「兎」との出会い
屋敷内に戻ると、ミーニの姿を見たエルメが駆け寄ってきた。
「ミーニ!・・・セクテは・・・」
「分かんないです・・・でも、目的は果たせたのだと思います」
「そうか・・・・・・ミーニ、手荒な真似をして悪かったね。・・・どうしても、セクテの役に立ちたくてね」
「エルメさん・・・セクテさんとのこと、エルメさん自身の事、もっとくわしく教えてくれませんか?」
「・・・いいよ。全部話すよ」
僕にはあった。確かな記憶が。
魔王の娘として生まれた僕は、親の手では育てられず、施設に預けられてそこで育った。
自分が施設に預けられた事に対しては、別段、疑問に思うことは無かった。何故なら周りには、僕
と同じように幼少の頃から預けられ、共に育った仔たちが大勢いたからだ。だから、よくあることな
のだと勝手に理解し、納得していた。
今思えば、そんなみんなも創られた存在で、そうして何かしらの研究を行っていたのだろう。一体
何が知りたくてしているのかは予想もつかないが。
こうして今ある状況を当たり前だと疑問に思うことも無く、自分たちなりの自由を行き続けていた。
そんなある日の事だった。『兎』の少女と出会ったのは。
当時、僕はとある魔導書と出会い、興味を惹かれ、日々そこに描かれた魔法を実現すべく研究をし
ていた。
そんなある日、その中の一つを実現するためにどうしても必要な素材があって、普段は誰も足を踏
み入れない山へと入っって行った。魔導書を片手に、これは使えそうか、こっちはどうかと、その日
は採取ではなく、使えそうな素材があるかどうかの調査をしていた。
やがて歩き疲れ、持ってきていたお弁当を食べようと川辺にやってきた時だった。
「!?」
長い耳をしたそれなりに大きい獣が水を飲んでいたのだ。
その見たことの無い姿をした生物は、直ぐにこちらに気付き、慌てるようにして森の奥へと消えて
行ってしまった。
気にならないはずが無かった。
寮に戻り、本を漁った。それなりに大きかったし、必ず何処かに記されているはずだと探し続けた。
しかし、寮にある本にはあの生物の事らしい記述は何処にも見当たらなかった。その後もちょくちょ
く山へ入り、再び出会えないかと歩き回ったりもしたが、気配すら掴めなかった。
幻でも見たのだろうか?時間が経つにつれ、あれが現実の事だったのかと、次第に自信がなくなり
つつあった。
「あ~んらっ!エルメさん、ごきげんよう」
食堂で考え事をしていると、何かにつけてよく絡んでくる竜種の女デルフがいつもの調子で腰巾着
二人を従え現れた。
「・・・ん?ああ、ごきげんよ」
「まあ!何て失礼な!心の籠っていない挨拶ですこと!・・・もしや、落ち込んでいらして?それはそう
ですわよね?また落っこちたんですものねー!オーッホッホッホッホ!」
腰巾着二人も合わせて高笑う。
当時、履修していた隠密の試験に続けて不合格をもらっていたのだが、その時はそんな事など全く
頭に無かった。
「デルフ・・・長い耳をした生き物ってなーんだ?」
「?・・・なぞなぞですの?」
「いや、素直に答えてくれたらいいよ」
「・・・長い耳の生物・・・ウマ?ロバ?・・・狐・・・は長いと言うよりは大きい、でしょうし・・・」
「だよなー・・・・・・はぁ」
「んもうっ!何なんですの!?一体何が訊きたいんですの!?」
「んー・・・長い耳で脚は短くて・・・あ、あと尻尾も短かったか?大きさはウマより小さい・・・そんな風体
の生き物、知らない?」
「???」
説明が悪かったか、思い当たらなかったのか、デルフは首を傾げる。と、
「・・・ウサギ?」
腰巾着の片方がぽつりと呟いた。
「ああ!ウサギ!デルフ様!ウサギですよ!確かそんなような特徴を持っていたはずです!」
「ウサギとはあの、伝説上の生き物の・・・ですの?」
「伝説?そんな生き物いたんだ?」
「伝説と言いますか、それはもっと幼い頃に読んだ絵本に描かれていただけですけれど」
「絵本!?そうか・・・絵本か!」
それは盲点だった。もっと難しい本とか、図鑑ばかりで探していた。
「んで、ちなみにその絵本はどんな内容なんだ?」
「気になるのでしたら、ご自信で読んで見るべきでは?絵本は読む者によって捉え方が異なるもの。
人伝に聞くよりも、ご自身で直接感じるべきでしょう。ツーア、カーウ、あの絵本、今何処にあるか
分かります?」
「・・・はい。恐らくは」
「ならば直ぐに持ってきて差し上げなさい」
「了解しました!」
二人が駆けて行く。
「助かるよ、デルフ」
「ふん!この程度のこと、お構いなく」




