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皇帝のおしごと。  作者: 五十鈴 りく


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[62]城を目指して

 あたしたちは翼石ウィングラピスの力を使って一気にお城へ飛んだ。

 キリュウのいる最上階じゃなくて、まずはヤナギさんを助けることから始める。だって、ヤナギさんは大事な戦力だから。

 万が一を考えて、退路も確保するんだって。翼石ウィングラピスを使えない状況だってあるかも知れないから、走って逃げる道をね。……イナミさん、いざとなったら走れるのかな?


 城の中庭に着地すると、あたしは何か嫌な空気を肌で感じた。

 しばらく暮らした城なのに、すごく嫌な感じがする。キリュウが保ってる清らかな空気じゃない。

 心がざわりと不安に揺れる。それを必死で振るい落した。


「あー、駄目だなこれ。急ぐぞ」


 ノギおにいちゃんがそんなことを言う。あたしと同じものを感じたみたい。

 急がなきゃいけないのは事実だから、みんながそれぞれにうなずいて駆け出した。

 先頭はノギおにいちゃん。少し遅れてイルマさん。次にあたし。ハトリおねえちゃんとセオさん、最後はやっぱりイナミさん。……シンガリだとか言うのかな? もう息が上がってるよ。運動不足だ。


 城内に駆け込むと、エントランスには官吏の格好をしているくせに、何か油断のならない顔付きをした男の人たちがいた。先頭のノギおにいちゃんは、足を止めて身構える。

 最後尾のイナミさんに気付いてその人たちは顔を歪めた。


「おや? イナミ様、このように不審者を引き連れて、あなたも謀反ですか?」


 肩で息をしているイナミさんに代わってノギおにいちゃんが吐き捨てる。


「何が謀反だ。お前ら教団の人間だろ。どんなに嫌でも皇帝はアレなんだから、この国で生きて行こうと思うなら我慢しろよな」


 フォローなの、それ?

 すると、その中の一人がキッとこちらを睨み付けて押し殺した声で言った。


「この世界には本来神がおわしたのだ。それが、ただのヒトが神を名乗り出したせいで神はこの国を見限られた。あの偽りの神である皇帝を排し、真なる神に祈りを捧げねば、この国は滅んでしまうのだ。何故それがわからない?」


 この人たちは真剣だ。真剣にそう信じてる。

 宗教は信じることから始まる。信じることがすべて。

 こうなってしまったら、言葉なんて通じないんだ。

 でも、ノギおにいちゃんは全身全霊を賭けて口にしたと思われる言葉に大爆笑した。……一番されたくないリアクションを選んでるよね?


「ハラよじれるっての。もういいか?」


 うわぁ、そこまで言う!?

 ほら、すんごい怒ってる! 顔色どす黒くなっちゃったよ!


「神を愚弄する不逞の輩が――!」

「いや、神じゃなくて愚弄されたのはお前らだ。お前らは自分の境遇に不満があるだけで、それをキリュウのせいにしたがってるようにしか見えないぞ」


 ノギおにいちゃん、これ何かの作戦なの?

 それとも、ただ言いたいこと言ってるだけなの?

 あたしがハラハラと見守っていると、教団関係者はポケットから何かを取り出した。そこから光が漏れて口もとから呪文がこぼれる。あれは触媒だ。


 あたしがそう気付いた瞬間には、すでにノギおにいちゃんは彼らの頭上にいた。そのまま、ぐしゃ、とそのうちの一人を踏み付ける。イルマさんも背中の剣を抜いてた。その赤く光る剣に傷付けられると、集中が切れたのか呪文は途切れた。傷は浅いけどね。

 ノギおにいちゃんはうっすらと光る拳で殴り付けて気絶させると、最後の一人だけ残して締め上げた。片手で胸倉をつかんで吊るしてる。足、浮いてるよ。ほんと細いのに怪力だなぁ。


「キリュウとヤナギはどこだ?」


 簡単に答えるわけがない。そう思ったけど、そうでもなかった。


「こ、皇帝はテラコッタで教主様と会っている。宰相ヤナギと皇太后もそこに……」


 よっぽどノギおにいちゃんが怖かったんだね。かわいそうに。

 ノギおにいちゃんは満足したのか、その人を下ろしたかと思ったら、そのまま投げ捨てた。その人は壁に体を打ち付けて倒れちゃった。……ノギおにいちゃんってば乱暴。


「ノギ、もっと手加減しなくちゃ駄目じゃない。自分の力、わかってるでしょ」


 ハトリおねえちゃんが注意すると、ノギおにいちゃんは不敵に笑ってかわした。やれやれといった風にハトリおねえちゃんは溜息をつく。


「……ねえ、要人はみんなテラコッタに連れて行かれたみたいだけど、それ以外で抵抗した人も城内にいるんじゃないかしら? きっとどこかに監禁されていると思うわ」


 セオさんが言うと、イナミさんはうなずく。


「ああ。だが、今はキリュウ様のもとへ駆け付けることが先決だ。城内のことは各地の領主方に応援を頼んでおこう」


 確かに、教団の狙いはキリュウなんだから。ヤナギさんがいないなら尚更早く駆けつけなきゃいけない。

 そこであたしはようやく気付いた。


「ところで、クルスさんは?」


 そう言えば、クルスさんの居所がよくわからない。この大事な時にどう動いてるんだろう?

 すると、イナミさんはスッと目を細めた。


「クルスも向こうにいるだろうよ」

 

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