真の目的
素早く飛び回りながら打ち合う二人に対し、空を飛ぶことのできないエルメは地上から鎖を使ってエミエルを援護する。
基礎能力も技でも勝るゼウス・ワンだが、全てで劣るプロト・ゼウスに対して一撃すら与えられなくなっていた。プロト・ゼウスの体勢を崩し、一撃を加えられる機会を作り出しても、何処からか必ず鎖が割り込んできて妨害されてしまうのだ。
(またか!これだけの速度で動き回っているというのに、それに対応し、的確に妨害してくるとは・・・やはり奴から潰すべきか!)
奴は空を飛べないからと後回しにしていたが、あまりにも鬱陶しい。
ゼウス・ワンはつばぜり合いから力でプロト・ゼウスを吹き飛ばすと一転、標的をエルメへと変え、一直線に向かう。
「流石に鬱陶しくなったみたいだな」
ゼウス・ワンが二本の光の剣を振り回すが、エルメはそれらをひらひらと回避する。エルメも両手に剣を携えているのだが、使う事無く全て回避する。
(何だこいつの動きは・・・?動きが読まれているのか?)
ならば、
『閃光!』
突如、ゼウス・ワンの翼から強い光が放たれる。
「うおっ!」
不意の目眩ましにより視界を奪い、その隙を突き、光の剣を振るう。
だが、エルメの身体はそれをも回避する。
「何っ!?もしや魔法の類か!」
「くっ!目眩ましとは!何も見えない・・・!」
生憎、まだ視界は戻っていないようだ。
(範囲攻撃ならば!)
ゼウス・ワンは光を蓄え、大きな光の球を作り出す。
『天光!』
光の球が放たれようとしたその時、その背後からエミエルの剣がゼウス・ワンの胴体を捉え、吹き飛ばした。
「んぐぅっ!?ぐううううう!!おのれぇ・・・!」
「エルメ、もういいですよ」
「へっ、中々いい演技だっただろう?」
「演技だと!?」
「うっ!眩しくて何も見えないっ!って言えば、これをチャンスと見て一気に倒しにくると思ったからね。そらもう、背後は隙だらけよ」
「あの目眩ましをも回避していたというのか・・・!」
「『見えてた』からね。そうしてくるって」
「・・・魔獣族の狐・・・魔王の娘、だったか・・・ただの駒と思い、甘く見すぎていたか・・・!」
「何にせよ、漸く捉えました」
「捉えただと?他者の力を借り、たった一度不意を討ったくらいで調子に乗りおって・・・!」
「それだって、立派なこいつの力だと思うけどね」
「何?」
「そもそも君だって同じなんじゃないかい?」
「我がそいつと同じだと?」
「分からない?君だって大勢の仲間の力を借りているじゃないか」
「違う!奴等は僕!我が力の一部だ!!」
「違わないよ。僕だろうと何だろうと、結局は一人じゃない。一人じゃできないから誰かに手伝ってもらうんだ。エミエルは君を止めたいけど、自分じゃ碌に話も聞いてもらえないから僕に力を借り、君はミーニを始末したいが、一人だけではそれを阻もうとする者たちを出し抜けないから彼女たちの力を借りている。ほら、同じだ」
「・・・・・・」
「君は僕たちを吹けば消えてしまうような取るに足らない存在だと馬鹿にするが、生まれ方が違うだけでみんな同じなんだよ。紙の上に書かれただけの存在だろうが、誰かの僕だろうが、みんな生きてる。何かを目的にして、それを成すためにね!」
「ゼウス・ワン。今の私の目的は、あなたに攻撃を止めてもらい、あなたがすべき真の目的に気付いてもらうことです。おかしいと思っていたはずです。ミーニを始末するという名目のために与えられた力にしては弱すぎると。この世界を相手にするには、あまりにも足りないと!それはきっと、あなたにも伝えられていない真の目的があるに違いありません!・・・あなたは私よりも強く、優れている。ならば分かるはずです」
「・・・ふうー・・・・・・」
ゼウス・ワンは目を閉じ、大きく息を吐いた。そしてそのまましばらく動かなかった。
「ゼウス・ワン・・・?」
「分かっていたさ。あまりにも力が不足している事は。成すべき事を成すには我は・・・・・・弱すぎると」
「ゼウス・ワン・・・」
「プロト・ゼウス。お前はどう思う?我には本当に、真の目的があるだろうか?・・・・・・ただの捨て駒である可能性も・・・・・・あるのではないか?」
その声は先程までと全く異なり、とても弱々しかった。ゼウス・ワンはきっと、もっとずっと前から気付いていて、葛藤しながらも与えられた目的を成そうと演じていたのだろう。
「・・・それは否定できません」
「否定しないの!?あいつを説得したいんだよね!?」
「私にはとても。百パーセント否定することなどできません」
「・・・だろうな。だが、それでいい・・・・・・迷いはもう、吹っ切れた」
ゼウス・ワンは剣を構える。
「ゼウス・ワン!」
「例え、貴様の言う通り、我に真の目的があったとして、敢えてそれを伝えなかった理由があるとしたらそれは、予め与えられた目的を成すために動く続ける事こそが、その真の目的に通づるとも考えられよう。故に、成せる成せないの結果などどうでもいい!勝とうが負けようが、最後まで戦うだけだ!!付き合ってもらうぞ、プロト・ゼウス!!」
ゼウス・ワンの眼には強い意志が宿っていた。
「分かりました。理解されたのなら、もう、言う事はありません」
「結局戦いは回避できない、と。しょうがないかな」
「いえ、エルメ。ここは手を出さないで下さい」
「ああ?」
「最早、彼女も私も、勝ち負けなどどうでもいいのです。ただ一対一で、彼女を受け止めたいのです」
エミエルの眼も本気だった。
「・・・はぁ。危なくなっても、本当に助けないよ?」
「はい。エルメ、ありがとうございました」
エミエルはゼウス・ワンの待つ空へと昇って行く。
「ましたって・・・あいつ・・・・・・」




