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黒翼のカナエル  作者: 氷花
プロト・ゼウス編
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希望を求めて

「しばらく振りだね、セクテ」

 姿を現したセクテは、大きな兎の姿をしていた。

「これがセクテさんの本来の姿なのですわね・・・・・・兎、初めて見ましたわ・・・・・・」

「エルメちゃん・・・みんなも、どうしてこんな所まできちゃうの・・・?」

「セクテこそ、どうして帰ってこないのさ」

 兎の姿となったセクテの表情は変化しない。だが、耳の動きからある程度の感情は読み取ることができる。エルメは耳を垂れるセクテをじっと、真っ直ぐに見つめ、返答を待つ。しばらくすると、意を決したように耳が立ち、身体の大きさの割りに小さな口がゆっくりと動き出す。

「もう、終わったんだよ・・・私がわがままできる時間は・・・・・・」

 小さくか細い、今にも泣き出してしまいそうな弱々しい声。

 エルメは優しく問い掛ける。

「どういうことか、教えてくれるかい?」

 兎は前脚で眼の辺りを拭うと、震える声で語りだす。

「私は『時壊兎』・・・その名前の通り、時間を壊す兎。その場所に存在するだけで、自分の意思とは無関係に時間を歪め、やがて世界をも歪めちゃうの・・・。今までみんなといられたのは、ママが何とか抑えてくれてたからなの・・・でもそのママも、向こうのママに全てを託していなくなっちゃった・・・・・・だからもう、歪みを抑えられる人は誰もいない。私はこれ以上、みんなとは一緒にいられないの!!」

 兎の真っ赤な眼から涙が溢れ出てくる。

 理由は分かった。だからこそ、一つ、確かめなければならないことがある。

「セクテ」

「エルメ、ちゃん・・・?」

「もし、どんな願いでも叶うとしたら・・・君は何を願う?」

 兎は突然のその問いに戸惑う。しかし、目の前の真っ直ぐな眼をした狐の少女を見て、胸の内から止め処なく溢れ出してくるものがあった。言葉が、あった。

「みんなといたいよぉ!!」

 胸の内にずっと、ずっと留めて外に出すつもりなんてなかった言葉。口にするだけ虚しくなると分かっていた言葉。なのに、なのに・・・・・・どうしてだろう?目の前の、この少女ならば、本当に叶えてくれそうな気がしてしまった。そんな気がして、口にしてしまった。・・・・・・でも何故か、胸に残ったのは虚しさではなく、これは・・・・・・『希望』・・・?

 その狐の少女、セクテはみっともなく、大粒の涙を次々と零す大きな兎、セクテに笑いかける。

「任せて!」

 胸の内から並々と湧き出てくる希望は涙となって、眼から溢れるばかり。拭うのも忘れ、ただただ、声を上げた。

 しばらくして、ようやく落ち着いた。

「セクテ、眼、真っ赤じゃないか」

「元々だよ!」

 そう言い、笑い合う。

「久し振りに笑顔を見たよ。・・・いやぁ、その姿だと表情分かんないけどさ」

「エルメさん、話を纏めますと、私たちはこれからどうするんですの?」

「元の世界に帰る。そして、セクテが気兼ねなく暮らせる世界を創る方法を見つける」

「単純明快ですわね」

「セクテ、僕たちを元の世界に帰せるかい?」

「うん、できるよ」

 そう言い、セクテが手をかざすと、空間に裂け目が生まる。

「よし。・・・んじゃあセクテ、ちょっと行ってくるね」

「うん」

「少し時間が掛かってしまうことがあるかも知れませんが、ご容赦下さいましね」

「ありがとう、デルフちゃん」

 あっと言う間で、とても長い別れになる気がしなかった。


 それは、エルメたちが戻ってきて直ぐのことだった。

「エルメ、エミエル・・・」

 今まで姿を現さなかったゼウス・ワンが待ち構えていたいたのだ。しかし、何か様子がおかしい。

「ゼウス・ワン?君は僕たちが知っている君かい?」

「え?別のゼウス・ワンなのですか?」

「ゼウス・ワンは我一人だ」

「じゃあ、そんな神妙な面持ちで、何かあったのかい?」

 その問い掛けに対し、ゼウス・ワンは肯定も否定もせず、ただ、述べる。

「エルメ、デルフ、エミエル・・・・・・お前たちは選ばれた」

「選ばれた?何に?」

「・・・『勇者』に、だ」

「勇者・・・?」

「それは光栄なことですわね!」

「『勇者』と言えば聞こえはいいが、実際はそんな煌びやかなものではない!外の者たちは、紙の上の存在であるお前たちを『白紙の書』を使って強化し、世界を脅かしている存在と戦わせる気だ。終わりの見えない戦いに、代えの利く戦力として実験的に投入するつもりだ。・・・幾ら傷付こうが、死のうが、書の力で復元させられ、延々と戦わせられることになるんだぞ!」

 そう話すゼウス・ワンは何処か申し訳無さそうにしているようにも見えた。

「気に病んでくれているのかい?」

「優しいです」

「茶化すな!これがどれだけのことか分かるだろう!?」

「分かるさ。なあ、デルフ」

「ええ。だからこそ、光栄なのですわ!他でもない私たちが先陣を斬る。そんな戦いなど、私たちの代で終わりにして差し上げますわ!」

 デルフからは全く不安や恐怖心が感じられない。

「その通りだ。生憎、僕には力が必要でね。その戦いを利用して、どこまでも強くなってみせる!」

 エルメはその先に希望すら抱いている。

 エミエルは・・・

「ゼウス・ワン、あなたも一緒に戦ってくれるのですか?」

「ああ。勿論だ。お前たちだけを戦わせたりはしない」

「そうですか!また一緒に戦えるのですね!楽しみです!」

 言ったことを理解しているのかいないのか、遊びに行くかのような感じだ。

「お前たち・・・・・・」

「あ、そういえば、さっき呼ばれた名前の中にソアトとシエイがなかったが、二人は選ばれなかったってことなのかい?」

 二人は先程から何も喋らず、静かに話を聴いている。

「それはそうだ。何せ、お前たちを選んだ張本人なのだからな」

「え・・・?」

「!?」

 この二人が選んだ・・・?選ぶ側だってこと?それはつまり・・・

「お前たち、まさか、外の・・・」

「はい。今まで隠していて申し訳ありませんでした」

「お察しの通り、我々は外からきた者です」

「ほ、本当にそうなんですのね!?」

「はい、デルフ様。騙すような真似をしてはおりましたが、これだけは信じて下さい」

「我々は心からデルフ様と共にありたいと望んで、今までお側に置いて頂いていたのです」

 二人はこの紙の上の世界の住人ではなかった。そのことを隠してはいたようだが、言動を見るに、本来の自身の性格まで偽り、演じていた訳ではなさそうだ。

「二人は何故、この世界で暮らしていたんだい?最初から誰かを選ぶためかい?」

「その通りです。我々も元々は外で戦っておりました」

「しかし、戦いの中で疲弊し、身体を休めるついでとして、この任を請け負ったのです」

「そうだったのですわね・・・ふふふ」

 デルフが嬉しそうに笑い出す。

「デルフ様?」

「ソアト、シエイ。この世界にきてくれて、私と出会ってくれて、慕ってくれて、そして・・・選んでくれてありがとう!!ですわ!」

「デルフ様~!!」

「これからもよろしく、で、いいんですわよね?」

「はい!もちろんです!!」

「いつまでも共に!!」

 三人が抱き合う中、ふと気付く。

「ゼウス・ワン、ブレイブはどうしてるんだい?」

「ブレイブか。ブレイブは今、修行中だ」

「修行!?」

「ブレイブ、元はソルジャーとして、あの世界線で様々な者たちと戦い、多くの経験を得たからな。それを生かすための特訓を受けている。その特訓が済み次第、ブレイブも合流することになる」

「へえ・・・それは、今度会う時が楽しみだね」


 その後、ソアトとシエイから戦う相手の特徴を聴き、各々準備を整え、いよいよ『外』へ向かう時がやってきた。

「皆、揃っているな?これから直ぐに戦場に向かうことになる。準備はいいな?」

「とっくに整っていますわ!」

「我々も!」

「いつでも!」

「できています!」

「行こう!望む世界を創るために!!」

 この先にどんな戦いが待っているのか分からない。どれだけの時間が掛かるのかも分からない。何もかもが分からないことだらけで先の見通せない戦いが始まろうとしている。だが、今この胸にあるもの、それは紛れもなく、『希望』ただそれだけだった。

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