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皇帝のおしごと。  作者: 五十鈴 りく


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[51]教団

 そんな翌日、クルスさんから報告が入った。さすがに仕事が早い。


「ヘレシィ教団?」


 あたしが執務室で首をかしげると、クルスさんはいつもの飄々とした様子ではなく真面目な顔をしてうなずいた。


「そう名乗っていたらしいのですが、その一派の布教活動が村で確認されました。教主らしき男は四十代後半くらいだったという話なのですが」


 でも、キリュウはこの国を穏やかに治めてる。国民はキリュウに反感なんて持ってるのかな?

 一生懸命に民を想うキリュウに、みんなは感謝していないんだろうか。

 ――あたしだったら、感謝していたかな? そう考えて、不安になる。


 直接会ったこともない雲の上の存在に、日々を感謝なんてしない。毎日生きることに必死で、この生活が誰によって守られているかなんて考えない。国民は、小さな世界にいる。家族や、小さな町の中がすべてだから。

 嫌なことだけ、自分たちとかかわりのない大きなもののせいにする……。

 キリュウは、落ち着いて報告を受けていた。


「そうか。その教主とやらは魔術師か?」

「はい。おそらくは」


 キリュウは、ふむとつぶやいた。


「特に非魔術師である民たちにとって、その声は救いであるように思えたのだろうか?」

「え?」

「この国は、魔力によって格差が存在する。こればかりは努力で覆せるとは言いがたい。生まれながらにその格差を決定付けられているのだから、不満を抱かぬわけもない」


 その言葉に、みんな驚いたような顔をした。


「けれどそれは致し方のないことで……」


 とっさに答えたクルスさんに、キリュウは厳しい目をして言った。


「それは、私もお前も高位の魔術師であるからこその意見だ。持たざる者が納得することではない」


 そうだね。

 キリュウはそこにもちゃんと目を向けて、真剣に考えていたんだ。

 あたしはそんなキリュウを励ましたいと思って口を開いた。


「ねえ、それならキリュウがそうした人たちが満足する国にしなくちゃいけないってことだよね。だったら、どんな人にも負けちゃ駄目。そうでしょ?」


 三人の宰相は唖然としたけれど、キリュウは笑った。あたしの言葉を心強く思ってくれたのかな。


「ああ、そうだな」


 少しでも力になれたのなら嬉しい。あたしも笑って返した。

 危ない話をしている割に和やかになった部屋の空気を、イナミさんが野太い咳払いで追っ払った。


「……とにかく、このまま調査を進めるとしましょう。まず、キリュウ様にまつろわぬ者を警戒すべきでしょうか?」


 イナミさんの言葉が難しい。え? どういうこと?

 すると、ヤナギさんが渋い顔を更に渋くしてつぶやいた。


「まさか……クレハ様を?」


 仲が悪い人を警戒しろってこと?

 じゃあ、ノギおにいちゃんも? ――ううん、違う。仲良くはないけど、恩があるって言ってた。

 警戒しなくちゃいけないのはクレハさんの方かな。


 そう考えて、あたしはちょっと寂しくなった。

 クレハさんはあたしのことを気に入ってくれてた。笛の音色もきれいだった。

 キリュウとの相性は最悪だけど、特別悪い人じゃない。


 ――って、あたし、何を決め付けてるんだろ。何もクレハさんがその教団とかかわりがあるなんて証拠が出たわけじゃない。いくらキリュウのことが嫌いだからって、そんなにも大それたことに手を貸すなんてこと、ないよね。


 でも、もし敵に回ったらきっと厄介だ。クレハさんはキリュウに次ぐ魔力を持ってるって言ってた。

 そんなことにならないといいなとあたしは祈らずにはいられなかった。

 多分青ざめていたあたしのことをちらりと見遣ると、ヤナギさんは言った。


「君をこの場に呼んで話を聞かせた理由はわかっているな?」

「身辺に気を付けろ、ですよね?」

「そうだ」


 前にも言われた。あたしがキリュウの弱点になるから、十分に気を付けてなくちゃいけないって。

 あたしだって、キリュウの足を引っ張りたくはないから、そんなことはわかってる。外出もしないし、この城の中で大人しくしてる。

 とにかく、物騒なことにならないといいな。


 早く落ち着いて……あたしが帰る頃には大丈夫になってるって信じたい。

 帰ると思うと胸が痛いのは、もう仕方がない。

 痛みを抱えて、それでも帰るってあたしとキリュウで決めたんだから――。



 そうして、そのすぐ後にキリュウにもたらされた情報は、あたしの祈りがまったく届いていなかったっていう証拠だった。

 ローシェンナ領主クレハさんとその妹のユズキさん。

 まさか、あの二人との連絡が途絶えて居場所が特定出来ないなんて――。


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