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そして目覚めて 1

その日は突然やってきた。


まず、空を飛ぶ鳥たちの姿が消えた。

国のあちらこちらから聞こえていた動物たちの鳴き声が消え、我先にと足を走らせ王都から、国からと離れていく姿を見た者もいた。


人間だけが、いつもと変わらない日常を信じて疑わずにいた。


王都の上空、雲が消え青いだけの空を見せている。

その中心に7つの人影を見る事が出来た者は何人いたことだろうか。



「おはよう、アデライト。」

「はぁ。これでようやく国に帰れるな。」

「国に残してきた加護が枯渇する前に帰ることが出来るね。」

「次に会うときは、サキも一緒に。」


5つの影が異形の姿に変わり、それぞれの方角へと飛び立っていく。

それは、このセイル王国を中心にした近隣諸国を守護する聖獣たち。

五年という時間、彼等は同胞であるアデライトの暴走を抑える為に費やしていた。それは、

永きを生きる聖獣たちにとっては瞬きの時間といえるが、彼等が慈しみ約束を交わす人間にとっては短いとは言えぬ時間だ。ましてや、幸せに満ちた時間ならば短くも感じたのかも知れない。だが、そうではない。この五年は、年々目減りしていく守護聖獣の加護、それが気象の変化や災害などによって民の末端に至るまで目に見えて理解出来てしまう、そんな不安を抱え込んだ時間だったのだ。

何時、守護聖獣が戻ってくるかも分からない。守護聖獣がもたらす安穏とした国しか知らない民達は今か今かと、守護聖獣の帰還を待っていた。

後、ほんの少しもすれば、自国の守護聖獣が上空を飛ぶ姿を拝み歓喜の声を上げる様子が各国で見る事が出来るだろう。



「アディ」


飛び去ることなく残っているのは、長く美しい白銀の髪を垂らし地上を睨みつけている女と、黒髪を頭の後ろで結ぶ男だけ。

女の名はアデライト。かつては、このセイル王国に守護を与え繁栄をもたらしていた聖獣だ。つい先ほどまで同胞達によって抑え込まれ眠らされていた彼女は、足下に広がる街を睨みつけ、特にその中心にそびえる城に憎悪を向けていた。

そして、アデライトは階段を降りていくかのように、一歩一歩と地上に向かって歩み始めた。

そんな彼女に声をかけるのは、隣国シーグを守護する『角持つ黒狼』シグルス。彼は只一人、国に戻ろうとせずにアデライトの背中をジッと見つめていた。


「さっさと国に帰れ。」


「つれないことを言う。…ちょっとは俺に顔を向けてくれてもいいんじゃないか?」


だが、それもまた懐かしい。

シグルスは口元に薄っすらと笑みを浮かべた。

その程度ではシグルスの喜びは表せれない。だが、大きく喜びを表現して背中を向けているアデライトにバレてしまえば機嫌を損ねてしまうだろう。

そうなれば、また長い時間、顔どころか姿さえ見せてくれなくなるだろう。

5年の間、動かぬ姿を見るだけで声も表情も、アデライトの朱色の目を見ることも出来ずにいたシグルスにはもう、そんな事は耐えられない。


「迷惑をかけた。悪かった。」

「そういう事じゃないんだけど?」

ゆっくりとした足取りで降りていくアデライトをシグルスは追う。その背中から目は離そうとはしなかった。


一歩、アデライトが足を下ろす。

すると、雲ひとつない真っ青な空から雷が数本降り注いだ。

雷はその全てが王都に建ち並ぶ建物を撃ち、炎を立ち上らせた。


また一歩、アデライトが足を下ろす。

地面を舐めるように広がる強大な炎から悲鳴を上げ逃げ惑う人間達が足をつける地面がドンッという地響きと共にひび割れ落ち窪んだ。


アデライトが王城のバルコニーに足を下ろした時には、街からは逃げ場を失った者達の絶望に満ち溢れた悲鳴と怒号、そして問い掛ける声が、響き渡ってきた。

何故。

どうして。

もう終わったのでは無かったのか?

シグルスの耳には、そんな疑問の声が聞こえてきている。

アデライトの耳にも届いているだろう。

だが、アデライトは一切顔色を変えることもなく、バルコニーから城内に入ることを遮る窓を、足を一歩踏み出すことで破壊し、城内へと進んでいく。


何故。

-守護を与えてくれる聖獣を怒らせたから。

どうして。

-他国の聖獣を拘束しているくせに他国を脅かす行いをしたから。

もう終わったのでは無かったのか?

-終わるわけが無い。この国は消えなくてはならない。そうしなければ、アデライトの、シグルスの可愛いサキが何時までも中途半端な状態のままになってしまう。


シグルスは笑った。






「あれ?」

「どうしたの?」

サキと手を繋いでいたデュークが突然声を上げて首を傾げた。

そして、隣に立つサキの顔を覗きこんだ。


デュークは、あの日からサキに執拗な程触れるようになった。

何処かへ行くのなら手を繋ぎ、暇さえあれば抱きついたりもする。

それは、まだ元の姿に戻らないサキに対して怖くないと伝える為だった。

そんな事必要ないとサキは言い続けているのだが、笑顔で却下されている。


「手が温かくなった。」


「デュ、デュークがずっと触ってるからでしょ。」


「そうじゃないって。」


デュークは手を放し、サキの頬に触れた。

すると、サキの青白い顔に少しだけ赤みが生まれ、デュークの手には自分の物ではない温もりが伝わってきた。






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