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皇帝のおしごと。  作者: 五十鈴 りく


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60/73

[60]立て直し

 あたしたちはノギおにいちゃんの力でやっと地上に戻った。やっぱり地上はホッとするなぁ。海の底なんてもうこりごりだ。

 ノギおにいちゃんが上がったのは岬の上じゃなくて、もっと低い浜の方。そっちに回り込んだみたい。


 それにしても、薄暗くなった海は不気味だ。

 あたしがぶるりと身震いすると、ノギおにいちゃんはずっとまとっていた白い光を消した。そうして、ふぅと息をつく。暗いせいもあるかも知れないけど、すごく疲れてる気がした。


「フゥちゃんの身柄は確保できたから、今度はキリュウ様ね。でも、ノギも少し休まないと」


 ハトリおねえちゃんが心配そうにノギおにいちゃんを見る。やっぱり、すごく無理したんだ。


「一度戻るぞ。対策練らないとな」

「うん」


 ノギおにいちゃんは翼石ウィングラピスを使って戻るみたいだ。ここは使用ポートじゃないけど、そんなこと言ってられない。皇帝であるキリュウの一大事なんだし。ポートから飛ぶと追跡されるって言ってたもん。

 あたしは酔わないようにちゃんと心構えをして、それから二人と一緒に飛んだ。



          ☆ ★ ☆



 でも、その出現先はノギおにいちゃんの家じゃなかった。どこかの町の使用ポート。

 ローシェンナやテラコッタじゃない。あたしが来たことない場所。

 もう夜だからか、あんまり人はいない。静かな公園みたいな場所。


「え? ここ、どこ?」


 あたしがキョロキョロしていると、ハトリおねえちゃんが答えてくれた。


「バーガンディの町。あたしたちの住む家から一番近い町よ」


 あの森のそばの家じゃなくて、ここに来たのはなんでだろう?

 その使用ポートから出て、あたしは二人と並んで歩く。

 色とりどりの煌びやかな街灯が並ぶお洒落な街角。ロマンティックな眺めだけど、今はそれを気にしている場合じゃない。キリュウ、大丈夫かな……。



 二人があたしを連れて来てくれたのは、一軒のお店だった。レンガ造りのレトロモダンな二階建てのお店。看板が出てるけど、あたしには読めないよ。

 明かりが漏れるその店の扉にノギおにいちゃんが手をかける。ガランガランってドアに付いてるベルが鳴って、奥から飛び出して来た人にあたしは見覚えがあった。すらりとしたあの脚線美は!


「あ! セオさん!」


 あたしが呼ぶと、ノギおにいちゃんとハトリおねえちゃんは意外そうにあたしを見た。


「なんだ、面識があるのか」


 あたしの代わりにセオさんが答えてくれる。


「ええ。あたしが陛下に教団のことをお伝えに行った時にね」


 そう。あれからだ。それまではすごく穏やかで幸せに過ごせてた。悲しいけど、ちゃんとお別れができたはずだった。

 しんみりとしたあたしに、セオさんはそっと言った。


「大変だったわね。でも、あたしたちも裏で動いているから、みんなで乗り切れるわ」

「はい……」



 ビン詰めにされた羽根とか石とか、不思議な商品がきっちりと整頓されて並ぶ明るい店内を抜け、あたしたちはセオさんの部屋に通された。そこもまたモデルルームみたいに生活感のない、きれいすぎる空間だった。でも、セオさんってセンスがいい。クッションひとつとってもお洒落だ。

 ただ、室内の様子よりもそこにいた人たちにあたしはあんぐりと口を開けてしまった。


「イナミさん!!」


 思わず駆け寄ると、あたしは椅子に座っていたイナミさんに突進した。突進するつもりはなかったんだけど、無事な姿を見たら嬉しくて抱き付いてしまった。

 イナミさんは目を白黒させてたし、みんな唖然としてたけど。船旅で距離が縮まったと思ってたのはあたしだけじゃないよね?


「ああ、まあ、君も無事でよかった。陛下もこれでひと安心だ」


 硬い声だけどそう言ってくれた。

 で、もう一人いた。


「そっか。やっぱり君のことか」


 そう言ったのは、いつかの暴漢――違う、確かイルマさんだ。金髪の軽薄そうな顔だけど、実は愛妻家で奥さんが身重だっていう。そうだ、このイルマさんはノギおにいちゃんの知り合いだった。ここに来てみんなが繋がる。


「……ねえ、イナミさんがここにいるってことは、キリュウには誰が付いてるの? クルスさん? それともヤナギさんが解放されたの?」


 すると、イナミさんは重々しくうなずいた。


「キリュウ様に付いているのはクルスだ。ヤナギは拘束されたままだな。教団にとってはヤナギをキリュウ様から引き離すことが第一段階であったのだ。さぞ動きやすくなっただろう」


 そうだ。ヤナギさんみたいに有能でキリュウから信頼されてる人がいたんじゃどうにもならない。

 でも、ヤナギさんが教団と接触したなんて、ありもしない事実をどうやってクルスさんに信じ込ませて動かすことができたんだろう?

 そんなあたしの疑問にイナミさんが気付いてくれた。


「要するに、城の中に教団の間者がいるということだ。それがはっきりとせぬから、表立って兵を使うことができず、このような無法者を使うしかないという状況だ」


 ノギおにいちゃんがケッと吐き捨てる。でも、協力しないとは言わなかった。



 でも、なんだろう。こんなにも頼りになる人たちがそろってキリュウのことを助けようとしてくれてるのに、あたしはそれでも不安を感じてしまった。

 何かがいけない。悪い予感がする。

 ……根拠なんてないよ。女の勘、かな。


 勝負は明日。

 ちゃんと体を休めて、それからだって。教団にここの存在は知られていないと思うけど、今は散り散りになるのは危ないから、みんなセオさんに泊めてもらうことになった。


 ノギおにいちゃんとイルマさんとイナミさんでひと部屋。

 あたしとハトリおねえちゃんとセオさんでひと部屋。

 ――なんだかノギおにいちゃんとイルマさんの顔が物言いたげだけど、なんでだろ?


 イナミさんと一緒っていうのが緊張するのかな。イルマさんは奥さんが不安がってないか気になるのかも知れない。イルマさんが留守の時はいつも実家にいるらしいけど。

 とにかく、今はゆっくり寝て、明日に備えなきゃ。


 キリュウは大丈夫だと思うけど、ヤナギさんと皇太后さん、アズミさんのことだって助けなきゃいけないんだから。

 

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