尊厳
「デルフ様、どうかなされましたか?」
「もしや、傷の具合が・・・」
「・・・心配ありませんわ。あなたたちは先にお休みなさい」
二人は心配そうな表情を浮かべながらも、深く問うようなことはせず、一礼して部屋に戻っていった。
「二人に無用な心配を掛けるなど、私ともあろうものが、不甲斐無いことですわね・・・それにしても・・・」
昼間にエルメから言われた言葉を思い出す。
あれ程までに真剣な表情と言葉で忠告、いや、警告をしてくるなんてことは今まで一度も無かった。それだけのことがその先にはあるのだろう。
あの時は、あれだけ言われて思わず怯んでしまったが、
「エルメさんは既に、消されてしまうリスクを背負ってらっしゃるのですわよね・・・・・・プライド等は考えず、自分自身のことだけを考える・・・・・・」
想像してみる。尊厳を失うとはどういうことなのか、消されるとはどのように、そうなってしまった時の事を、幾度も、幾度も。
翌日。
「エルメさん」
エルメが胸を張り、自信満々の表情で話し掛ける。
「ん・・・デルフ?」
エルメは少し意外そうな表情をしていた。
「答え、出ましてよ」
「・・・じゃあ、聴かせてもらうよ。デルフ、君はどうするんだい?」
「当然!全てを聴かせて頂きますわ!」
「・・・理由を聴かせてよ」
「プライドですわ!」
「・・・・・・はぁ」
その理由にエルメは一瞬呆気に取られ、大きな溜め息を吐いた。
「デルフ、僕はプライドとかは考えるなって言ったと思うんだけど?」
「もちろん覚えてますわよ。そして、尊厳を失ってしまう恐れがあることも」
「ああ、そうだ。だから・・・」
「だからですわ!」
最初はふざけているのかとも思ったが、デルフの表情は真剣そのものだった。
エルメは静かに次の言葉を待つ。
「私、考えましたの。尊厳を失うとはどういうことか、私の尊厳とは何かということを。・・・私の尊厳とは、『堂々と生きること』。誰に見られようと誇らしく、過去や未来の己が見ても誇らしい、そんな生き方を貫き通すことですわ。故に、知ることを恐れ、目を背け、ましてや己が身可愛さに逃げ出すなど言語道断!それこそ、己の尊厳を失うも同義!だから私に全てを話してもらいますわよ」
「はぁ・・・」
エルメは再度大きな溜め息を吐いた。
「相変わらず、面倒臭い性格してるね。・・・でもまあ、こうなるだろうとは思ってたよ」
そう言いつつも、その表情はどこか嬉しそうにも見える。
「分かった。話させてもらうよ」
その時、
「我々もご一緒させて下さい!」
現れたのは、デルフの側付きの二人だった。
「ソアト!シエイ!」
「ソアト?シエイ?あいつらそんな名前だったのか・・・」
「あなたたちにまで背負わせる訳にはいきませんわ!立ち去りなさい!」
「申し訳ありませんが、それにお応えすることはできません!」
「私共とて同じことなのです!デルフ様に置いて行かれれば、ご一緒できなければそれは、尊厳を失うのと同じなのです!!」
「ですのでどうか!我々もご一緒させて下さいまし!」
「う・・・!」
デルフは何も言い返すことができなかった。
「自分で言ったことだ。諦めるんだな」
「・・・そうですわね。ソアト!シエイ!最早私たちは運命共同体!勝手に逃げ出すことは許しませんわよ!」
「はい!いつまでも共に!」
「どこまでも共に!」
「これで話はついたね。それじゃあ、覚悟して聴いてね」
エルメは自身が知り得たことを全て話した。
「平気か?」
デルフは何も言わず、しばらく目を瞑っていた。そしてゆっくりと口を開く。
「だったとしても・・・全てが紙の上の存在だったとしても・・・・・・私は私。このように生まれたことに感謝し、私らしさを貫くまでですわ!」
「デルフ様・・・!」
「強がっている・・・訳でもなさそうだね。正直、見くびっていたよ。意外に強いんだね」
「意外は余計ですわ。失礼ですわね。ソアトとシエイも平気ですわね?」
「はい!デルフ様!」
「もちろんです!」
「成程ね・・・」
デルフがこうも強くいられるのは恐らく、慕ってくれるこの二人がいるからだろう。そしてその二人もまた、強くあり続けてくれるデルフがいるから強くあれる。
「君たちってほんと、仲いいね」
「そうでしょう?貴女とセクテさんの仲にも負けていませんことよ」
「!・・・そうだね・・・・・・そうだ!」
「ならば、早く迎えに行って差し上げませんとね」
「ゼウス・ワンとブレイブの二人とも合流したかったが、連絡を取る方法も無いし、それに、これ以上セクテを独りにしておきたくない!エミエルと合流して出発しよう!」




