的は本来と変わりません。ただ、どうしても決着を付けたい事があるそうなので、今回、
特別に護衛付きで参戦して頂きます。」
「なるほど。訳ありということですね。理解しました」
インフォルマはあっさりと理解を示し、作戦の確認に移る。
「作戦は、『負の象徴』の元に辿り着くまでに出会うであろう取り憑かれた方たちは、フュク
シンさん、ファルセイドさん、ポンさんで黙らせて下さい」
三人は頷く。
「そして、サギエルという方が現れた時は、彼女一人を孤立させるよう立ち回って下さい。そ
こでラキエルさんたちは思うようにやって下さい。邪魔はしませんが、あなたたちの身が危
険と判断した時は介入させてもらいますので」
ラキエルたちは頷く。
「それが終わった後、ラキエルさんたちは離脱を。その誘導はグリムさんに。その後、私は一
人で『負の象徴』の元に行きます。開始は一時間後で、お願いします」
「よう、姉貴!子守、大変だな!」
各々が準備を進める中、インフォルマの使いであるサラードが緊張感無くへらへらと話しか
けてくる。
「サラードさん。結界の方は順調ですか?」
フュクシンは驚く様子も無い。
「ああ、問題ないだろう。ムムが指揮執ってるし」
「それならば万に一つの問題もありませんね」
「それよりさ、姉貴のご主人様は元に戻るのか?」
フュクシンは目を瞑る。
「わかりません。ヒイカ様ご自身が戻りたいと願わなければ、叶銃を取り返しても元には戻り
ません」
「戻らなかったら?」
「変わりませんよ。私はヒイカ様にこの身が朽ち果てるその時まで仕えるだけです」
「相変わらず姉貴は真っ直ぐだなぁ」
「二人は姉弟なの?」
することが無く、暇そうなグリムが割り込んでくる。
「グリム様。はい。そういうことになっています」
「同じ『強化獣人』だからな。単純に生み出されたのが早い順だ」
「ふ~ん。で、『強化獣人』って何なの?」
興味ありげな顔だ。だが、フュクシンは答える気が無さそうだ。グリムは目線を口が軽そう
な隣の男に向ける。
「え?あ~、そうだな・・・・・・まあ、秘密兵器?的な?」
「あっそ」
グリムはこれ以上情報が引き出せそうに無いと判断したのか、また暇そうに歩き去っていく。
「魔王さん、暇そうだな」
「はい。いつもあんな感じです」
バンリは鎌を見つめていた。今度こそと言う想いが見ているだけで伺えるほど、強い眼差し
をしている。一方のハワーはそんなバンリの顔を覗き込んだり、耳や尻尾を弄ってみたりと緊
張感がまるでない。
「ハワー!!!」
「ひゃいい!!?」
イタズラに勤しむハワーの耳が口元に来たタイミングを見計らい、腹の底から大声を出すと、
ハワーは悲鳴と共に肩をすくませ固まり、そのまま後ろにコロンと転がった。
それを好機と見るや、バンリは転がったハワーに覆いかぶさり、やられた様に耳や尻尾をい
じくりまわす。悲鳴と笑いが入り混じった声が辺りに響き渡る。
数分後、二人は突入前だと言うのに疲れ切っていた。
「楽しそうですね」
「はい、本当に」
ラキエルとヒイカは二人の様子をまるで保護者であるかのように微笑ましそうに見ている。
「ハァハァ・・・お前らも・・・楽しそうだな・・・」
「はい。この時間が・・・・・・とても楽しいです・・・」
「へへへ。これが終わったら、夏休みをみんなで思いっきり堪能しないとね!」
そんな中、ヒイカの顔が曇る。ヒイカは自分が元々大人だったと言う事を聞いていた。実感
こそ無かったが、誰も嘘をついているようには見えなかった。やはり、大人に戻るべきなのだ
ろうかと悩んでいた。
それに気が付いたラキエルは、ヒイカの手を優しく握る。言葉は無かったが、優しいラキエ
ルの表情を見て安心したのか、ヒイカの顔が晴れる。
「ありがとう、ラキエルさん・・・」
そこに、リンナが入ってくる。その表情から、時間が来たのだと悟る。
「皆さん・・・そろそろ、参りましょう!」
皆一様に頷く。
大きな鳥に化けたファルセイドの背に乗り、一行は『負の象徴』の拠点へと向かう。
『負の象徴』が拠点としていたのは、かつての大戦の名残である廃墟らしい。その一帯は、
かつての世界の戒めとして残されているという。周りには町も何も無く、誰も住んでいない。
結界は張り終えたばかりのようで、張るために使わされたたくさんの人がまだ残っていた。
「リンナ様、結界は安定しております。尚、『負の象徴』からの抵抗は見られません」
その内の一人の報告を受けたリンナは、そのまま結界の維持を命じ、早速結界内に入る準備
に取り掛かる。
「今回の戦は、随分と静かになりましたね」
結界を張る者たちを取り仕切っている女性がやってくる。
「ムムさん、でしたね」
「はい。リンナ様」
ずっと目を閉じたままのムムと言う女性は、リンナの事をついでであるかのように、話しな
がらフュクシンの元へ真っ直ぐ歩いていく。
「お久しぶりです。フュクシンお姉さま」
「ムムさん、お変わりないようで。今日はお願いします」
「はい、お任せを。外には一切通す気はありませんので、存分にどうぞ」
「ねぇねぇ」
ハワーが初対面だと言うのに、気兼ね無くムムに問いかける。
「今回はって言ったけど、前回はどんなだったの?」
その質問を聞いたリンナの耳がピクリと動く。
「前回は、それはもう非道い有様でした」
「さ、さあ、そろそろ気を引き締めて下さい。準備が整いましたよ」
何故だか慌てた様子のリンナを尻目に、ムムは話を続ける。
「何が非道かったって、それはやはり、リンナ様が・・・」
「ぎゃあああああ!」
リンナは慌ててムムの口を塞ぐ。その不自然な行動に、グリムはニヤリと不適に笑う。
「フュクシン、リンナがどうしたの?」
「駄目ですよ?絶対に駄目ですからね!?」
リンナは必死だ。だが、ヒイカが聞いてしまう。
「何かあったの?」
フュクシンに向けられたその言葉は、フュクシンの中で優先順位を争う事になる。
リンナはこの亜獣人界のトップであり、獣人族たちのまさに『象徴』。一方、ヒイカは特別
な地位にあるわけではない。だが、フュクシンが自ら自分の主になって欲しいと懇願した相手
である。どちらの言葉に従うか、答えは直ぐに出た。
「寝過ごされました」
「は?」
耳を疑う。
「リンナ様は大戦の間、ずっと眠っておられました。その結果、歴史上最悪規模の被害が出る
という事態になりました」
リンナは固まっている。そこに、グリムが追い討ちを掛ける。
「リンナ・・・それは、私でも引くわ・・・・・・」
「うぐぅっ!」
リンナは膝を突きうなだれる。
「違うんです・・・あれは、あの時は・・・そんなに早く復活するとは思ってなくて・・・・・・し、周期
が、予想が大きくはずれて・・・」
何やらぶつぶつと呟き続けるリンナを余所目に、フュクシンは話を続ける。
「結局、リンナ様がお目覚めになられたのは、大戦が終わってからおよそ五十年後のことでし
た。しかも自分で起きたのではなく、起こされて、です」
「何も・・・・・・そこまで・・・・・・話さなくても・・・・・・」
「ひどいですね」
「ひでぇな」
「ダメダメじゃん」
「ひどすぎません?」
「うわぁ・・・」
「ない・・・です・・・」
「それで『平和の象徴』とか」
次々とこぼれる非難の声に、リンナはもうぐうの音も出ない。
「さあ、もう失うものは何もありません。闇雲に突っ込みましょう!」
何か吹っ切れた様子のリンナは、張られたばかりの結界に乱雑に穴を開け、一人ズカズカと
中に突入して行ってしまう。ラキエルたちは慌てて付いて行く。
結界の中に入ると、目の前に大きな建物がそびえ立っていた。その建物は、この世界のもの
とは思えないほどに、近代的な創りに見えた。ただ、その建物のあちこちは、朽ちたと言うよ
り、破壊されたかの様にボロボロになっていた。
建物の中に入っていくと、そこは無機質で冷たい壁で覆われていた。そんな中、ポンが徐に
その壁に触れ、調べ始める。
「どうした、ポン。気になるのか?」
「はい・・・・・・」
ファルセイドに話しかけられても、ポンは生返事を返すだけで、真剣な面持ちで壁を調べ続
けている。
「ポンさんはどうしたんですか?」
「ああ、もしかしたら・・・・・・金属を見てるのかもな。鍛冶師だから」
一頻り調べ終えたのか、ポンは皆のところに戻ってくる。
「す、すいません・・・つい・・・」
「で?どうだったんだ?」
「はい。かなり精錬された金属の様でした」
「科学というやつか」
「これだけの量を、同じ大きさ、錬度で揃えられるとなると、恐らくは」
「ポンさんって鍛冶師何ですか?小柄な女性で鍛冶師って珍しいですね」
その言葉を聞いた瞬間、ポンの顔が悲しそうになる。
「あー、えっとな?こう見えてもポンは男だぞ?」
「え?えええええーーー!」
見た目も、佇まいも女性らしくて、女性だと全く疑っていなかったラキエルたちは、敵陣に
入り込んでいると言うことも忘れ、大声で驚きの声を上げる。その一方で、あまりにも大きく
驚かれたためか、ポンは静かに膝を抱えて丸くなってしまう。
「え?え?いつからですか?」
「いつからって・・・・・・お前・・・・・・」
そんなやり取りをしていると、何処からか何人もの人が出て来た。間違いなく操られている
人たちだろう。
「これを」
リンナは皆にお札の束を渡す。
「これを貼り付ければ、『負の象徴』の束縛から解放されるでしょう。くれぐれも手荒な真似
は・・・必要最低限でお願いします」
お札を手に先陣を切ったのはファルセイドだ。
ファルセイドは運び屋の界隈でもその速さから一目置かれている。その速さを以って、縦横
無尽に次々とお札を貼り付け、どんどん出てくる人々を沈静化していく。
だが、敵は周りからだけではなく、地面にいつの間にか出来ていた黒い水溜りからも出てく
る。しかし、水溜りから出てきたのは人ではなく、全身真っ黒で形が安定していない物体だっ
た。
その物体は、こちらを飲み込まんと大きく膨らみ、覆いかぶさる様に襲い掛かってくる。
リンナが咄嗟にお札を投げて貼り付けるが、動きが止まるだけで消滅しない。その間にも、
別の場所に出来た水溜りから同じように物体が現れ、四方八方から襲い掛かってくる。
その全てに対しても素早くお札を投げつけ、動きを止める。しかし、動きを止めるだけであ
るため、結果的に囲まれる形になってしまう。
「こ、これ、やばいんじゃないんすか?」
「この状況・・・真下から来られたら・・・」
「もう来てるんじゃない?」
ふと足元を見ると、既に水溜りが広がっていた。
「グリムさん!」
「へぇ、これが『負の象徴』の・・・」
ヒイカが助けを求めるも、グリムは別に興味を示していて助けてくれそうにない。お札によ
って何とか引き込まれるのを防いではいるが・・・。
「ファルセイドさん!『魔導砲』を撃ってください!」
物静かで大人しいポンが急に声を荒げた。
「おう!任せろ!」
と一人囲まれる事態を逃れたファルセイドは返し、穴の開いた天井を抜けて空の、皆の居る
真上に滞空し、詠唱する。
『偉大なる太陽の力よ、我が魔導に宿りて、打ち払う光と成せ!』
ファルセイドの両翼に光が集束していく。
一方、地上ではポンの指揮で中央に寄り固まっていた。
「どうするの?このままじゃあ、わたしたちもまとめて撃たれちゃうよ?」
「何とか・・・しますから・・・」
ポンは腰の辺りから小さな槌を取り出す。
それを大きく振り上げ、何やらブツブツと唱え始める。
「形は『球体』、性質は『耐魔』・・・金属、精製!」
ポンが槌を振り下ろすと、何処からとも無く液体が現れ、全員を内側に閉じ込めるように形
を成し、固まる。
それと同時に、ファルセイドが光を撃ち降ろす。
『サンライト・スコール!』
光を纏った翼を思い切り一振りすると、光が無数の弾丸となり、辺り一帯に降り注ぐ。
皆を囲んでいた黒い物体は、次々に打ち払われ、光の雨が止んだ頃にはもう、周りに黒い物
体は残っていなかった。
「ポン、もういいぞ」
その合図と共に、護っていた球体は跡形も無く消える。
「助かりました、お二人とも。出来る限りお札だけで対処しようとしたのが裏目に出てしまい
ましたね」
リンナは反省の弁を述べ、一つ深呼吸する。
辺りを改めて見渡すと、あれだけいた操られた人々が消えていた。
「もしかして、ファルセイド・・・・・・殺っちゃったの?」
「殺ってねえよ!殺ったとしても跡形も無くなるまではやんねえから!」
「恐らく、『負の象徴』が回収したのでしょう。お札によって動きが制限され、兵としては使
えなくなりましたが、『負の象徴』自身のエネルギーとしては活用できますから」
「エネルギーって・・・なんだか嫌な感じだな。吸われると死んじゃったりするんすか?」
結構な数の人がいたのだ。もしそうなら、大惨事になってしまう。
「いいえ。『負の象徴』がエネルギーにするのは、その名の通り人々の負の感情です。それを
吸われた者は、心から負の感情が取り除かれます」
「え?それって・・・」
「いいことなんじゃないの・・・?」
「はい。『負の象徴』もまた、この世界には必要な存在なのです・・・・・・」
リンナはどこか寂しそうな顔をしている。
「リンナ・・・あなたの言う決着って一体・・・」
ふと奥を見やると、一人の女性がこちらへ歩いてくる。間違いなかった。
「サギエルさん・・・!」
「なんで、たった一人だけで差し向けてきたんだ?」
よく周りを見渡してみても、他には誰もいない様だ。
「こちらの事を良く知っている。というメッセージでしょうか」
「何にせよ、ですね。ラキエルさん」
「はい・・・」
ラキエルもまた向かって来るサギエルの方へ踏み出す。その後ろにバンリ、ハワー、ヒイカ
の三人が続く。
「・・・ラキ・・・エル・・・」
「サギエルさん・・・あなたに話さなければならない事があります・・・だから・・・」
ラキエルは虚空から杖を取り出し、サギエルに向ける。
「あなたを・・・私たちが取り戻します!」