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黒翼のカナエル  作者: 氷花
プロト・ゼウス編
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帰還

「起きなさい!起きなさいと言っているでしょう!」

「ん・・・ああ・・・?」

 目を開けると、そこには懐かしいとさえ思える顔がこちらを心配そうに覗き込んでいた。

「そんな顔もできるんだな、デルフ」

「ば、馬鹿言うんじゃありませんわ!」

 デルフに支えられ、ゆっくりと身体を起こす。

 あんなにも強烈な一撃を受けたというのに、身体に痛みは全く残っていない。まるで夢の中でのできごとだったかのように・・・。

 エルメは慌てて袋の中を確認する。するとそこにはミーニからもらった玉が確かに入っていた。

「現実・・・だったんだよな・・・」

「何ですの?」

「そうだ、あれからどれくらい経った?」

「あれから?・・・どれくらいも何も、逃げ遅れていた方々を避難させて戻ってきただけですので、それ程時間は掛かっていませんわよ。それよりも、あちらの天使、無事に倒せたんですのね」

「天使?」

 デルフの視線の先を辿ると、そこには天使が一人倒れていた。

「流石は魔王の娘と、褒めて差し上げても・・・」

「エミエル!」

 その天使の元に駆け寄る。

「ちょっと!人が折角褒めて差し上げると言っているのに!聴きなさいよ!」

 身体を揺さ振ってやると、直ぐに目を覚ました。

「ひっ!何起こしてるんですの!?」

「デルフ、少し静かにしてくれ」

「なっ!・・・なんですのよぅ・・・」

「エミエル、僕が分かるかい?」

「・・・はい、エルメさん」

 エミエルは静かに頷く。手を貸して立ち上がらせる。

「どうなってるんですの!?敵では・・・ないんですの・・・?」

 デルフは警戒し、後ずさりする。

 そういえばそうだった。デルフからしてみれば、エミエルはまさに今日、しかも今さっき施設を破壊され、戦ってボコボコにされた相手だった。

「あー・・・分かり合ったんだよ。殴り合って!ね!エミエル!」

「え?・・・あ、はい・・・?」

「こんな短い間にそんな友情物語が!?」

 デルフに本当の事を言う訳にも行かない。適当に誤魔化しつつ、今はゼウス・ワンとブレイブと合流するべきだろう。

 とは言っても、何処に行けば会えるのだろうか?帰還命令が出ていた訳だし、今頃は別の使命を与えられているかもしれない。早くセクテを迎えに行きたいところだが、皆で行きたいし、二人の方から来てくれるのを信じて、今はできることをしつつ待ってみるのがいいだろう。

「とりあえず、瓦礫の片付けでもするか」

「その前に!この方には何故施設を破壊するような真似をなさったのか、納得の行く説明をして頂かないと!」

「それは・・・」

「僕だよ!魔王の娘である僕と手合わせがしたくて、それで誘き出すために施設を破壊したんだよ。ね」

 エミエルに目配せする。

「あ、はい」

「だから僕からも。巻き込んですまなかった!」

「すみませんでした。もっとやり方を考えるべきでした」

 二人はデルフに頭を下げる。

「私一人に謝られたところで!誠意を以って、態度で示して頂かなくては!・・・ということで、施設が元通りになるまでしっかりと働いて頂きますわよ!」

 それから、総出での施設の建て直しが始まり、しばらく経過した頃。

「そう言えば、エルメさん」

「何だい?」

「セクテさんはどうされてるんですの?最近お見掛けしませんけど。あの子ならこの状況を見れば、自ら進んで手伝って下さりそうですのに、どこかに行っておられるんですの?」

「・・・まあ、ちょっと、ね・・・・・・」

「何ですの、その感じは?・・・もしや、喧嘩でもされたんですの?」

「まあ、そんなとこかな」

「珍しい事もあるものですわね」

 とりあえずそういうことにしておこう。

「それで?貴女はここで何をしているんですの?」

「何って・・・施設の建て直しだよ」

「では、休憩がてら、セクテさんを連れてきて下さいまし。人手は一人でも多い方がいいですし、それに、セクテさんのような明るい方がいらっしゃれば、皆さんも元気付けられるはずですわ。分かったのなら、さっさと行ってきて下さいまし」

 しっしっと追っ払うような仕草をし、胸を張る。

「・・・・・・」

 そうは言われても。

 ちっともその場を動こうとしないエルメに、デルフが痺れを切らす。

「どうして行かないんですの!?私の気遣いが分からぬ貴女ではないでしょうに!」

「そりゃあ分かるさ。でも、そんな簡単な話じゃないんだよ」

「?・・・相当酷い喧嘩をした・・・・・・という訳でもなさそうですわね。何を隠してるんですの?先程から煮え切らないその態度、私に言えない事でもあるんですの?」

「そんな仲でもないけどね」

「うぐっ」

 実際デルフとは、一方的に小言を言われる程度で、一緒に遊んだりするような関係ではない。

「この私が!心配して差し上げているというのに!何なんですのよお!!」

 思い通りに行かず、地団駄を踏む。

「デルフ。・・・君は本当に優しいやつだと思う。だからこそ、おいそれと軽々しく話せることじゃないんだ。・・・覚悟が必要なんだ。これを知れば、もう元には戻れない・・・その覚悟があるというのかい?」

 エルメは真剣に、真っ直ぐに忠告する。

 その何時になく真面目な表情と言葉に、デルフは一瞬怯み、息を呑む。それでも口を開こうとした時、

「あ、プライドとかそういうのはなしで。知れば、君は尊厳を失うことになるかもしれないし、最悪、消される恐れもある・・・。それも踏まえて、下手な友達意識ならいらない。真に自分のためになるのはどちらなのか、自分自身のことだけを考えて答えて欲しい」

「・・・・・・!」

 デルフの表情は恐怖で強張っていた。

 デルフは気力を振り絞って口を開き、震える声で、それでも威厳を保たんと胸を張り、言葉を発する。

「す、少しばかり、お、お時間をい、頂いても?」

「・・・そうだね。その場で答えを出せるような問い掛けでもないか。うん。よく考えて答えを出してよ」

 エルメは作業に戻り、デルフは俯き、大きな溜め息を吐いた。

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