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祟り姫は恋をして 4

もぅ、放してよ

だぁめ


サキとデュークの二人が、手を繋いで村の中を歩いていた。

デュークは、ニコニコと笑顔を振りまいてサキを引っ張って歩き、サキは恥ずかしそうに顔を真っ赤にしてデュークと接している手にダラダラと汗を流して着いて行くしかなかった。

そんな二人の姿を遠巻きにした村人たちは、顔にニヤニヤと笑いを浮かべて仲睦まじい二人の様子を見守っていた。


「何してるの?」


目を向けながらも遠巻きにしているだけの大人たちを不思議に思い、好奇心の強い子供たちが二人の下に集まってきた。そして、素直に持った疑問を投げ掛けてくる。

興味を持っていた村人たちは、聞いていないように自然を装いながら二人にジリジリと近づいていった。その怪しい動きにも、子供たちに話しかけられた時から顔を真っ赤にして地面を凝視しているサキは気づかなかった。

「練習だよ。」

「練習?」

笑顔のままのデュークの返答には、子供たちだけでなく、聞き耳を立てていた大人たちも首を捻った。それは、どんな答えを返してくるだろうと予想を立てていた大人達にも予想外のものだった。

「サキがまだ人に触るのが怖いっていうからね。その練習。」

首を傾げる光景に、デュークが答えを明かしてくれた。

それは、きっと酒場での事がきっかけだったとデュークは言った。サキがカリンを膝に乗せる時の一悶着の事だと近くのテーブルに座っていたものたちは納得がいった。


そういえば、サキがこの村に来たばかりの頃にもこんな光景があったよな。

と誰かが言った。

サキが村に来たばかりで、そして人には触っても大丈夫だと気づいてすぐの事。今回のように、デュークはサキと手を繋いで動いたりしていた。大丈夫だと、サキと村人たちに知らせる為だと数日間サキを連れ歩いていた、手を繋いだまま。

だけどな。

そんな声が続いた。

でも、その言葉も続きは誰からも出てはこなかった。

誰もが分かっていたのだ。

"あの時とは、サキもデュークも纏っている空気が違う"と続くことを。


「ヒロさん。ヒロさん。」


その時、丁度森から帰って来たデュークの友人で何度も家に遊びに来ていることから、サキとも仲が良くなったヒロが二人の前に現れた。

サキはその姿に気がつくと、ヒロならばデュークの手を離してくれるかも知れないと名前を呼んで助けを求めた。

「朝からずっと離してくれないの。危ないかも知れないって言ってるのに。」

「あぁ、まぁ」

「危なくないよ。これまで何も無かっただろ?こうやってれば、誰と触れ合わなくてはいけなくなっても躊躇わなくなれるよ。」

デュークは余計な口を出すヒロを睨みつけ、サキには優しく言い聞かせた。

そして、サキの手を握る力が増していった。

「でも。」

「いいから。」

それでもなお制止の声をあげるサキをまた引っ張り、デュークは歩き出していった。

「ほら、このまま散歩の続きだよ。何処に行こうか。」

「もう、いい。恥ずかしいから家にいる。」

どう頑張っても離してはくれないと分かったサキは、声を大きく早口のようにして家に帰ろうとデュークの腕を引いた。

「それじゃあ、楽しくないだろ。」

サキの力ではデュークの腕も体もピクリッともしなかった。そして、デュークは家に帰ろうという気はなく、サキの抵抗など無視して前に進もうとする。

「ほら。」

サキは顔を真っ赤にさせたまま必死に抵抗するが、ズルズルとデュークに引き摺られていった。その間も、帰る帰らないと言い合うよう二人の姿に、勝手に巻き込まれ、勝手に放置されたヒロはガクリと肩を落としていた。

「もぅやだ。あのバカップル。」

こんな光景はデュークの家では何時ものことだ。頻繁に出入りしているヒロはそう分かっていても、独り身の男として声を漏らさずにはいられなかった。

それは、ヒロの他にも遠巻きに見ていた若い男たちからも溜息と共に聞こえてきた。


いちゃいちゃとする出来たての恋人同士のようだ。

若者達だけではない。まだ何も分かっていない子供を覗いた村人たち全員がそう思っている。気づいていないのは、サキとデュークの二人だけだった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


おぅおぅ青臭いなぁ

むず痒いぜ


そんなものを感じることは今は無いはずだけど?

だけど、そうだよね。なんとも気恥ずかしいもんだ。

ましてや、親しいものとなるとね。


まぁそう言わずに。

彼女には幸せになる権利があるのだし。

いや、幸せにならないと。これ以上は騒ぎと事態はゴメンだよ。


だけど、あいつが動いた。

また、余計なことを人間に吹き込んだよ。

本当に、見捨ててしまおうよ。


もう、それしか無いのかもな。

少なくとも、この国は。

いや、アデライトが目覚めたら終わるのは決まっているけどね。


アディ

早く起きてよ。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


それは、ある日のことだった。


朝から、森が騒々しくザワついていた。

それは森と生きる村人たち全員が気づいていた。

いつもなら森に入って木の実を収穫したり、獲物を狩ったりしている時間になっても、村から誰一人出ようとはしなかった。




ザッザッ



たくさんの足音を最初に聞いたのは、村の外れの井戸に水を汲みにいっていた子供だった。

「お父さん、お母さん。たくさんの人が来るよ。」

そう言って家に駆け込んだ。両親は村の中を走り、そのことを村中に知らせてまわった。


デュークと一緒に、家の外で薪を作っていたサキもその声を聞き、その頃には足音の他にも多くの人が動いていると分かる喧騒が全員の耳に届くようになっていた。



村に住む者は皆集まれ!!!


見知らぬ大きな声が村中に響き渡った。

「国王陛下の命により来た。」

そんな声も聞こえた為、村人たちは慌てて声の聞こえた村の入り口へと走っていく。

村人たちが動き出す中、サキは立ったまま動かずにいた。

数歩先に進み、サキが動いていない事に気がついて振り返ったデュークは、反応を示さないサキを横抱きに抱き上げ、村人たちが集まる場所に連れて行った。

いつもなら、そんな事を人前ですれば怒るサキが何の反応もなく運ばれている。

それだけで、デュークは何か悪いことが起こるんじゃないかと胸騒ぎを覚えた。



「これで村人は全員集めました。」

そう村長が言えば、こんな辺境の森の中では一生見る事が無かったゴテゴテとした重装備の鎧を身に纏った数十人もいる騎士達を率いた、汚れ一つない白いローブを纏った文官が口を開いた。

「『予言の聖獣』が、『祟り姫』アデライドがこの村に逃げ込んだと予言が降しました。世界を壊そうとしている恐るべき化け物です。再び動き出す前に息の根を止めねばなりません。

すぐに身柄を差し出しなさい。」


そんな事を言われても。

そんな顔が村人たちを覆った。


「そうですか。『祟り姫』を庇うのですか。なんと恐ろしい村だ。

まぁいいでしょう。国王陛下の勅命があります。

『祟り姫』が触れたものなど、汚らわしく、危険である。それが何であろうと、全て焼き払え。それが陛下の御命令だ。」


文官の顔が顰められ、村人たちの呆気に取られた反応も、その後すぐに起こった反論なども耳には入れず、率いてきた騎士達に命令を下して後ろに下がっていった。

そして、騎士達は迷いのない動きで抜刀し、弓矢を構えた。


「どうなってるんだ、一体。」


サキはデュークの背中の後ろにいた。

不穏な空気を感じ、剣が鈍く光る様子と引き絞られる弓を見て、デュークが咄嗟にサキを背中に庇おうとしたのだ。


「……相変わらず屑だな、あいつらは。」


「サキ?」


デュークは背後から、聞いた事もないようなサキの低く重苦しい声が聞こえ驚いた。

だが、振り向けなかった。

体が思うように動かなかった。



「あ、アデライト!!!?」


その声は、騎士達から聞こえてきた。

「いたぞ!アデライドだ!!!」


「何を言っているの。この子はサキよ。アデライドなんて名前じゃないし、まだ子供よ。」

弓が引き絞られ、真っ直ぐサキを睨みつけて剣を騎士達は向けた。

恐怖に固まっていた村人たちが慌て、逃げるのではなくサキとデュークの前に立ち塞がっていった。その光景を始めはいぶかしみ、そして村人の叫び声と行動に怒りを露にした。

「不敬な。サキは王妃様の御名だ。その名を語るなどと、何処まで『祟り姫』は穢れているのか!!」


「違う。間違えているのは私じゃないもの。」


その声は冷たく、頭の中をグチャグチャにかき回すような不快な音だった。


「サキ。」

「ごめんね。ありがとう。」


重さなどないような動きで、サキはデュークを追い抜かし、村人たちの間を通り抜けていった。その間、誰一人動くことが出来なかった。


サキの後姿は青白く、そして見慣れているサキよりも少し背が高かった。


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