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黒翼のカナエル  作者: 氷花
プロト・ゼウス編
185/240

辿り着いた世界

 翌日の早朝。いつもよりも早く起き、朝食を食べ、登校した一行は真っ直ぐに保健室へと向かった。

そこでは二人が昨日と何ら変わらぬ体勢のまま眠り続けていた。

「気持ちよさそー・・・わたしも寝たいなあ・・・ふあぁ~・・・・・・いっしょに寝たらだめかなー?」

「だめだよお姉ちゃん」

「むー・・・・・・」

「まだ眠ってやがんのか・・・。なあ、もしかしたらこれ、何かあんじゃないか?」

「何か、とは・・・何かの術で眠らされている、と言うことですか?」

「原因があるとしたら、な」

 二人の様子は、特段苦しそうでもないし、何なら今直ぐにでも目を覚ましそうな気さえする。

「ん?」

 気のせいだろうか?今一瞬だが、狐の方の耳がピクリと動いたような気がする。

「・・・・・・」

 どうやらそれに気が付いたのはバンリだけのようだ。

「試してみるか」

 バンリは徐に鎌を取り出す。

「バンリちゃんどうしたの!?いきなり鎌なんて出しちゃって!」

「ちょっと魂を取り出してみようと思ってな。出し入れしたら起きるかもしれないだろ?」

 バンリは狐の胸部に鎌の先を突き立てる。

「か!な!り!!痛いだろうが、気を失ってるなら大丈夫だろ」

 痛いことを強調し、

「よーし、行くぞー!」

 わざと声に出しつつ鎌を高々と振り上げる。

「魂・・・砕き!」

「わああああストーーーーーップ!!」

 狐が勢いよく跳ね起きた。

「何だ。起きたのか」

「おかしいでしょ!魂を出し入れするんなら魂狩りでしょ!?どうして砕こうとしてんの!?」

「しっかり会話、聞いてるじゃないか」

 しかし、兎の方はまだ眠ったまま動かない。

「じゃあ、兎の方で試して・・・」

 バンリが兎の方へ鎌を振り上げる。

「待て待てええい!!寝てるだけだから!今はただ寝てるの!」

「今は、と言いましたか?」

「そ。気を失ってたのは本当だけど、夜中の内に二人共気が付いてね。自分たちの状況も、ここがど

こかも分からないから、寝た振りしつつ耳を立ててたって訳。その内にセクテは本当に寝ちゃったみ

たいだけどね」

「そのこ、セクテって言うんだね!」

「ん・・・ああ、僕の名はエルメだよ」

 名乗り、エルメは周囲を見回す。

「兎が二人も・・・そうだ、起こさないとね」

 エルメがセクテの身体を揺さ振る。

「うへへ・・・ママ、もふもふ~・・・・・・」

 しかし、幸せそうな顔をするだけで一向に起きない。

「・・・えい」

 エルメがセクテの長い両耳を一掴みにし、引っ張った。

「あたたたたた!?」

 セクテは跳び起きた。

「夢からよくぞ戻られた。我が親友セクテよ」

「あう・・・エルメちゃんおはよー・・・ふぁあ~・・・・・・」

 大きな口を開けつつ伸びをする。そしてふと周囲を見渡す。

「うあ!いっぱいいる!?」

 一息つき、改めて自己紹介する。

「ラキエルです」

「バンリだ」

「フェローリア」

「ハワーだよ」

「ミーニ、です」

 その瞬間、セクテが目を見開いた。

「ミーニ・・・!?・・・ママだー!!」

「え?」

「かわいい~!!」

 そしてミーニを抱き締める。

「い・・・今、何つった!?」

「マ・・・マ?とか聞こえましたけど・・・」

「ち、ちょっと待って!ちょっと!」

「なあに、ママ?」

「私に・・・言ってるの・・・?」

「んー?・・・・・・あっ!」

 セクテは何かを思い出したかのような声を上げると、慌て始めた。

「あわわわわ・・・い、今のは違うの!寝ぼけてたみたい!」

「寝ぼけてた?ん~?」

 怪しい。

「セクテはいつもこうなんだよ。寝起きはいっつも近くにいた人にママーって抱きつくんだ」

「そ、そうなの!いつもエルメちゃんに注意されるんだけど、ほとんど無意識でやっちゃうから中々

治んなくて・・・」

「・・・成程、そうですよね!ミーニさんがこの歳で母親な訳は無いですし」

「驚かせんなよな」

「えへへ、ごめんなさい・・・」

 セクテはほっと胸を撫で下ろした。

「そう言えば、ここが何処だか分からないって言ってましたよね?ここはナーエの町の学校ですよ」

「学校・・・ナーエの町・・・」

「そういや、お前たちはどうして気を失って倒れてたんだ?誰かに襲われでもしたのか?」

「えっと・・・」

 セクテがエルメへ目配せし、助けを求める。

「そ。ちょっと戦っててね。それでかなり危なくなったから、思い切って転移魔法使って逃げてきた

って訳。転移先は定める余裕も無かったから適当だったんだよ」

 エルメの口からすらすらとそれっぽい言葉が溢れ出す。別に嘘は言ってない。

「それで、この学校の上空に転移してきて、落下したという訳ですね」

「ああ、そう言えば、まだお礼言ってなかったや。ありがとね、介抱してくれて」

「ありがとー!」

「いや、ここに運んだだけで、介抱らしい事はほぼしてないけどな」

「二人はこれからどうするの?」

「んー・・・もしかしたら、あいつが・・・ああ、戦ってた相手のことね。そいつがまだ捜してるかも知れ

ないから、何処かに匿ってもらえると有難いんだけど・・・何処か、いい所知らない?」

「それならば、ハイラント邸にいらしてはいかがですか?あそこならば、お部屋もたくさん空いてま

すし、快く受け入れてもらえると思いますよ」

「ハイラント邸・・・!エルメちゃん!」

「うん!『あの』ハイラント邸に・・・!是非、紹介して頂きたく!」


 ラキエルたちの学校の授業が終わるのを待つ間、二人は状況を確認する。

「セクテ、ここって・・・過去の世界か?あのラキエルさんとか・・・ミーニさん・・・・・・」

「ちょっとだけ違うかな?過去は過去だけど、違う世界線の過去なの」

「違う世界線の?・・・セクテ、ここで何をするんだ?セクテがもらった任務って・・・何だ?」

「・・・・・・それはね――――」

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