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黒翼のカナエル  作者: 氷花
プロト・ゼウス編
201/240

友達に・・・

 そこに描かれていたのは、特徴的な長い耳を持った「兎」という小さな小さな生き物の物語だった。

 その小さな小さな仔兎には力があった。とても強い力が。仔兎はその強すぎる力に戸惑い、悩みな

がらも、大好きな人たちのためにその力を行使する。

 そうして幾度もの困難を仲間たちと共に乗り越えた仔兎だったが、ある時、気が付いてしまう。

 その困難を引き寄せているのは自分自身なのだと。

 仔兎には分かっていた。仲間たちに頼れば守ってくれると。

 しかし、仔兎には堪えられなかった。世界に困難をもたらし続けることが。大好きな人や世界に、

終わる事の無い戦いを強いることになることが。

 仔兎は誰にも、何も言うこと無く、こっそりと姿を消してしまう。仲間たちが必死に探し回っても

見つかることの無い、何処かへと・・・・・・

「・・・もし、これが本当のことだったとしたら・・・ん?これ・・・『上巻』って書いてあるぞ?続きがある

のか・・・!」


「続き?ありませんわよ?」

「無いの!?無くしたのか!?持ってないのか!?」

「無くした訳でもなく、持ってない訳でもなく、そもそも続きは存在しておりませんの。・・・これは、

敢えて上巻だけ描き、下巻の内容はこれを読んだ方々が各々で想い描いて欲しいという作者の願いな

のですわ」

「・・・そうか・・・そうだとしたら・・・・・・」

 この絵本の作者はもしかしたら、この仔兎の仲間で、今もその仔兎を探しているのかも知れない。

そしてせめて、これを読んだ人たちの心の中でくらい、幸せな結末を迎えて欲しいと願っているのか

も知れない。

 だとしたら、自分がやりたい事は一つだ。


 再び山を訪れた。

 今度は食料やら何やらを持ち込み、再び「兎」に会えるまで帰らないつもりだった。作戦としては、

探し回れば向こうに警戒されてしまうだろうから、逆に引き寄せる。そのために用意したのが、食料

やら何やらを持ち運ぶための入れ物として利用した大きな釜だった。ここで魔法の研究をしようと言

うのだ。傍から見れば怪しく見えるだろう行為をしていれば、何をしているのか気になって寄ってく

るのではないかと考えたのだ。

 以前、あの兎が水を飲んでいた辺りの川辺に陣取り、早速研究を開始した。

 初めは周囲に気を配りながら手を動かしていたのだが、いつしか研究に没頭してしまっていた。

「んん?」

 釜の中がぶくぶくと激しく反応し始めた。

「あ、やばい!魔力込めすぎたか!?ぬわーーーっ!!」 

 ドーーーーーン!!

 辺り一帯に重々しい爆発音が鳴り響いた。

 気が付くと、釜の中で煮ていた植物やそのエキスを被り、全身が緑になっていた。

 その時だった。

「プーッ!!ククク・・・!」

 笑い声が聞こえた。無論、自分のものではない。

「誰!?」

「そんな緑になる!?いや、そうはならないでしょー!?あはははは!!」

 兎が腹を抱えて笑い転げていた。

 あの時の兎かは分からないが、漸く出会えたのだ、怖がらせないよう、慎重に対処する。

「多量の魔力を含んで変質してるからね、それで吸着するみたい」

「そうなんだ?」

「笑ってるけど、そっちも全身緑だぞ?」

「え!?うそ!?」

 兎は身体をくねらせ、慌てて全身を確認する。

「嘘だよ」

「んもーっ!!」

 兎は両手を挙げて怒りを露にした。

 その後、一緒に水浴びをした。

 その兎はあの絵本で見た「仔兎」と言うには大きく、耳の長さも然ることながら、最も特徴的だっ

たのは、その瞳だった。

 普通では在り得ないであろう、蜘蛛の巣状の瞳をしていたのだ。

「僕はエルメ。君は?」

「ないよ?」

「ナイヨ?・・・ナイヨちゃん?」

「ううん、そうじゃなくてね、私に名前はないの」

「そっか・・・前にも、ここで会ったよね?」

「ん・・・うん、そうだね。あの時はちょっとびっくりしちゃって逃げちゃったけど」

 やはりあの時の兎と同じだったようだ。

「・・・実は、あれから何度もここに君を探しにきてたんだ

「・・・・・・」

「どうしても気になって・・・今回またここに来たのも、同じ。君に会いたかったんだ」

 兎の耳が垂れる。

「どうして?どうして・・・そこまでして・・・会いにきてくれたの?」

「・・・最初は『兎』っていう見た事も聞いたこともなかった生き物に興味があったからだったけど、

今は・・・・・・君と、友達になりたいんだ!」

「だめだよ!!」

「!?」

 即答だった。

 兎は耳を立て、大きな声を上げた。

 突然の大声と予想外の反応に言葉を失った。

「・・・ごめんね。でも、これ以上は・・・私に関わらないで。じゃないと・・・ごめんね!」

「あっ!」

 兎は森の奥へと駆けて行ってしまった。

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