誰も知らない君と僕の箱舟
~プロローグ~
ことの始まりは17年前だった。
世界は膨大な大雨にみまわれ海の底へと沈んでしまった。
あらゆる生き物が、ひたすら上へ上へともがき苦しみ漆黒の海の底へ消えていく。
最後に有るのは、ただ一面に何処までも広がる、静かな海だけだった。
しかし、このことは一部の人類に大きな変化を与えた。
水中では決して生きられない私たちに、突如として『エラ』が与えられたのだ。
主に人体の首の部分にエラは現れた。
しかし、その正体は『ミエラ』と呼ばれる、大雨と共に出現した希少プランクトン性寄生虫である。
ミエラは、人の口から肺に入った場合にのみ寄生し、その本体は肺に絡みつき、触角を伸ばし首筋に穴を開け、そこから養分を吸収する。
これは親から子へと受け継がれており、親子では同じ遺伝子のミエラを宿している。
これにより何故か人類はエラ呼吸が可能となったのだ。
そして……、
人類はこのミエラによって、空気の中で生きることを奪われた。
これはミエラによって、エラが当たり前となった中、ただ1人、親からミエラが受け継がれなかった、人類の鍵となる少女の話である。