エミエル
「取り引きだと?・・・ハッ!貴様にそんな権利があると思っているのか?」
「・・・・・・」
その少女は鋭い目付きでゼウス・ワンを見つめる。
「・・・ほう?貴様がそんな眼をするとはな。・・・いいだろう、一応、聞いてやる」
「・・・全ての強化天使を撤収させて下さい。そうして下されば、この方を渡します」
「そうか。確かに、そいつさえ手に入れば、世界全体を攻撃する必要は無くなるな」
「でしたら・・・」
しかし、ゼウス・ワンは何故か突然、大声で笑い出した。
「ハーッハッハッハッハ!!・・・断る!!」
「何故!?」
「貴様は自分の事を何も分かっていないようだな?貴様も他の強化天使同様、我が配下として操ることができるんだよ!」
「!?」
ゼウス・ワンはその少女に向かって手をかざす。
「プロト・ゼウスよ。そいつを我が元まで連れて来い!」
「・・・!」
その命令に対し、程なくして少女の身体が動き始める。
ミーニを脇に抱え、空中のゼウス・ワンの元まで運んで行く。
「漸くこの時が来たな。ミーニよ、お前とて大好きな世界を己のせいで歪ませたくはないだろう?だがらここで終わりにしてやろう。・・・そんな心配などしなくていいようになあ!!」
ゼウス・ワンは光の剣を手にし、ミーニに向かって振り下ろす。
しかし、
「何!?」
ミーニは光の剣を受け止める。
「こいつ・・・抵抗するか!!」
ゼウス・ワンは少し距離を取り、無数の光の槍を、プロト・ゼウス諸共滅さんとするが如く、次々と撃ち込み続けた。
だが、ミーニはその全てを防ぎ切っていた。時の力を一切使うことなく、ただの障壁のみで。
それは有り得ないことだった。時の兎は強力な時の力を有する代わりに、持ち得る魔力の量は極めて少ないのだ。なのにも関わらず、『この』ミーニはあれだけの攻撃を、しかも自分だけでなくプロト・ゼウスをも傷つける事無く防ぎ切って見せたのだ。
「貴様・・・ミーニではないな!?何者だ!!」
「・・・・・・」
その生物は俯いたまま何も答えようとしない。
「おのれ!プロト・ゼウス!そいつを始末しろ!」
その命令にプロト・ゼウスの身体が一瞬、ピクリと反応するが、直ぐに動きを止めてしまう。
「どうした!そいつを殺せと言っているんだ!!」
幾ら怒鳴ろうとも、プロト・ゼウスは目を閉じたまま動かない。それどころか、口角が上がっている事に気が付いた。
「な、に・・・?貴様、笑って・・・いるのか・・・?」
歴代のプロト・ゼウスの中にも、感情を見せた個体は存在しなかったはず・・・となればこいつも
「貴様も偽者か!?」
偽者と揶揄され、その少女はより鮮明に微笑を浮かべる。
「偽者・・・そうかも知れませんね・・・・・・」
「やはりか!貴様も何者だ!」
「ありがとうございました。私はもう、大丈夫です」
少女は抱えていたミーニを手放す。ミーニは空中からゆっくりと落下し、着地する。
「私は・・・私の名は、エミエル。・・・友達はそう呼んでくれます!」
「エミエル?・・・・・・そんな名の者など、データには・・・・・・」
「ゼウス・ワン・・・共に元の世界へ還りましょう!」
「!!やはりお前はプロト・ゼウスなのか・・・?どういうことだ・・・ならば何故命令に従わん!?何かされたのか?・・・・・・ええい!最早どうだろうと構わん!邪魔しようと言うのならば、誰であろうと打ち倒すのみ!ゼウス・ナイト!お前はあの屋敷を覆う壁を破壊し、本物のミーニを炙り出せ!」
ナイトはハイラント邸の上空へ移動し、十字を切る。
「グランド・クロス」
一瞬で巨大な十字架が生成され、眼下の屋敷に向けて放つ。
「あれは防ぎに行った方がいいかな?」
そのミーニが向かおうとした時だった。
「ん?」
何処からか伸びてきた閃光が巨大な十字架に直撃、打ち消した。
「あなたは・・・」
振り返るとそこには、身体中にビリビリと雷を奔らせる黒髪の女性が立っていた。
「ミーニ!・・・じゃない・・・・・・」
「よく分かったね。本物は中にいるよ。・・・あの人の相手、お願いできる?」
「・・・(こくり)」
何となく状況を理解したのか、黒髪の女性シツライは頷くと、ナイトの眼下、ハイラント邸を覆う気の壁の上に跳び乗る。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
シツライとナイトは無言で睨み合い、構える。




