おいしい世界
ラグラが一枚の縦に長い長方形の紙と羽ペンを渡してくる。
「決まったならこれに書け」
「?これに、ですか?」
「本にではないのかの?」
「いいえ。今回はその『栞』に書いて頂きます」
「栞ならば挟んだり取り外したりで楽ちんっすからね。あ、ちなみにその栞と羽ペンもカナエル様が
創ったものっすよ。そんじゃそこらの紙を挟んだんじゃあ、意味無いっすからね」
一行は話し合い、黒い羽ペンで文字を書き入れる。
「できました」
それをラグラが受け取り、確認し、中央の機械の中に置かれていた『白紙の書』の中の適当な頁に
挟む。そして何やら機械をいじったと思うと、直ぐ隣に転移門が出現した。
「ここを潜れば第六世界ですよ。どうぞ」
ラキエルたちは顔を見合わせ、一斉に第六世界へ飛び込んで行った。
そこに広がっていたのは、森。その中に幾つかの家がぽつんぽつんと点在している世界だった。
ラキエルたちが栞に書いた文字は『食べれる森の家』だった。
「書いた通りの世界になるってんなら、この見えてるもん全部食えるってことだよな・・・!」
フェローリアがよだれを垂らす。
「木も家も食べた事がないのう。これは面白そうじゃな!」
一行は思い思いの場所へ行き、思い思いのものを口にする。そして・・・一様に神妙な表情になった。
それもそのはず、
「これは・・・味がしねえじゃねーか!!」
「おいしく・・・ないね」
何やら小型の機械を手に持ち、同行して来ていたグルが説明する。
「皆さんがお書きになったのは『食べれる森の家』でしたよね。『食べれる』だけですから、本当に
食べる事ができるだけで味は設定されていない事になるんです」
「くっ・・・そういうことか・・・なら!『おいしい』とか書いたらいいんだな!?」
「美味しい、ですか・・・どうでしょうね。どんな味を美味しいと感じるかは人それぞれ違いますし・・・
ですが、もしかしたら、その人にとって美味しいと感じる味になってくれるかも知れませんね」
「よし!じゃあちょっと書き足してくる!」
食欲が抑えられないフェローリアが転移門へ駆け出して行った。
フェローリアが栞を取り外した瞬間、
「おお!?全部無くなったぞ!?」
木々も家も全てが一瞬の内に消え去り、ただの真っ白な空間になった。
そしてまた、一瞬で世界が形成される。
「書いてきたぜ!早速食いなおしだ!」
フェローリアが家の壁の一部を剥がし、かぶり付く。
むぐむぐむぐむぐ・・・・・・ごくん。
「・・・んまい!今度はちゃんとうまいぞ!!」
その様子を見ていた他の面々も口へと運ぶ。
「美味しいな!」
「確かに。今度はしっかりとした味がありますね!皆さん、ちなみにどんな味がしてますか?」
「こっちは甘いよー!」
「あたしはピリッとくる感じだな」
どうやら皆、それぞれ違う味を感じているようだった。
どうやら「美味しい」という曖昧な表現ならば、それぞれに合った味にすることができるようだ。
「ですが、好きな味は誰しも一つだけではないはず・・・・・・どうして好きな味の中から今、この味が選
ばれたのでしょうか・・・・・・」
「それなら分かるぜ」
食べまくっていたフェローリアが両手に抱えたままやってきた。
「え?本当ですか!?」
「ああ。この味のもんが食いたい!って思って食えばいいんだよ」
「あっ!成程!」
ラキエルも試してみる。
頭の中で食べたい味を想像し、口へと運ぶ。すると、
「・・・!本当ですね!!」
「だろ?こりゃあいいぞ!まあ、見た目と味が一致しないってのはあるけどな」
皆たらふく世界を堪能し、一休みしていた。
「ふぅ~食べたのう~」
「食べましたね~」
「つーか、空想の世界で腹を満たせるってのはすげえことだよな」
「おまけに、誰が食べても美味しい訳だしな」
この世界一つあれば食うに困らなくなる。この『白紙界』の力の大きさを思い知っていた。
そんな中、ふと気付く。
「あれ・・・そう言えば、ミーニさんは何処ですか?」
「?・・・そう言われれば、セクテの姿も見えないな」
「グルさん、二人を見ませんでしたか?」
「う・・・すみません。私も食べる事に夢中になっておりまして、見ていませんでした・・・すみません」
グルは恥ずかしそうに頭を下げる。
「セクテの事だ、夢中になって奥の方にでも行ったんだろ。僕がちょっと捜してくるよ。みんなはこ
こで休んでて」
エルメは一人立ち上がり、森の奥へと消えて行った。
「セクテさん・・・あんまりみんなから離れない方が・・・」
「でもでも、森がどこまで続いてるのか気になるもーん!」
そう言いつつ、セクテはミーニの手を引き、どんどんと前へ前へと進んで行く。
そして、急に立ち止まったかと思うと、周囲をキョロキョロと見回す。
「どう・・・したの?」
ミーニは何か違和感を感じていた。
「・・・ミーニちゃん。お願いが・・・あるの」
セクテはミーニに背を向けたまま話し始める。
「お、お願い・・・?」
「・・・うん・・・・・・」
セクテはしばらく沈黙していた。
そして、振り向く。
「わたしの・・・・・・『ママ』に会って欲しいの・・・!」
「ママに?・・・いいけど、いつ?」
セクテはミーニの背後を指差す。
「もう、来てるの」
突然、異様な気配を感じ、背後を振り返るとそこには、真っ赤で大きな『眼』があった。




