魔女の林檎 一話
今日は南エリア:トロカピアンの第一王子であるオレ、アドゥゲル=チョージュクの誕生日だ。
「アドゥゲル王子よ!」
「おめでとう王子~!」
民はオレの生誕19年目を祝福している。
「みなのもの、余の為に集まってくれた事、感謝する」
パレードは滞りなくすみ、城に戻って記念パーティーだ。
「さて、眷国マージンから取り寄せたトースタァとやらでフランポーネパァン焼きでもするか」
毒殺が怖いのですべて自分でやる。
バターを塗ろうと思ったが、このバターに毒が入っていない可能性もなきにしもあらず。
「だれか、バターを毒味しろ」
皆パーティーの支度でオレに構う暇はないらしい。
ああ、わかっていたさ。オレが王子なんじゃなく王子がオレなんだとな。
「あーお腹すいたなー」
「お前黒魔女だな、丁度いいところにきた。このバターを舐めてみろ。どうせ黒魔女なら毒でも死なないだろ?」
「え、あなた白魔男?」
「なんだお前、オレ……余をしらぬか?」
「そのゴテゴテに冠、まさか王子?なんでキッチンいんの?うけるー」
品のかけらもない女だが、上級美人の部類には入る。金髪ではないのでどちらかが美の国・ヴィサナス人なのだろう。
「ところでお前は誰だパーティーに参加するのか?」
まあこの女はたんなるパトロンの付き添いかなんかだろう。
「あたしはサルヴィリアナ。まあ気楽にサィアって呼んで」
「無駄に気取った名だな、黒魔女らしいといえばらしいが」
「そのパン食べるの?」
「ああ、塩が輝いて上手そうだろう?」
「やめといたほうがいいわよ」
「なぜだ?」
「キラキラした毒がついてる」
「oh……」
バターよりまずそちらがヤバイというのは残念だ。
「あ、そうだわ。お腹がすいてるならこの林檎あげる」
「お前が姫を毒殺する魔女か!」
「あんた王子サマだから大丈夫でしょ」
「どんな理屈だ」
まあ黒魔女なら毒でも死なないとかオレも言った。
「魔女の師匠に貰ったの」
「お前が食えばいいだろう」
「あたし林檎嫌いなのよね。あ、この葡萄食べていい?」
「ああ、今朝方に庭師が果樹園から摘んだものだ」
「おいしー」
あの魔女は毒がわかるのか、たんに危機感がないのか躊躇なく葡萄を食らう。
その姿に敬意を表してまあ林檎に毒はないと信じたい。
「わざわざ手で剥かずとも魔法で皮を向けるだろう」
オレは林檎の皮をくるくるとむく。別に林檎の皮をむく魔法ではない。
たんに浮遊魔法で林檎を浮かせ風魔法を調節しているのだ。
「私、こんなかっこうしてるけど魔法からっきしなのよねー」
「ローというやつか」
魔力にたよらないと誇りを持つアラビン人の一部は制御装置で拒絶している。
それとも事なり、生まれついて魔力が無いものが希にいるという。
魔法を使えないのと使えるのに使わない奴。その辺りを分別せずにローと蔑むのだ。
逆に死者蘇生ができる高位魔導師はハイと呼ばれる。
もちろんオレもそれだが滅多にやらないし、一度もしていない。
蘇生にかかる一定の魔力を貯められ、尚且つ周りの些末な人間から命を奪える力があるか否かが判断基準なのでやりたければできる事なのだ。
「そうそう」
「しかし、大した差には感じないな」
毒味魔力というのはない。毒は堕落した悪魔により人間へもたらされた科学、及び錬金術の産物であり自然エネルギーの摂理に反するのだ。
「林檎ってずっと噛んでるとスルメみたいに味なくなって飲み込めないのよ」
「はあ、よくわからんな」
あれか、ドジッ娘メイドが好きな奴と嫌いな奴の差みたいなもんだろ。
「で、パーティーはいつから?」
「夕方からだ」
■■
パーティーが開かれる時間となり、会場に向かう。
「殿下、このたびはおめでとうございます」
隣接エリアのチャイカから招かれたピーティチ=ヘミングロピン公爵。奴は我が国のサミングリコ公爵家次女オアニアとの政略結婚が決まっている。
彼女は夢魔族であり、仏門たる我が国を堕落させるので体よく厄介払いできるわけだ。
「アドゥゲル殿下、この度はおめでとうございます」
隣接するヨウコクの第2王子ブランズと、パートナーと護衛を兼ねたような女がいる。
「ダノエア」
「あ、先輩」
どうやら王子の護衛とヘミングロピン公爵は知り合いだったらしい。
しくじったな、彼女の婚姻先はチャイカの公爵よりヨウコクの王子にすべきだった。
ヨウコクの第二王子は後妻の子で、その兄は前妻の子だ。
つまり後を次ぐのは第二王子、独身で女の尻にしかれる頼りがさそうな雰囲気がある。
初めて実際に会った公爵のほうは得体が知れず。マジでチャイカのバーブル的な資産につられてミスった。
今からでも手堅いほうにしておきたいのでどうにかヘミングロピン家から婚約破棄しないもんか、でも無理なんだろうなあ。
仕方がないので別の公爵家からでも見繕うか、そうしよう。
「はあーいハピバ王子」
「サルヴィリアナか」
着てくるのは真っ黒なドレスかと思いきや、濃い緑だった。
「ちょっと貴方、殿下に失礼よ!」
「そーよそーよ!!」
こいつらはきっとヨウコクから次期王のオレの妃の座を目当てにやってきた貴族令嬢だろう。
「それにドレスの色!」
「緑を着るのはバロビニアン家しか許されないのよ!」
なに意味わからん因縁つけてんだこいつら。たしかに魔導一族には家色というのがあるが、それは魔導家の会議で出身家を色分けしているだけだ。
そもそも一般民にはそんなルールはないだろう。
「ちょっとあんた達、よそでみっともない真似すんじゃないよ」
「ご、ごめんなさいダノエア様」
「私達殿下のお目に止まりたくて……」
言い訳すんなうぜええええ!
「それは愉快ですね」
ジュグ帝国の眷国スリープス大公の子息アリアン。病弱ときいていたが薄幸そうで気難しそうな少年だ。
「そこの彼女を排除したところで殿下が貴女方を目にする事はないというのに、実に浅ましい」
「あ、あんまりですわ」
「うう……」
二人の令嬢はそそくさと去る。
「」