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皇帝のおしごと。  作者: 五十鈴 りく


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[61]準備しよう

 翌朝、あたしはセオさんのおっきなベッドでハトリおねえちゃんと一緒に目を覚ました。すでにセオさんはいなかった。

 お店かな? ぼんやりとそんなことを考えていると、セオさんはあたしとハトリおねえちゃんの服を持って来てくれた。


 もちろんあたしのはセオさんの服じゃない。ごめんなさい、身長差ありすぎて着れません。

 セオさんはわざわざ別に用意してくれたみたい。肩出しふんわりシフォンのチュニックに、動きやすそうなショートパンツ。

 ハトリおねえちゃんは――。


「あなたはこれでいいでしょう?」


 手渡されたのは、ざっくりスリットの入ったチャイナドレス風の衣装だった。セオさんの服だ。ハトリおねえちゃん、これ着るの?


「脚! もうちょっと隠れるのにして!」

「いいじゃない、出しておけば」

「これから戦うのにめくれるでしょ!!」

「いいじゃない、めくれても」


 あっさりとそんなことを言うセオさんだった。

 うん、よくないと思う。


「仕方ないわねぇ」


 セオさんは面白くなさそうにクローゼットを開いて他の服を物色する。スリットが入っていないワンピースを選んで差し出してくれたけど……結構短いよね?


「これならめくれないでしょ。時間ないんだから、あんまり我がまま言わないの」


 有無を言わせないセオさんの笑顔が、ちょっと怖かった。ハトリおねえちゃんも観念したようで、はい、と項垂れてそれを受け取った。わー、ミニスカだ。ハトリおねえちゃんスタイルいいしきっと似合うよ。……なんて、慰めにならないかなぁ?



 着替えたあたしたちが部屋から出ると、そこには男性三人の姿があった。イルマさんとイナミさんは多分事前に服を持ち込んでた。ノギおにいちゃんの着ている服はイルマさんのかな? シンプルなシャツに黒いパンツ。男の人はそんなに変化ないよね。


 ノギおにいちゃんはハトリおねえちゃんの服装に一瞬目を疑ったようだった。イルマさんがヒュウと口笛を吹く。なんかノリが軽いな。

 ノギおにいちゃんの視線が下に行って、それから上に行って、もう一回下に行った。で、セオさんを睨む。うわ、すっごい凶悪な顔付き!


「おいコラ、お前の服着せんなよ」

「いいじゃない。意外な一面が見れてよかったわねぇ」

「よくない……」


 そうつぶやくハトリおねえちゃんが出かける前から疲れて見えた。ご愁傷様です。

 決戦前だって言うのに緊張感のない一同に、イナミさんが大きく咳払いする。


「教団を一網打尽にするにはまず、あの教主を押えねばならぬ。……が、ヤツにはクレハ様とユズキ様が付いている。ユズキ様は私やハトリ君が押さえ込めるが、問題はクレハ様だ」


 みんながそれぞれにうなずく。

 クレハさん……か。


「あたしが説得した方がいいの?」


 できる気はしないけど、そんなこと言ってられない。それしかないと思った。

 けれど、イナミさんは首を横に振った。


「君は安全な場所にいなさい。クレハ様はノギとイルマに任せる。セオはサポートだ」

「面倒ばっかり押し付けやがって」


 ぼそ、とノギおにいちゃんはぼやいたけど、イナミさんはスルーした。

 セオさんはテーブルの上に置いてあった金庫のような宝石箱のような箱に手を伸ばす。


「ハトリ、触媒は足りてる?」

「ひと通りはそろえたつもりだけど」

「絶対に失敗できないんだから、念のためにいくつか強力なものを渡しておくわ」


 魔術のもとがないと魔術師のハトリおねえちゃんやイナミさんが優秀でも戦えない。セオさんはお店から色々と役立ちそうな触媒を物色して来てくれたみたい。

 そして、イナミさんにもうっすらとエメラルドグリーンに輝く鳥の羽根のようなものを手渡していた。あれも触媒なんだ?


「イナミ様、これを」

「ああ、『風読かざよみ鳥の羽根』か。気が利くな」

「ありがとうございます」


 と、セオさんは優雅に微笑んだ。

 これで準備万端?

 ちなみにあたしだけお留守番ってことはないと思うんだけど、あたしは何したらいいんだろ?


「あたしにできることってあります?」


 試しに訊いてみたら、イナミさんは鼻で笑った。


「無事にキリュウ様とお会いすることだ」


 ああ、そうかも。

 あたしは苦笑してうなずいた。


「昨日から私もキリュウ様との接触を絶っている。こちらの状況をお伝えしたいのだが、教団に嗅ぎ付けられては意味がない。上手くおびき寄せ、潰してしまわねばな」


 イナミさんがそう言って髭を撫でた。そんなイナミさんにハトリおねえちゃんはぽつりと言う。


「キリュウ様は城にいれば安全なはずですけど、ひとつだけ心配なんですよね……」

「うん?」

「フゥちゃんのことが心配で、気配の途切れたテラコッタに単独で向かわれたりしないかと」


 気配が途切れた?

 その言葉であたしはようやく思い出した。キリュウがあたしの気配を察知できるのはあのチョーカーがあってのことだ。クレハさんに外されたあの時、キリュウはあたしの身に何かが起こったことを感じたのかな?

 だとすると、行動を起こしたりしてるの?

 イナミさんは少しだけ目を閉じると、静かに言った。


「キリュウ様は皇帝であらせられる。それを誰よりも強くご自身に言い聞かせているお方だ。そう軽はずみな行動は取られぬよ」


 そう、だよね。

 ちゃんと綿密に教団に対応する策を立ててる……よね?


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