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祟り姫は恋をして 5

冷たい

体中が痛いくて冷たい

頭がフラフラする




「アデライト!」


あぁ、貴方のことを覚えているよ、文官さん。

聖女が会いに来た時に一緒にいたね。

私のことを殴って帰って行った姿を覚えているよ?あの頃のことはあまり覚えてないことが多いけど、貴方に殴られた時にどれくらいぶりか覚えていないけど、久しぶりのご飯がダメになっちゃったんだ。だから、よく覚えてる。


貴方は聖女に色々な話を聞いていたよね。お腹が空いて頭もぼんやりしてたけど、中庭で聖女の話を聞いている貴方達の姿を見たことがあった。その時は何だっけ?あぁ、そうだ。『ミンシュシュギ』『ギカイセイ』『キホンテキジンケン』だっけ。そんな話をしていたよね。これで貴族も平民も皆が幸福な国になる。そう言って喜んでいたよね。

世界で一番平等で繁栄した国が生まれる。

聖女がもたらす知識があれば、古き聖獣など不要だ。

そう言ってたっけ。

本当に嬉しそうに笑っている貴方達の姿を、私は憎くて憎くて仕方が無く見ていたんだよ。


「何をしている!早く『祟り姫』を倒しなさい!!」


可哀想。

ほら、騎士達は私が近づくだけで怖がって逃げたそうにしているよ?

私に向けている剣の先が震えているよ?

貴方はそうやって後ろに下がって命令しているだけなのに、騎士達にはそれを許してあげないの?それが平等というものなの?

貴方達が聖女の力を借りて作る新しい世界なの?




「痛い」


カッコいいね。さっきまで震えていたのに、強い目になったと思ったら騎士の剣が私を切りつけてきた。普通に歩いて近づいていたから、胸の辺りを切られたみたいだ。

痛みを感じた。

あらら、と思って見下ろしたら、服が綺麗に切られてた。

痛い、痛い。痛いなぁ。


「それは嫌い。」


「なっ!?」

ふふふ。驚いてる。そりゃあ、驚くよね。剣がボロボロになって消えてなくなったら。


鉄は嫌い

その冷たい感触で私は首を失ったから


「ぎゃあ!!」

痛い?私も痛かったよ。


人の手が嫌い

何度も何度も殴られた。


「や、止め…!!!」

どうして。私もそう言ったけど、止めてくれる人は居なかったよ?


人の足が嫌い

何度も何度も蹴られたから。


「死ね、祟り姫め!!」

そんな遠くじゃ寂しいよ?もっと近くで話をしたいよ。

3年間、私はずっと一人で冷たい塔の中にいたんだよ?


この国の人間が嫌い

私が死ぬ時笑ってみていたから






村人たちの間を通り抜けて前に進んだサキは歩みを止めることは一度も無かった。

振り下ろされる剣はボロボロと褐色に変化して僅かな風の中に崩れ落ちていった。

武器を失い、拳を突き出してくる騎士の手は、サキに触れる直前にドロドロと異臭を放って地面に落ちていった。ボトッという不気味な音が地面で立ち、そこには異臭を放って土の上に留まる粘液の塊があった。

「止まれ!」

「やめろ!」

「助けてくれ!」

そんな声も次第に消えていき、最期には悲痛な叫び声だけがサキの周りで起こっていた。


サキは近くにある全て腐らせた。草も土も風も、サキがいるというだけで澱んで見えた。

そして王都から意気揚々にやってきた文官も、騎士たちも、その重厚だった甲冑の褐色に変化した一部を残して消えていた。


「サキ」


誰かが、サキの名前を呼んだ。

騎士達の体だったものが崩れ落ちていくのを静かに見ていたサキが、ゆっくりと村人達のいる背後を振り返った。

ビクビクと体を震わせ声を失う。

青褪めた顔で倒れそうになっている。

一歩後ろに下がり意気を飲んでいる。

様々な反応を村人達はしていたが、その全ての目が振り返ったサキを見ていた。


その目は、恐怖する者たちの目だった。

サキはそんな目を幾つも見た事があった。


「…ごめんなさい。」


サキはただ、謝った。






名前を呼ばれて、悲しい気持ちになった。

振り向かないでも分かった。

私は、もう此処にはいられないんだ。

だって、私は『祟り姫』。それを知られてしまった。もう、皆の笑顔を見る事は出来ない。もう、皆の優しい声を聞く事は出来ない。

この国は嫌い。でも、この村は、村の人たちは大好きだ。だから、この村に祟りを落とそうだなんて思わない。でも、思わなくても駄目だよね。

今の私は、災いを起こすことしか出来ないんだから。



あの日。

あの、私が死んだ日。

私は人では無くなった。






・・・・・・・・・・・・・・・・・


サキ。私のサキが泣いてるわ。




おはよう、アディ。

そうだよ、また君の可愛いサキを彼らは泣かせているよ。


今度は止めねぇよ。

思う存分やればいい。


そう止めないよ。存分に君の権利を行使して構わない。


これで私達も帰ることが出来ますね。私達の守るべき場所に。


帰る前に、あいつをぶん殴っていこうか。


さぁ、終わりの始まりだ。

もう、助けてはやらないよ。彼らは僕達の国にまで災いをもたらし始めたんだからね。

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