友達になる覚悟
「どうして・・・きちゃうの?」
「納得してないからだよ。どうして駄目なんだい?友達になるのが」
答え難いのだろう、兎は長い耳をてれたまま、一向にも答えようとしない。
「自分が、周囲に困難をもたらす存在だからか?」
「!!・・・な、何で知ってるの!?」
「絵本に描いてあったんだ」
「絵本?」
「これだよ」
その子に絵本を渡すと、前脚を器用に使い、頁を捲っていく。
「これは・・・誰が描いたの?」
「それは分からない。・・・それは上巻だが、下巻はそもそも存在しないらしい。それを読んで想った
んだ。その続きを創りたいって、その続きを幸せなものにしたいって!」
「・・・そう・・・思ってくれるのはうれしいよ・・・でも・・・」
「生半可な気持ちで言ってる訳じゃないよ!君が困難をもたらすと言うのなら、僕がそれを振り払っ
て見せる!僕の力だけじゃ足りないのなら、もっと沢山の友達と共に乗り越えて行けばいい!!僕の
名はエルメ!魔王の娘たるこの名にかけて君を後悔させないと誓う!!」
「魔王の娘・・・!くっ・・・」
これだけ伝えても駄目なのか。その子は俯いてしまった。
「なあ・・・全部聴かせてくれよ。駄目な理由をさ。それで僕を納得させられたら諦めてやる!さあ!」
その子は長い沈黙の後、意を決したように顔を上げた。
「・・・他の誰にも言わないって、約束してくれる?」
「ああ!言わないさ!」
「じゃあ・・・・・・確かにね、私が友達になることを断ったのは、困難に巻き込んじゃうって理由もある
よ。でも、それだけじゃないの・・・・・・それは・・・あなたが、消されちゃうかも知れないからなの!」
「・・・?消される?どういうこと?」
その口から語られたのは、『白紙界』のことだった。自分たちの生きているこの世界が本の中の世
界で、世界を創っているその文字を消したり書き入れたりすることで、いとも簡単に人を消し、創る
ことができると言うのだ。
俄かにはそんな話、真実だとは思えなかった。しかし、その子が断るために適当な嘘を言っている
とも思えなかった。
「私は世界を蝕む存在。・・・そんな私と仲良くなんてなっちゃったら、まして、味方をするようなこと
しちゃったら、きっと消されちゃう!」
「消されたら・・・どうなるの?皆の記憶からも消されるのか?」
「・・・余計な記憶を消されて、新しいあなたとして創られるの・・・新しい『魔王の娘』として・・・」
そうか。『魔王の娘』。これは自分に与えられた肩書きだったのか。『魔王の娘』と言う役をたま
たま宛がわれたに過ぎなかったのだ。だからとて、
「・・・なら、問題は無いな!」
「!?だめだよ!消されるのはあなただけじゃないんだよ!?関わった人たちみんなが消されちゃう
ことになっちゃうんだよ!?」
関わった人か・・・自分と、デルフと、腰巾着の二人くらいか。
「心配要らないさ。関わった奴の中には、消されて文句を言うような奴はいないからな。いやむしろ、
それを聞かされて怖気づいてすごすご逃げ帰った方が、ガミガミ言われるだろうよ。はっはっは!」
笑って見せると、その子はぽかんとしていた。
「僕たちは消されてもまた創られるんだろう?だったら任せとけ!何度消されても消されても、消さ
れても!君と友達になってみせる!君が友達を諦めないでさえいてくれれば!僕を求めてさえくれれ
ば!僕は何度だって必ず君と出会い、笑顔にしてみせる!だから!僕と友達になってくれー!!」
心の底から叫んだ。
その心が届いたのか、その子がゆっくりと歩み寄ってきた。
「物好き・・・なんだね・・・物好き・・・すぎるよ・・・こんなにだめだって言ってるのにさあ・・・・・・」
声が震えていた。
「言ったでしょ?僕は『魔王』!・・・の娘だよ?それがただの設定だったとしても、その設定通りに
振舞ってやるのさ!」
「ふふふ・・・魔王様・・・の娘様には敵わないなあ・・・」
「エルメ、だ」
「あ・・・うん、そうだね。・・・エルメ・・・ちゃん!」
「そうだ、君の他にも兎っているの?」
「いるよ?」
「じゃあ、名前のある兎っている?」
「・・・いる・・・」
「どんな名前?」
「・・・ミーニ・・・」
「ミーニ・・・他には?」
「あとは、ハワー・・・だったかな」
「ミーニ、ハワー・・・そうか・・・・・・よし、決めた!セクテだ!!」
「・・・せくてって?」
「ああ!君の名前だよ!セクテ!もう決めたから!嫌だと言っても呼び続けるから諦めるように!」
「セクテ・・・セクテ・・・!私の名前!セクテ!!」
その時、その子の身体が光に包まれ、姿が変化して行く。人型の少女の姿に。
「そんな姿にもなれたのか!?」
「え?なれたっていうか・・・なった?」
「何だそりゃ?まあいいや。これからずっとずっとよろしくな!セクテ!」
「・・・うん!よろしくね!エルメちゃん!」




