外へ(前編)
輝く銀が夜空を駆け、舞い踊る。
「う~~~ん・・・・・・」
師範がおでこにしわを寄せ、悩みながら長い唸り声を上げる。
心の中で溜め息を吐いた。答えは分かっているから。
「その長い銀髪、夜でも輝いて見えてて、結構目立っちゃってたし・・・ごめんね、不合格!」
隠密の試験で幾度目かの不合格をもらい、幾度目かの大きな溜め息を吐きつつ、美しく輝く銀の毛
並みを持つ狐の少女エルメは、食堂できつねうどんを受け取り、丁度お昼時でごった返している中か
ら空いている席を探す。
「おーい!エルメちゃーん!おーーーい!!」
呼ぶ声が聞こえる。聞き慣れた声だ。
「セクテ、助かったよ」
「えへへ~、一緒に食べよ!」
表情の緩い兎のセクテは親友だ。何かと溜め息の多い自分にとっては、この緩い表情と人となりは
癒しである。
「いただきまー・・・」
「あ~んっら!エルメさん!ご機嫌麗しゅう」
食べ始めるや否や、甲高くて偉そうで、食欲を減衰させるような声が聞こえてきた。
「あーらこれはこれはデルフお嬢様。ごきげんよう」
竜種でイイトコの娘らしく、いつも傍らに傍付きを二人を侍らせて威張り散らしている女。それが
デルフである。
「時に、小耳に挟んだのですが・・・貴女、ま~た!不合格だったんですってね~!これで五度目!貴女
は誰の娘なんでしたっけ~?」
知ってるくせに。
「・・・はぁ。・・・魔王グリムだよ」
「まあ!あの魔王様の娘ともあろう御方が、五度も連続して不合格とは嘆かわしい事・・・・・・さぞ魔王様
も残念がっている事でしょうね!オホホホホホ!!」
デルフの高笑いに合わせ、傍付きの二人も同様に高笑いする。
別に頭にきたりはしない。もういつものことだし、不合格になっているのも自分に非があることは
分かりきっているから。
「それにしても、耳が早いね。まだ誰にも言ってないはずなんだけど」
「わたくしともなれば当然ですわ!」
「ふ~ん・・・もしかして、師範の部屋の前で耳立ててたりしてた?」
「!!し、しませんわそんな事っ!!」
「本当かな?ま、いいけど。こうして一番にわざと憎まれ口を叩きにきて奮い立たせようとしてくれ
る。いつも気を使ってくれてありがとね」
「なっ!!??まっ・・・もう!行きますわよ!!」
言葉に詰まったデルフは逃げるように去って行った。
「デルフちゃんもいい子だねー。ほら見てよ。食堂の列に並んでる。ご飯を食べるのも後回しにして
声を掛けにきてくれてたんだね!」
本当に並んでる。手を振ってみるか。
「お~~~い」
「!?」
それに直ぐに気付いたデルフは首を痛めそうなほどの物凄い勢いで首を背けた。
「根はいい奴なんだよな・・・素直じゃないだけで。・・・と、セクテ、今日はこの後どうする?」
「あ、今日ね、これからママの所に行こうと思ってるの。ごめんね」
「そっかあ・・・・・・んじゃ、今日は部屋にこもって作り置きしておくかなー」
寮の部屋に戻り、机に座る。引き出しを開け、中から試験管のような形をした透明な物体を幾つか
取り出す。
当然だがこれは試験管ではない。入れる穴も空いていない、魔力で形成された塊である。
自分が師匠と仰いでいる、まあ、勝手にそう思わせてもらっているだけなのだが、その人物の書い
た魔導書を読み、自身で製造したのだ。大魔導士シュリ。彼女の書いた魔導書はとてもおもしろい。
見たことも聞いたこともない魔法の数々。実用的なものから役には立たないが人を笑顔にする事はで
きるようなものまで様々な魔法を研究し、開発し続けている偉人。中でも自分が最も心の奥底から揺
さ振られたのが、この擬似錬金術こと「錬金魔法」である。
錬金魔法とは、魔力や魔法を、自分の物だろうと他の誰の物だろうと、別の魔法や元素に変換でき
てしまうという驚愕の技術。
それを魔導書で学び、練習を重ねる日々なのだが、その魔導書の中に記されていた魔法記憶媒体、
通称「マキちゃん」の安定的な製造には成功している。それがこの試験管という訳だ。
今からこの中に魔法陣を込める。一つでなく複数の魔法陣を。
マキちゃんを両手で握り、意識を集中させて一つずつ魔法陣を込めていく。細長いこの中に規則正
しく魔法陣を並べ、込めていくのにはかなりの集中力がいる。かなり疲れる作業だから、寝る前に行
うのがそのまま眠れてベストなのだが仕方ない。暇だし。
ズドーーーン!!キャー!!キャー!!
「ん?」
急に外が騒がしくなってきた。
窓から様子を伺う。すると、あちこちで煙が上がり、人々が悲鳴を上げながら逃げ惑っていた。
「ケンカ・・・・・・でもなさそうか!」
普通の事態ではないと感じ、窓から跳び出して煙の方へ向かう。
「施設が・・・!」
食堂も他の施設も全壊でないにしろ、無惨に破壊されていた。
周囲の至る所に瓦礫や倒れている人がいる。そしてその人々に手を差し伸べる者の姿もあった。
「あんたたち・・・デルフの腰巾着!」
その二人はデルフの傍付きだった。自身も身体中が汚れ、出血も見られる身体で救護をしていた。
「エルメどの!」
「どうか、デルフ様を・・・お助け下さい!!」
「何があったんだ!?・・・・・・って、訊いてる暇もなさそうかっ!」
傍付きが指差す方へと駆け出す。




