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黒翼のカナエル  作者: 氷花
プロト・ゼウス編
238/240

尊厳

「デルフ様、どうかなされましたか?」

「もしや、傷の具合が・・・」

「・・・心配ありませんわ。あなたたちは先にお休みなさい」

 二人は心配そうな表情を浮かべながらも、深く問うようなことはせず、一礼して部屋に戻っていった。

「二人に無用な心配を掛けるなど、私ともあろうものが、不甲斐無いことですわね・・・それにしても・・・」

 昼間にエルメから言われた言葉を思い出す。

 あれ程までに真剣な表情と言葉で忠告、いや、警告をしてくるなんてことは今まで一度も無かった。それだけのことがその先にはあるのだろう。

 あの時は、あれだけ言われて思わず怯んでしまったが、

「エルメさんは既に、消されてしまうリスクを背負ってらっしゃるのですわよね・・・・・・プライド等は考えず、自分自身のことだけを考える・・・・・・」

 想像してみる。尊厳を失うとはどういうことなのか、消されるとはどのように、そうなってしまった時の事を、幾度も、幾度も。


 翌日。

「エルメさん」

 エルメが胸を張り、自信満々の表情で話し掛ける。

「ん・・・デルフ?」

 エルメは少し意外そうな表情をしていた。

「答え、出ましてよ」

「・・・じゃあ、聴かせてもらうよ。デルフ、君はどうするんだい?」

「当然!全てを聴かせて頂きますわ!」

「・・・理由を聴かせてよ」

「プライドですわ!」

「・・・・・・はぁ」

 その理由にエルメは一瞬呆気に取られ、大きな溜め息を吐いた。

「デルフ、僕はプライドとかは考えるなって言ったと思うんだけど?」

「もちろん覚えてますわよ。そして、尊厳を失ってしまう恐れがあることも」

「ああ、そうだ。だから・・・」

「だからですわ!」

 最初はふざけているのかとも思ったが、デルフの表情は真剣そのものだった。

 エルメは静かに次の言葉を待つ。

「私、考えましたの。尊厳を失うとはどういうことか、私の尊厳とは何かということを。・・・私の尊厳とは、『堂々と生きること』。誰に見られようと誇らしく、過去や未来の己が見ても誇らしい、そんな生き方を貫き通すことですわ。故に、知ることを恐れ、目を背け、ましてや己が身可愛さに逃げ出すなど言語道断!それこそ、己の尊厳を失うも同義!だから私に全てを話してもらいますわよ」

「はぁ・・・」

 エルメは再度大きな溜め息を吐いた。

「相変わらず、面倒臭い性格してるね。・・・でもまあ、こうなるだろうとは思ってたよ」

 そう言いつつも、その表情はどこか嬉しそうにも見える。

「分かった。話させてもらうよ」

 その時、

「我々もご一緒させて下さい!」

 現れたのは、デルフの側付きの二人だった。

「ソアト!シエイ!」

「ソアト?シエイ?あいつらそんな名前だったのか・・・」

「あなたたちにまで背負わせる訳にはいきませんわ!立ち去りなさい!」

「申し訳ありませんが、それにお応えすることはできません!」

「私共とて同じことなのです!デルフ様に置いて行かれれば、ご一緒できなければそれは、尊厳を失うのと同じなのです!!」

「ですのでどうか!我々もご一緒させて下さいまし!」

「う・・・!」

 デルフは何も言い返すことができなかった。

「自分で言ったことだ。諦めるんだな」

「・・・そうですわね。ソアト!シエイ!最早私たちは運命共同体!勝手に逃げ出すことは許しませんわよ!」

「はい!いつまでも共に!」

「どこまでも共に!」

「これで話はついたね。それじゃあ、覚悟して聴いてね」

 エルメは自身が知り得たことを全て話した。


「平気か?」

 デルフは何も言わず、しばらく目を瞑っていた。そしてゆっくりと口を開く。

「だったとしても・・・全てが紙の上の存在だったとしても・・・・・・私は私。このように生まれたことに感謝し、私らしさを貫くまでですわ!」

「デルフ様・・・!」

「強がっている・・・訳でもなさそうだね。正直、見くびっていたよ。意外に強いんだね」

「意外は余計ですわ。失礼ですわね。ソアトとシエイも平気ですわね?」

「はい!デルフ様!」

「もちろんです!」

「成程ね・・・」

 デルフがこうも強くいられるのは恐らく、慕ってくれるこの二人がいるからだろう。そしてその二人もまた、強くあり続けてくれるデルフがいるから強くあれる。

「君たちってほんと、仲いいね」

「そうでしょう?貴女とセクテさんの仲にも負けていませんことよ」

「!・・・そうだね・・・・・・そうだ!」

「ならば、早く迎えに行って差し上げませんとね」

「ゼウス・ワンとブレイブの二人とも合流したかったが、連絡を取る方法も無いし、それに、これ以上セクテを独りにしておきたくない!エミエルと合流して出発しよう!」

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