辿り着いた世界
翌日の早朝。いつもよりも早く起き、朝食を食べ、登校した一行は真っ直ぐに保健室へと向かった。
そこでは二人が昨日と何ら変わらぬ体勢のまま眠り続けていた。
「気持ちよさそー・・・わたしも寝たいなあ・・・ふあぁ~・・・・・・いっしょに寝たらだめかなー?」
「だめだよお姉ちゃん」
「むー・・・・・・」
「まだ眠ってやがんのか・・・。なあ、もしかしたらこれ、何かあんじゃないか?」
「何か、とは・・・何かの術で眠らされている、と言うことですか?」
「原因があるとしたら、な」
二人の様子は、特段苦しそうでもないし、何なら今直ぐにでも目を覚ましそうな気さえする。
「ん?」
気のせいだろうか?今一瞬だが、狐の方の耳がピクリと動いたような気がする。
「・・・・・・」
どうやらそれに気が付いたのはバンリだけのようだ。
「試してみるか」
バンリは徐に鎌を取り出す。
「バンリちゃんどうしたの!?いきなり鎌なんて出しちゃって!」
「ちょっと魂を取り出してみようと思ってな。出し入れしたら起きるかもしれないだろ?」
バンリは狐の胸部に鎌の先を突き立てる。
「か!な!り!!痛いだろうが、気を失ってるなら大丈夫だろ」
痛いことを強調し、
「よーし、行くぞー!」
わざと声に出しつつ鎌を高々と振り上げる。
「魂・・・砕き!」
「わああああストーーーーーップ!!」
狐が勢いよく跳ね起きた。
「何だ。起きたのか」
「おかしいでしょ!魂を出し入れするんなら魂狩りでしょ!?どうして砕こうとしてんの!?」
「しっかり会話、聞いてるじゃないか」
しかし、兎の方はまだ眠ったまま動かない。
「じゃあ、兎の方で試して・・・」
バンリが兎の方へ鎌を振り上げる。
「待て待てええい!!寝てるだけだから!今はただ寝てるの!」
「今は、と言いましたか?」
「そ。気を失ってたのは本当だけど、夜中の内に二人共気が付いてね。自分たちの状況も、ここがど
こかも分からないから、寝た振りしつつ耳を立ててたって訳。その内にセクテは本当に寝ちゃったみ
たいだけどね」
「そのこ、セクテって言うんだね!」
「ん・・・ああ、僕の名はエルメだよ」
名乗り、エルメは周囲を見回す。
「兎が二人も・・・そうだ、起こさないとね」
エルメがセクテの身体を揺さ振る。
「うへへ・・・ママ、もふもふ~・・・・・・」
しかし、幸せそうな顔をするだけで一向に起きない。
「・・・えい」
エルメがセクテの長い両耳を一掴みにし、引っ張った。
「あたたたたた!?」
セクテは跳び起きた。
「夢からよくぞ戻られた。我が親友セクテよ」
「あう・・・エルメちゃんおはよー・・・ふぁあ~・・・・・・」
大きな口を開けつつ伸びをする。そしてふと周囲を見渡す。
「うあ!いっぱいいる!?」
一息つき、改めて自己紹介する。
「ラキエルです」
「バンリだ」
「フェローリア」
「ハワーだよ」
「ミーニ、です」
その瞬間、セクテが目を見開いた。
「ミーニ・・・!?・・・ママだー!!」
「え?」
「かわいい~!!」
そしてミーニを抱き締める。
「い・・・今、何つった!?」
「マ・・・マ?とか聞こえましたけど・・・」
「ち、ちょっと待って!ちょっと!」
「なあに、ママ?」
「私に・・・言ってるの・・・?」
「んー?・・・・・・あっ!」
セクテは何かを思い出したかのような声を上げると、慌て始めた。
「あわわわわ・・・い、今のは違うの!寝ぼけてたみたい!」
「寝ぼけてた?ん~?」
怪しい。
「セクテはいつもこうなんだよ。寝起きはいっつも近くにいた人にママーって抱きつくんだ」
「そ、そうなの!いつもエルメちゃんに注意されるんだけど、ほとんど無意識でやっちゃうから中々
治んなくて・・・」
「・・・成程、そうですよね!ミーニさんがこの歳で母親な訳は無いですし」
「驚かせんなよな」
「えへへ、ごめんなさい・・・」
セクテはほっと胸を撫で下ろした。
「そう言えば、ここが何処だか分からないって言ってましたよね?ここはナーエの町の学校ですよ」
「学校・・・ナーエの町・・・」
「そういや、お前たちはどうして気を失って倒れてたんだ?誰かに襲われでもしたのか?」
「えっと・・・」
セクテがエルメへ目配せし、助けを求める。
「そ。ちょっと戦っててね。それでかなり危なくなったから、思い切って転移魔法使って逃げてきた
って訳。転移先は定める余裕も無かったから適当だったんだよ」
エルメの口からすらすらとそれっぽい言葉が溢れ出す。別に嘘は言ってない。
「それで、この学校の上空に転移してきて、落下したという訳ですね」
「ああ、そう言えば、まだお礼言ってなかったや。ありがとね、介抱してくれて」
「ありがとー!」
「いや、ここに運んだだけで、介抱らしい事はほぼしてないけどな」
「二人はこれからどうするの?」
「んー・・・もしかしたら、あいつが・・・ああ、戦ってた相手のことね。そいつがまだ捜してるかも知れ
ないから、何処かに匿ってもらえると有難いんだけど・・・何処か、いい所知らない?」
「それならば、ハイラント邸にいらしてはいかがですか?あそこならば、お部屋もたくさん空いてま
すし、快く受け入れてもらえると思いますよ」
「ハイラント邸・・・!エルメちゃん!」
「うん!『あの』ハイラント邸に・・・!是非、紹介して頂きたく!」
ラキエルたちの学校の授業が終わるのを待つ間、二人は状況を確認する。
「セクテ、ここって・・・過去の世界か?あのラキエルさんとか・・・ミーニさん・・・・・・」
「ちょっとだけ違うかな?過去は過去だけど、違う世界線の過去なの」
「違う世界線の?・・・セクテ、ここで何をするんだ?セクテがもらった任務って・・・何だ?」
「・・・・・・それはね――――」




