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皇帝のおしごと。  作者: 五十鈴 りく


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[68]帰ろう

 教主はイナミさんが監獄へ放り込んで来るって言って連行された。

 ……日々の暮らしや先のことに不安があるのはみんな同じ。

 不満を誰かにぶつけたいのも同じ。

 キリュウはクスリと笑った。


「私は皇帝だからな。頂点に立つ以上、反乱分子が常に存在してしまうのは仕方のないことではある。心は自由だからな。開き直るわけではないが、万人が納得するということは困難を極めるのだ」


 それでも、キリュウはより多くの人に納得してもらえるように悩むんでしょ?

 そんなにも大事な国を、やっぱり諦めちゃいけないよ。

 たとえあたしがいなくても――。


「キリュウのお仕事はすごく難しくて大変だね」


 あの冠の宝石の意味を知った今となっては、より強くそう思う。

 でも、キリュウはもう覚悟を決めたみたい。


「そうだ。けれど、私は皆に支えられている。だから、心配は要らない」


 ズキ、と胸が痛んだ。

 それでも、キリュウは言う。


「それでは、行くか」

「あ……」


 あたしが声をもらすと、キリュウは苦笑した。


「もう危険はない。私が送って行こう」


 異界の門のある七宝の森まで。

 そう、今から帰るってことだ。

 ずっと、この時を待ってた。家族や友達に会える日を。

 でも――。


 あたしが返事をするよりも先にハトリおねえちゃんが言った。


「フゥちゃんの服、あたしの部屋にあるの。あたしたちも一緒に行くね」


 ノギおにいちゃんもうなずく。そうか、この二人は七宝の森の秘密を知ってるんだった。


「う、うん。ありがと」

「私も行こう」


 ヤナギさんがそう言ったのは、キリュウを心配してのことかな?

 見送ってくれるのは嬉しいけど。

 そうなると、ここで先にお別れって人たちがいる。もう行っちゃったイナミさんも。

 クルスさん、アズミさん、皇太后さん、セオさん、イルマさん、それから、クレハさんにユズキさん。

 クルスさんはにっこりと、でもちょっと寂しそうに言った。


「じゃあね、フゥ君。残念だけど。ほんとに残念だけど」

「うん、ごめんなさいクルスさん。色々とありがとうございました」


 いっぱいからかわれて、最後には騙されたけど、気さくに話しかけてくれて嬉しかったな。

 アズミさんもくしゃりと顔を歪めた。


「フゥさん、私もあなたと過ごせて楽しかったわ。ありがとう」

「こちらこそ、お世話になりっぱなしでごめんなさい。ありがとうございました」


 いつも優しくて、面倒見がよくて、お城でのあたしのよりどころだった。ヤナギさんと上手く行くといいな。

 そして、皇太后さん。キリュウによく似た笑顔でそっと言う。


「どうか、どこにいても幸せでいてね。それが陛下のためでもあるから」

「はい。ありがとうございます」


 キリュウはそっと目を伏せた。本当は皇太后さんともっとゆっくり話したいことがいっぱいなんだと思う。

 こんなにも想ってくれるお母さんで幸せだね。

 セオさんとイルマさんはよく事情が飲み込めていないみたいだったけど、あたしがここを去ることだけは理解してくれた。


「あら、せっかく仲良くなれたのに残念だわ。でも、フゥちゃんのこと忘れないから」

「忘れたくても忘れられないよな。じゃあ、元気で」

「ありがとうございます。あたしもお二人のこと忘れません。イルマさん、元気な赤ちゃんが産まれることを祈ってますね」


 セオさんのお店、これからも繁盛するんだろうな。だって、セオさん抜かりないもん。

 そういえば、イルマさんの奥さんってどんな人なんだろ? 会ってみたかったなぁ。後、これから産まれる赤ちゃんにも。

 最後に、あたしは少し離れた場所にいるクレハさんとユズキさんに目を向けた。隣のキリュウが少しだけ気を引き締めたのがわかる。クレハさんは悲しそうにあたしに目を向けた。


「さよなら、なんだね?」


 あたしは精一杯笑ってみせた。


「はい。クレハさん、あたしの一生のお願い、聞いてもらえますか?」

「……ああ。君には謝らなければならないことばかりだからね」


 と、クレハさんはつぶやいた。あたしはその言葉に甘える。


「じゃあ、キリュウをよろしくお願いします」


 隣でキリュウが顔をしかめた。そういう顔しないの。


「今よりもう少しだけ仲良くしてあげて下さい。こう見えて、結構大変なんですよ」


 クレハさんは苦笑する。本当に、笑うしかないといった顔だった。


「確かに、大変だね。わかった、君とキリュウがそれを望むなら」


 だって、よかったね。――だから、そういう顔しないの。


「えっと、クレハさんの笛の音、好きでした。あの音を大事にして下さい」


 クレハさんは笛の音ね、とぼやいた。クレハさん当人が好きとは申し訳ないけど言えない。

 ちなみに、ユズキさんの視線はノギおにいちゃんの方を向いていた。あたしには興味の欠片もないみたいだ。うん、それはそれでわかりやすくていいけどね。


 さあ、別れは済んだ。済んじゃったよ……。

 ――帰ろう。


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