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黒翼のカナエル  作者: 氷花
プロト・ゼウス編
214/240

したいこと

 ハイラント邸ではシュリたちが連れてきた避難者たちへの対応が一段落していた。

「皆さん、お客様方の応対、お疲れ様でした!お食事を運ぶ際にはまた、お願いしますね!」

 給仕者のガルはペコリと一礼すると、ニコニコとした表情のまま屋敷の奥へと消えていく。

「ガルさん楽しそうだねー」

「きっと、お客さんが沢山きて嬉しいんですよ。ガルさんはお世話するの大好きですし」

「お客さんじゃなくて、避難者だけどねえ」

 一方、ミーニは未だ悩んでいた。このままここでじっとしていていいのだろうかと。きっと、

ここでじっとしている事が一番正しいだろうことは分かっている。でも、世界中の人まで巻き込んで

しまっていて、戦っている人もいると言うのに自分は・・・・・・

「ミーニちゃん、平気?はい、あったかいお茶だよ」

「あ、メイエルさん・・・ありがとう・・・・・・」

 ミーニが湯飲みを受け取ると、メイエルは隣に座る。

「じっとしているだけっていうのも、辛いよね」

「え?」

「知ったようなこと言ってごめんね?でも、私なりに考えてみたんだ。私がミーニちゃんの立場だったらって。自分のせいで自分とは関係ない人たちが巻き込まれて戦い、苦しい思いをしている。本当なら原因である自分が解決するために頑張らなきゃいけないのに、じっとしているのが一番だって言われちゃって何もできない・・・。もどかしくて、申し訳なくて・・・・・・何か、何かできることはあるんじゃないかってそれをしなくちゃって、焦っちゃう・・・」

「・・・うん・・・・・・」

「ミーニちゃんは、許されるなら今、何をしたい?」

「それは・・・」

 相手の目的は自分だ。自分が出て行けば、世界中に散らばった白翼の少女たちを引き寄せる事ができるかもしれない。もちろん、死ぬつもりはないけど。

「出て行って取引、かな・・・」

「それはいけません!」

「え?」

 そう大声を上げたのは、本来、プロト・ゼウスと言う白翼の少女たちの仲間であるエミエルだった。

「エミエルちゃん?」

「・・・!」

 エミエル自身、自分の発した言葉に驚いている様子だった。

「どう言う風の吹き回しだい?ゼウスちゃん」

 同じく二人の話を聞いていたエルメが、エミエルの発した言葉が引っ掛かったのか、詰め寄る。

「もしや、ミーニを始末するのは自分の役目だとか、ゼウス・ワンとか言う奴に手柄を取られたくない

とか思ってるんじゃないだろうな?」

「違います!」

「違うと?・・・・・・そんなことは無いだろう!お前もあいつらと同じようなもんだろう!異物があれば

排除する、それがお前の役割だろうに!」

「・・・・・・」

「違うと言うのなら、今のお前の目的は何だ!言ってみろ!!」

 そう問われ、エミエルは頭を抱える。

「私は・・・?私の目的は・・・・・・?」

 やがて目は虚ろになり、身体中から汗が噴き出し始める。

「私ニ・・・与エラレタ・・・使命・・・ハ・・・・・・」

「エミエルちゃん!」

 ハワーが苦しむエミエルの傍に駆け寄り、その手を握る。

「そんなに苦しまないでエミエルちゃん!気にしなくていいんだよ、使命とか!もっと自由でいいの!」

「ジユウ・・・?」

「そう。しなきゃいけない、じゃなくて、『したいこと』を、考えるの」

「シタイ・・・シタイコト・・・・・・」

 エミエルには「使命」と「したいこと」にどのような違いがあるのか、理解できなかった。

 だが一つだけ、頭に浮かんだ事があった。

「・・・正したい・・・」

「ただしたい?」

「ゼウス・ワンのやり方は間違っています。それを・・・彼女を・・・正したい・・・・・・」

「エミエルちゃん・・・あったね!やりたいこと!」

「・・・はい!」

 ハワーの満面の笑みにエミエルの顔が綻んだ。

「あ!今・・・今、エミエルちゃん笑った!?笑ったよね!?」

「?」

 エミエルに自覚は無かったが、目の前ではしゃぐハワーの姿は悪い気はしなかった。

「・・・君のやりたい事は分かった。だが、正すとはどうする?説得でもするのかい?」

「はい、説得します」

「無理だな。あいつは君を自身の下位互換だと見下している。説得など聞かないだろう」

「・・・・・・」

 ゼウス・ワンは一代前のプロト・ゼウスを元に創り出された強化天使。それ故、実際にその力も、

与えられている権限も、彼女の方が上であることは間違いない。エルメの言う通り、自分の言葉が

届くとは思えない。

「それじゃあ、私を取り引き材料にしたら・・・!」

「ミーニちゃん!?」

「そうすれば、あの人だって話を聞かないわけには行かなくなって・・・」

「それはだめだって言ってるでしょ!」

「でも・・・」

「それはいい案だぴょん~」

「!?」

 その時、奇妙な声が聞こえ、誰もが振り返った。そこにいたのは、見た目も奇妙な、やけに頭のでかい二足歩行の兎のぬいぐるみだった。

「だれ!?」

「というか、何時からそこに・・・!」

 こんな妙な姿をした生物?がいれば気が付かないはずはない。なのに、誰一人として全く気が付かなかったとは。エルメは直ぐにその生物が只者ではないと直感した。

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