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黒翼のカナエル  作者: 氷花
プロト・ゼウス編
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エミエルとして

 迷いの吹っ切れたゼウス・ワンとエミエルの二人はより一層激しく打ち合う。その表情はどこか楽しそうにも見える。

「エミエルの奴・・・・・・」

 エルメは遠くから見守りながら考えていた。

(『ました』ってあいつ、消える気なのか・・・・・・それが望み・・・・・・だとするならば、僕はやはり手出しをするべきでないか・・・。できることはただ見届けることだけ。・・・セクテのことは見届けてやれなかったからな・・・せめて、今回くらいはちゃんと見届けてやるかな)

「行くぞ!光裂斬!」

「光裂斬!」

 強い光を纏った二人の剣が勢いよくぶつかり合い、周囲に光を撒き散らす。

「ぐっ!」

 エミエルが吹き飛ばされ、鎖の壁に激突する。

「もう終わりか!プロト・ゼウス!」

 ゼウス・ワンがすぐさま追撃する。

「く・・・まだです!」

 エミエルはそれを回避し、瞬時に背後に回りこむ。しかし、

「甘い!眩耀槍波!」

 ゼウス・ワンは振り向き様に眩しくて見えないほどに輝く無数の光の槍を放つ。

「く・・・これは!?」

 攻撃が視認できず、回避できなかったエミエルは直撃を受け、撃ち落とされてしまう。

「今度は先程のようには行かんぞ!グランド・クロス!!」

 更に二本の剣で瞬時に十字を斬り放つ。

「くぅ・・・グランド・クロス・・・!」

 エミエルは降って来た巨大な十字を同じく十字で受け止める。

 しかし、迷いが消え、信念を取り戻した今の十字は、重い。エミエルにはとても押し返せそうに無かった。

「ここまで・・・ですかね・・・・・・」

 エミエルの十字が次第に小さくなり、消えて行く。

「エミエル!」

 その時、エルメが突然大声を上げる。

「エルメ・・・?」

「もう終わりでいいのかい!?そんな簡単に終わっていいのかい!?確かに君のしたいと言っていたことは終わったのかもしれない・・・でも!だからって!それでもういいやだなんて思うなよ!名前をもらったんだろ!?ならもっと大事にしなよ!!」

「!!」

「生きてりゃやりたい事なんて幾らでもできるんだ!だからもっと必死で生きて・・・『エミエル』としてもっと必死に生き抜いてみなよ!!・・・あるだろう!もっとやりたいことが!あるはずなんだ!エミエルとしての『信念』ってのが!!」

「信・・・念・・・」

 私「プロト・ゼウス」は時壊兎がミーニに接触しないようにするため、この世界にやってきた。しかし、それは失敗し、自分が代えの利く存在であると知り、絶望を覚えた。そんな私を、無愛想でろくに話もしようとしなかったのにも関わらず、励まし、この『エミエル』という名前まで付けてくれた。そして、「ゼウス・ワン」を止めたいという「したいこと」を見つけた。・・・・・・でもそれはきっと「プロト・ゼウス」としてのものだ。私が見つけるべきは『エミエル』としてのしたいこと・・・・・・


『あんまり笑わなくて・・・でも笑って欲しいし・・・だから・・・・・・うん!決めた!エミエル!』

『あなたはたった一人のエミエルちゃんで、私たちの友達なんだから!』


「笑い合いたい・・・もっと、『ともだち』として!一緒に!」

 エミエルが少しずつ十字を押し返し始める。

「何!?」

「できるはず・・・なれるはず・・・!皆が手を差し伸べてくれたように、あなたとも!ゼウス・ワン!!」

「!?」

「あなたとも『ともだち』になってみせる!!オーバードライブ!!」

 エミエルの翼が四枚になる。

「はああああ!!」

 同時に十字を弾き飛ばした。

「プロト・ゼウスが大天使の力を発現しただと!?」

 歴代のプロト・ゼウスの中において、大天使の力に目覚めた例など一つもなかった。それなのにこいつは、『友達になりたい』などという小さなことで大天使の力を目覚めさせたというのか。

「・・・私は、倒され、吸収され、あなたの力の一部になれればそれでいいと思っていました・・・。ですが私はまだ『エミエル』として何もしていない、できていない・・・・・・私が『したい』と思ったこと・・・それは、あなたとともだちになることです!!」

「・・・・・・」

 真剣な表情でそう言ってのけるプロト・ゼウスに対し、ゼウス・ワンは固まっていた。

「ゼウス・ワン。・・・私と、ともだちになってくれせんか?」

「・・・・・・」

 ゼウス・ワンは口を開けて固まったまま動かない。

「嫌、でしょうか・・・」

「・・・あ、いや、んと・・・その、だな・・・・・・」

 ゼウス・ワンはたじろいでいた。

(ふざけるな!誰がそんなものになるか!!)

 と、いつもなら言っているだろうに、何故だかそれを口にすることができない。

 そうこうしている内に時間が経ち、みるみるエミエルの表情がしおれていく。早く何か答えねば!

「わ、わ・・・・・・分からん!!」

 とりあえず答えた。今の心情を正直に。

 エミエルは肯定とも否定ともとれぬ返答に首を傾げる。

「はい、か、いいえ、でお答え頂いても宜しいでしょうか?」

「む!?ん・・・むぅ・・・・・・」

(そんなもの、いいえに決まっているだろう!!)

 と言いたいが、やはり言葉が口から出ない。

 身体が拒んでいる・・・?

「無言・・・それは答えに困っている。つまり、嫌、なのですね・・・・・・」

「ま、待て!!我は!我は・・・・・・んむぅ・・・・・・」

 どうしたらいいのかまるで分からない!!経験したことのないほどの焦りで呼吸が乱れ、身体がどうにかなりそうだ。無性に誰かに助けを求めたくなる。

 その時、

「んあああああ!!」

 そのやり取りをじっと見ていたエルメがたまらず大声を上げた。

「じれったい!!なんだよこの会話!?ムズムズするよ!!・・・ちょっと待ってて!」

「エルメ?」

 そう言い、エルメは鎖の箱を解除する。

「ラキエル呼んでくるから!」

「呼びました?」

「うわああああお!?」

 振り向いたら既にそこにいた。

「いいいつの間に出てきたんだ!?」

「今さっき、ヒサメさんに呼ばれまして・・・」

 その隣には青髪の女と赤髪の少女、それに随分成長しているようだが、ゼウス・ワンの僕であろう女が立っていた。

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