執着 一話
「インシュ王子、付近に敵兵の姿はありません」
「そうか、なら飲もう」
城が落とされて逃亡中だというのに王子がふざけたことを抜かす。
最上級の笑顔で酒を取り上げて木に叩きつけた。
「ふぎゃっ!」
「兵士はいませんが、女狐ならいました」
しかし木から落下したのは女狐というより共謀な猫のような女だ。
「アンタがヴァッカス領の王子インシュ=ヨイドーレね!」
「そうだよ可愛いお嬢ちゃん。何、僕を殺しにきた?」
さっそくクソ王子がナンパを始めた。こいつの一族の奉る神もそんな感じだ。
「我が一族がため、その首もらいにきた!!」
「え、それなんかの劇の台詞なのキャットちゃん」
「ティエノよ!」
こいつらの言い争いはクソどうでもいいが、あれは俺の目的の敵国の女兵ではなかった。
「おいおいフラッディ、この小さなレディをなんとかしてくれよ」
「嫌ですよ女の扱いは得意じゃないんすか王子」
一人で何千の敵から奴を守らないといけないんだし、俺は暇じゃないんだ。
――とっとと奴を見限りたいが、奴が死ぬと俺も死ぬ契約を生まれたときに親からかけられている。
どうせなら絶世の美女と運命共同体だったらどれだけよかっただろう。
「はーこんな呪いがなけりゃ自決でもしたんだが」
まあ王子は俺が死ぬから自殺をしないと宣言する点では悪いやつではないが。
「お嬢ちゃん、俺は建国とかしない。だから見逃して!」
「でもアンタの首を差し出さないと私の一族1万人が死ぬ!」
「どうしよう」
「知るか」
「いいことを思い付いた。ねえお嬢ちゃん、お兄さん達が人質にとった奴を倒してあげるから旅の仲間になってよ」
「なにを勝手に……で、その敵の名は?」
「首謀者はラミーのユノだっていってた」
「ラミーは暗殺者一族の名門ラマーの分家にあたる……多分そいつを倒しても更に上の指揮官がいるだろう」
しかし、いまこのクソガキを始末しても蛆虫が沸く事に変わりはないな。
「しかたがない……王子、行きますよ」
「えマジでいくの?」
「アンタがいったんじゃない」
「その場しのぎのつもりだったんだけど」
「はあ!?」
「うるさい黙っていろ貴様等」
「え、等?」