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皇帝のおしごと。  作者: 五十鈴 りく


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35/73

[35]先がない

 ――朝だ。

 隣でキリュウが身じろぎする。絡み付いた腕は、結局そのまま。

 あたしは全然落ち着かなかった。寝たような寝ていないようなだるさが残ってる。

 小さくひとつため息をつくと、あたしは少し強めの口調で言った。


「ねえ、そろそろ起きたら?」


 その途端、キリュウはびくりと体を強張らせた。一度だけ腕の中のあたしのことを確かめるように力を込めて、それから慌ててあたしを引き剥がすような動きをした。


「な……」


 と、声を漏らして飛び起きる。

 もしかして、昨日の最後の方のことをよく覚えていないのかな。

 寝ぼけていたのかも。真剣に驚いている風だった。


「いきなりあれはないと思うな」


 あたしも体を起こしながら寝不足の不満をぶつける。

 キリュウは今までに見たどんな時よりもうろたえていたように思う。


「……私は、何かしたのだろうか?」

「何かって?」


 あたしがそう訊ね返すと、キリュウは口ごもって、それからため息をついた。


「その分だと心配は要らぬか」


 ボソ、とそんなことを言う。心なし顔が赤いような?

 変な体勢だったし、体のあちこちが痛いんですけど。

 とは思うものの、そこは言わずにおいた。

 うろたえていた姿がいつもの偉そうな姿とは違って、少しだけ可愛く感じられたから。

 なんて考えた自分に気付いた瞬間に、あたしは自分を叱るように強く頭を振っていたけど。



 解放されたあたしは部屋に戻った。

 まだ早朝だ。ちょっとだけ寝直そう。

 バフ、とベッドに倒れこむと、昨晩のことが頭をよぎる。


 キリュウが、あたしに対して好意を持っている。

 信じられないような気もするけれど、そこは信じないと話が進まない。


 ――ただ、その気持ちは開きかけの蕾みたいなもの。

 ほんのりとした、微かな気持ちなんじゃないのかな?

 前に、キリュウには好きな人がいるって聞いた。あの時、アズミさんは肯定的な物言いはしなかったけど、本当のところはどうなんだろう?

 キリュウにちゃんと確かめてないからわからない。


 そういう人がほんとにいたなら、キリュウは心が揺れているってことなのかな。

 あたしを選んでほしいとは思わないけど。 


 今のうちに冷静になってほしい。

 冷静に考えてみれば、キリュウにも色々なことが見えて来ると思う。

 あたしはいずれ自分の世界に帰る。ずっとここにいるわけにはいかないから。

 そうしたら、別れが来る。

 あたしが仮にキリュウを好きになったとしても、あたしたちには先がない。


 ひと時の美しい思い出にってこと?

 別れが来るってわかってて、なんで好きになるの?

 好きになっちゃいけないって思うと、余計に惹かれたりする?


 ――あたしは、そんな悲しい恋は嫌だな。

 キリュウのことが好きとか嫌いとか、そういう気持ちよりも先に構えてしまう。


 でももし、キリュウがあたしをもとの世界に帰してくれる気がないとしたら?

 その考えに行き着いて恐ろしくなった。

 帰す気がないなら、別れる日なんて考えなくていい。そういうことなのかな。


 思えば、帰してやるなんてひと言も言っていない。

 ただ、あたしがもしここに一生いたとしても、キリュウは皇帝で、あたしは素性のわからないただの人間。

 皇帝のお相手は、それ相応の身分の人じゃないと駄目なんでしょ?

 それとも、皇帝にはたくさんの側室が必要なのかな?

 あたしをその中の一人にってことなのかな?


 考えれば考えるほどに苦しくなる。

 どうしたって遠いのに。

 あたしは、キリュウのために全部を捨てられない。

 後悔するってわかってる道を選べない。


 だから、キリュウのことを好きになんてならない。

 キリュウのせいじゃないけど、あたしたちはそんな風に軽い恋ができるような状況じゃないんだから。

 あんまり困らせないでよ――。

 

 あたしには戸惑いが強くて、頭の整理が付かなくて、結局二度寝もできなかった。

 

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